【140文字SS×3】「炬燵」「ドーナッツ」「リセット」

「炬燵」
おばあちゃん家の掘り炬燵から落ちる夢をみたことがある。落下した先は柔らかい床で、見上げると、「天井に窄んだ口みたいに小さな穴があって、袋のような形に広がってる」頷き、はっとして振り向くと父は真顔で、何処か遠くを見たままぽつりと呟いた。「知恵袋って、知ってるか?」

「ドーナッツ」
ドーナッツの真ん中を食べれば幸せになれるという噂を信じて、近所の揚げ物屋のおばちゃんに詰め寄った。おばちゃんは油で汚れた割烹着を手ではらいながら、「大人になったら自然と見つかるさ」と言った。大人になっても透明の環は見つかっていないが、今は嫁と子どもがいる。

「リトライ」
生まれたときから背中に備え付けられたリトライボタンは、一生に一度だけ押せるらしい、と物心ついたときには知っていた。借金を苦にして押したと噂される父は、今は僕の父親ではない。そして父が消えたのを追うようにして押した母は、やっぱり僕の母ではなくなった。次は、僕の番。

もっと書きます。