美容室に行ったら美容師が美容師やめたがってた

美容室が苦手で、行きつけの美容室というのがなかなかできません。

美容室の何が苦手かというと、色々ありますが、その筆頭は正面にある鏡です。
美容室に行くということは、自分は「髪が切りたい」状態であり、最も風貌がもっさりしたときなわけです。その状態でオサレな店内でキラキラした美容師さんに接せられると、「仕事なのはわかってるんですが、だとしてもこんなもっさりした人間が飛び込んできてすみません」という気持ちになるのです。それに追い打ちをかけてくるのが正面にある鏡です。鏡は客のためでなく、美容師さんのためにあることは重々承知しています。だとしても、あの大きな鏡が、ひどくみっともない自分の姿を堂々と写し出すのはなかなかにクるものがあります。

後は、美容師さんの感じも苦手です。上記の、鏡に難癖をつけているような自分とは、大体遠く離れたタイプの人間というのが美容師をやっています。
私も生きてきて、固定の美容室に通っていたことがほぼないので、なかなか多くの美容師さんと話してきたと思いますが、とにかく明るいタイプの人が多い印象があります。これももちろん、お仕事故の営業トーク、というのもわかります。でも、その営業トークが苦手なんです。洋服屋さんだと避けられますが、美容室だと担当してもらっちゃってるんで避けられません。後私自身が、話しかけられると結構ちゃんと喋るタイプの人間なんですが且つ人間不信でもあるので、なんだかんだ色々喋って、喋ったあげくに結局疲れた、ということがよくあります。

余談ですが、私の姉は様々な職業の人とお付き合いをした経験があり、そんな姉曰く「美容師は美容師やってるオンの状態がベストだから、オフで会っても下がるところしかない。営業トークに慣れすぎててプライベートで喋っていても上っ面な会話だけで終わって全く面白くない」と言っていました(全国の美容師さん本当にすみません、一人の女が一人の美容師と付き合っただけで言ってるめちゃくちゃ個人的且つ偏見満載な意見です。私は姉のボロクソな悪口が好きなので、いっそ面白いな、と思うので書くんですけど)。


そんな中、先日また初めての美容室に行ったところ、過去に出会ったことがないタイプの美容師に会ってしまったのが表題です。


見た目は長髪にラフな服装で、わりと美容師っぽい美容師。と思いきや、挨拶して、カットやカラーの相談をした後に始まったのが、資格試験の話と勉強の話。しかも美容師全く関係ない部類のやつ。「このパターン今までなかったな」と思いつつ話を聞いていると、特に最近は法律を学ぶのにハマってると嬉しそうに言うので聞いていたらめちゃくちゃ詳しい。かみ砕きつつも論理的な説明をしてくる。

その後気づいたんだけどその論理的な説明、カットやカラーの内容について話しているときにも引きずってて、「しもの田さんの場合はつむじから見て眉毛の9対1の箇所で切るのがセオリー的に云々~~Q.E.D.証明終了」みたいな感じで提案してくる。
ちなみに私の顔面や身長的にはボブが似合うらしいんだけど、私の髪質的にはロングが向いてるらしくて、現在のミディアムヘアは中途半端で最も良くないですよプププと笑われた。知らねえよ今から切るか伸ばすかしかねーじゃねーか、「セオリー的にはそうなんですよ」と言われても……。

などなど、世間話でも髪の話でもめちゃくちゃドストレートに話してくるため、私は好奇心で色々話してみたくなっちゃうけど、これ人によってはもしかしたら怒られるタイプの美容師かもな~などと思っていたら、その自覚はあるようで、「俺のことダメな人は本当にダメで、二度と来なかったりしますね~」と言う。
一方で、その美容師的にも苦手なお客さんのタイプがあるという話になる。苦手な客の話を客にしていいのかよ……と思ったんだけど、私が読んでいる女性誌に載っていた、スナイデルとかマーキュリーデュオっぽい、所謂モテカワフェミニン女子を指さして「例えばこういう人は……俺がうまく喋れなくなっちゃって困ります」と言う。その日全身GU且つだぼだぼ~ゆるゆる~な格好だった私は、その瞬間ももちろん普段もモテカワフェミニン女子とは対極にいるような存在のため、なんとも言えない気持ちでいたら、「こういう人たちってほら、美容の話とかしそうじゃないですか……俺美容の話できないので……」と言う。えっあなた美容師では?「こういう人たち絶対髪の話とかもしてくるじゃないですか。コテの巻き方とか絶対俺より詳しいし」えっあなた美容師では?「ちなみに俺今日全身ユニクロです」聞いてないけど私は全身GUだからちょっと安心したわ。

挙げ句の果てには、「法律とか不動産とか。人生で役に立つ知識が好きだし学んでいきたいし、ぶっちゃけ美容師は将来的に不安定なので資格取ったら辞めたいっす」とか言う。

なんで私は美容師辞めたい人に髪切られてんだろう……あんたさっき「もう数ヶ月伸ばした後にまた長さ見ていくのがいいと思います、そのときはまたセオリーちゃんと教えます」とか言ってたじゃん……次に行ってもあなたがいなかったら私は何セオリーに従えばいいのよ……と考えては頭を抱えつつも、「まだしばらくはいるので大丈夫です」と次の資格試験の日程とそれに受かった場合のその後の歩みについて教えてもらった。
「じゃああれですか、次予約して指名したらもしかして迷惑ですか?」と聞いたら、「いえ、それは嬉しいです。単純にインセンティブもあるので」とまたもやドストレートに答えられる。

などというところで、ああ、私次もこの人のところに髪切りに行こうとしてんじゃん、と気づいた。
純粋に腕がいいというのもあるんだけど、この美容師っぽくない美容師辞めたがってる美容師にちょっと興味がわいてしまったのだった。

その後も法律の話と不動産の話と哲学の話とビジネス書籍の話をして、美容の話は最低限(メニュー内のみ)だった。
特に不動産については将来的にも宅建取得などを考えているからか詳しくて、全国の土地価格の上がり方や今後注目の土地情報など色々順序立てて教えてくれた。

帰りに代金受け取りながら、「本当なら、美容師というか、店の経理責任者とかやりたいっすもんね……俺の方が絶対店長より向いてると思うので」などと言っていた。

なんだこいつと思いながらも、うん、多分また来ます、と言い残して帰った。
美容室、苦手だけど行かなきゃならないし、たまに面白いことがあるので嫌いじゃないです。

別件だけど、友人が美容室に行く度に「お仕事何されてるんですか」という質問に毎回アドリブで嘘の職業を演じてるって話聞いてめっちゃ面白そうだなと思いました。この美容師には通じない(すでに多少答えてしまった&相手が何かと様々な分野に強くて嘘を突き通せるか不安)ので、また別の美容室でやってみたい。「探偵です」とか言ってみたい。

もっと書きます。