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じゅんかつ

さんぽの帰り、歩道で自転車の傍ら、呆然と立ち尽くす少年と出会った。

なんとなくきになったので、「どうかしましたか?」とわたしは声をかけた。
「横断歩道までは自転車が動いていたけれど、ここまで来て急に後輪が動かなくなって…」と少年は言った。淡々としていたけれど、困っている様子だった。彼の自転車をみると、自転車のことが全く詳しくないわたしでも、錆びていて動かなくなったことがみてとれるくらい、赤茶色にチェーンが錆びて動かなくなっていた。前輪は動くため、わたしはサドルを持つのを手伝い、後輪を浮かせて一緒に学校まで行くことにした。

色々話を聴いていくと、学校で友だちと遊ぶ約束
をしているから向かう途中、急に自転車が動かなくなってしまった。家の人は今は留守で、友だちと約束しているから行かない訳にはいかないとのこと。
学校に到着すると、「あれ、どしたの?」、「この人誰?」とわたしをみつめながら少年の友人たちが4~5人自転車を囲んだ。学校の入口付近で車も出入りしていた。友達の一人が「端に寄って!車来るよ!」と隅の方へみんなを誘導した。その隅の方では傍からただ、様子を伺っている子もいた。
状況を彼の友人たちに話すと「どうしよう、先生呼ぼう!」、「保健の先生に聴いてみる?」、「うちすぐそこなんだけど、家に自転車なおせるものが、ないの…」と、困っている友だちのために、あれこれ案を出し合う姿に、ただただ凄いなぁと感心してしまった。自転車をなおすのに、保健室の先生という発想も、愛らしいなぁとも感じた。

わたしは、家に自転車用の潤滑剤があることを思い出した。急いで帰宅し、潤滑剤をもって再び学校を訪ねた。すると、彼らは「あっ!来た!」と待ってくれていた様子だった。自転車の少年のそれまでこわばっていた顔が、ふと、ゆるんだ。なおるか、なおらないのか、わからない。けれど、少年のほっとする表情に、よかったな、と感じた。
すでに、学校関係者の方がチェーンに油を挿して対処していたけれど、思うように動かない様子。潤滑剤を挿すとき、「手伝う!」と言って少年の友人の一人がペダルを回すと、錆びてガチガチだったチェーンが回った。みんなで「やった!」と叫んだ。
わたしが帰る時、少年だけでなく、みんな口々に「ありがとうございました!」と、頭を下げいた。傍からみていた、おそらく少し警戒していた子は、わたしの目の前まで来て、きもちを伝えてくれた。

みんな、じぶんのことのように少年のことを喜ぶ姿に、わたしは、たまらないきもちになった。

彼らに、「教える」ことなんて、あるのかしら。
彼らから、まなぶことが、圧倒的にある。
そう感じる出来事だった。


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