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せんすい島とすうちゃん

「ゼェゼェ!ごほ!ハァハァ!……苦しい!もうこれ何度目…ハァハァ!もういい加減にして…」
下駄箱で膝に手を置いて下を向いて息を整えようとしてると
当の本人のうーちゃんは手を頭の後ろで組み
「あーあ、本当にカメもすうも体力ないなー!もうちょっと頑張れよ?」
「…💢。」
私はうーちゃんの言葉に一瞬ムカとしたが、それより横で倒れてるカメちゃんが心配だ…
カメちゃんを見ると
そこには見事にひっくり返った甲羅が…
どうやらカメちゃんは甲羅の中に入ってしまっているようで様子が分からない私は心配になりカメちゃんの甲羅に近づいて
「ハァハァハァ!…カメちゃん?…カメちゃん大丈夫?」
聞くと甲羅の中から手が出て来てゆっくりと手を振った。
…たぶん?大丈夫っていいたいんだろう…。
私は取り敢えずひっくり返ったカメちゃんをどうにか元に戻そうとカメちゃんに近づくと、うーちゃんが
「俺も手伝うぞ!」
カメちゃんをこんな状況にした諸悪の権現なのに…
「ほら、カメ大丈夫か?そのままだと遅刻するぞ!ほら!すうやるぞ!」
「うん、いちに!うんしょ!」
2人がかりでカメちゃんを元に戻すとカメちゃんは甲羅の中から真っ青な顔を出してフラフラしながら立ち上がった。
「うぅ…ありがとうねすうちゃん」
カメちゃんのお礼の言葉にうーちゃんが
「おいおい!カメ俺も手伝っただろうが!」
文句を言うとカメちゃんがプイと顔を横にして
「うーちゃんには言いたくない!絶対に嫌!」
「は?何でだよ!俺のおかげで遅刻しなく済んだだろう!」
「!あんなに全力疾走しなくても!絶対学校に間にあった!見て!あれ!」
カメちゃんの指さした先にはゾロゾロと登校してる子達が居る。
それを見てカメちゃんがうーちゃんに文句を言ってると、それに気付いた子がカメちゃんに駆け寄り
「あれー?カメちゃんうーちゃんすうちゃん!おはよう!どうしたの?今日は凄く早いねー!」
カメちゃんも私も黙ってうーちゃんを見た。
そうなのだ…あまりにも早く走ったからいつもより早く学校に着いてしまったみたいなのだ…。
どれだけのスピードが出てたんだろうか…恐ろしくて考えたくない…ゾッ!
そう言う事で遅刻どころか学校に一早く来てしてしまってるこの状況…。
私達がうーちゃんを睨むとうーちゃんは横を向いて吹けもしない口笛をふいて誤魔化してる…。
朝から本当に…疲れた。
これから授業を受けるられるかな…
「カメちゃん…取り敢えず教室に行こう?」
手を差し出すとカメちゃんも疲れた顔で笑い
「…うん、ありがとうすうちゃん行こう…」
私の手を握り一緒に階段を登って教室に向かった。
その後ろをうーちゃんが
「ちぇー!俺頑張ったのにさー!」
と言うとカメちゃんが後ろを振り向きもう一度うーちゃんを睨んだ。
するとうーちゃんは誤魔化す様に
「俺一番乗り!」
と私とカメちゃんを抜いて教室に走って行ってしまった。
私とカメちゃんが顔を見合せて苦笑して教室に入ると
「あー!来た来た!おはよう!」
一番乗りかと思ったら、もう来ている子が居たようで、教室に入った瞬間声を掛けられた。
ビックリして顔を見るとコアラの女の子がニコニコと駆け寄って来た。私は戸惑いながら
「え?あの、おはようございます。」
挨拶を返すとコアラの女の子は
「うん、おはようすうちゃん!あれ?どうしたの?カメちゃん何か顔色悪いけど大丈夫?保健室行く?」
「うん、ちょっと…でも大丈夫だよユカちゃんおはよう」
「ならいいけど…って!そうだ!私すうちゃんに相談が有るんだけど…良いかな?」
「相談?」
「うん!昨日チュー君の悩みを解決したでしょ?だったら私の悩みの相談に乗ってくれるんじゃないかって…ダメかな?」
ユカちゃんはお願いされたけど私人にアレコレ言えるような人じゃない
「えっとね?チュー君のは本当にタマタマだよ?私そんな皆の相談に乗れる様な身じゃないと言うか…あ!そうだ!カメちゃんなら?ね?カメちゃん!」
そう言い振り返るとカメちゃんは既に自分の席に顔を付けて弱々しく
「私の事は…しばらくソッとしておいて…」
そう言い目をつぶった。
「…カメちゃん…」
大丈夫だろうか、あんなに消耗して…私が心の中で心配してるとユカちゃんが恐る恐る
「カメちゃんは無理ぽいけど…すうちゃんは私の相談嫌かなダメ?」
そう言われると断り難い
「ううん、私で良かったら相談に乗るよ。でもアドバイス出来るかどうかは分かんないよ?それでもいい?」
そう言うとユカちゃんは嬉しそうに
「うん!うん!やった!ありがとう!すうちゃん!」
嬉しそうにピョンピョンと跳び跳ねるユカちゃんに
「それで?何の相談?」
とたんユカちゃんは手をモジモジさせながら
「あのね…恥ずかしいんだけど…実は私物凄い偏食なの…」
偏食?偏食って特定の物しか食べれない、食べないって事だよね?あれ?でもコアラって確かユーカリが主食だったような?動物園の飼育員さんが言ってた様だけど違ったけ?いやそれより
「偏食?」
「うん、そうなの!私ユーカリしか食べないの!」
私は心の中で、それは偏食って言うのかなと疑問があったけど、取り敢えず聞こうと
「うんうん?それで?」
聞くとユカちゃんは身をのりだし
「私!このままじゃダメだと思うの!ユーカリだけじゃなくて!もっと色んな物を食べれるようになりたいの!」
「それって…偏食を治したいって事?」
私がそう言うとユカちゃんはキラキラした目で
「うんうん!そうなの!それでね?すうちゃんはどう思う?」
ユーカリ以外の食べ物も食べたいなんて…凄い!私はピーマンが食べれないけど結局克服出来なかったから。
「私は良いと思う…けど…大丈夫なのかな?」
コアラがユーカリしか食べない理由って確かあった気がするけど…何だったけ?でも本人がそうしたいと思うしならそうした方がいいのかな…
「やっぱり!そう思う?ありがとうすうちゃん!私頑張るよ!それで…どうしたら良いかな?」
「うーん!取り敢えずユカちゃんは今何が挑戦してみたいたい食べ物はある?」
ユカちゃんは首を傾げて
「えーと、うーん?思い付かない…かな?今食べたいのはユーカリかなー」
「………。」
「………。」
「そうだよね…うん?大好きだもんね?」
「!そうなの!あのシャキシャキした食感!固い茎…そしてあの苦味の利いた葉っぱ!本当に美味しいの!今度一緒に食べる?」
いやいや、確かユーカリは猛毒だったはず、無理無理!死んじゃうよ!
「私は大丈夫かな?うん、たぶん食べたら倒れちゃう…」
「そう?美味しいのに…歯ごたえとか」
歯ごたえ?…固い茎?苦味のある葉っぱ?それは美味しいのカテゴリーから出てるような?むしろ不味いの方に入ってない?
いや?でも確かお父さんも苦い野菜食べて美味しい!美味しいって言ってたから良いのかな?うーん?
「因みにユーカリ以外で食べて見たい食べ物とかってある?」
ユカちゃんは首を捻りながら
「…そう言うのはちょっと分からなくて…」
ユカちゃんの言葉に困り
それで良く好き嫌いを無くそうって思ったなとユカちゃんを見るとユカちゃんも罰の悪そうな顔で
「だって!…皆は給食の時間…給食食べてて私だけユーカリ…だったら私も皆と同じ給食が食べれる様になれば…って」
成る程だから好き嫌いを無くそうとしたのか…でもユカちゃんの場合は好き嫌いじゃないコアラはユーカリが主食なのだから無理をすれば体調が悪くなると大変だ
「ユカちゃん?私も食べれない食べ物があるよ?」
「え!そうなの?クラスの皆も?」
「うん、きっと皆にも有ると思うよ?でも私は無理して食べれない物を治そうとか思って無いよ?」
「えー!何で?色んな物食べれるの良くない?」
「まぁそうだけど無理して食べるのは私は反対だな、それに小さい頃は嫌いでも大人になったら食べれるようになったって言う事があるらしいから」
お父さんが前に私にピーマンは小さい頃は食べれなかったけど…大人になったら食べれるようになったんだよって言ってたから
「もしかしたら大人になったら食べれるようになるかもしれないって事?」
「…ユカちゃんの場合は、そのままで良いと私は思うよ?無理して食べれない物食べるなんて絶対ダメだよ!嫌いなら嫌いのままでも良いんだよ、そりゃ食べれるんなら食べるのも有りだけど無理だけは絶対にダメ?それで…ユカちゃんは何が一番好き?」
ユカちゃんは少し悩み
「私…でも一度で良いから…甘い物食べて見たい!」
甘い物?
うーんと何かあったっけ?とポケットを探ると何かが手に当たった。取り出して見ると赤い色をしたアメが出てきた。
「ユカちゃんイチゴのアメ食べる?」
「アメ?それって甘いの?甘いんだったら食べて見たい!」
「うん!凄く甘いよ!どうぞ」
私はユカちゃんの手にアメを乗せるとユカちゃんは恐る恐るアメを手に取って
「これがアメ?このまま食べても良い?」
「うんアメの包装は取って食べてね」
ユカちゃんはアメの包装を取って口の中にアメを入れた。
途端ユカちゃんが目を見開き
「うっ!おえ!」
とアメを吐き出した。私は慌てて
「ユカちゃん大丈夫?」
と背中を擦るとユカちゃんはプルプルと
「なにこれ!これが…甘い?」
「そうだよこれが甘いって事…どうだった?」
ユカちゃんは手の中のアメを見つめ
「うーん?あまり美味しいって思わなかった…」
やっぱりそうだよね…今までユーカリしか食べて来なかったのに、いきなり甘いアメはパニックになってしまうだろう…
「ユカちゃんはこのアメが苦手でも私はこのアメが大好きなの…どう思う?」
ユカちゃんは信じられないという顔で
「この味が大好き?食べれなくはないけど…あえて食べようとは思わないかな」
「…ユカちゃん好き嫌いを無くすって、そういう物の食べるって事なんだよ?」
私の言葉にユカちゃんは真剣な顔で
「好き嫌いを無くすって…凄く大変なんだね…」
「その通りだよね、自分の好き嫌いを治すって凄く大変!だからちゃんと自分で考えよう?ユカちゃん?」
ユカちゃんの背中を擦りながら
「そっか…そうだよね…好き嫌いを誰かのせいに出来ないもんね?ごめん私もうちょっと良く考えてみるよ」
「うん、でも自分でどうにもならなくなったらお父さんでもお母さんでも他の人でもに相談しても良いんだし」
ユカちゃんの顔がハッとした顔で
「うん、そっか!そうする相談に乗ってくれてありがとうすうちゃん!」
そう言うとユカちゃんは自分の席に戻って行った。すると後ろから
「すうちゃん凄いね!」
振り向くとカメちゃんがニコニコと笑って
「あれ?もう体調は大丈夫なのカメちゃん?」
「うん!もう大丈夫だよ!それよりも!すうちゃんの事!」
「何が?」
カメちゃんは興奮した顔で
「ユカちゃんの好き嫌いの話だよ!」
成る程と私はユカちゃんの事で少し昔の事を思い出したんだよね、
「ああ、それは昔…お母さんが私の好き嫌いをどうにかしようとして…私に分からない様に料理の中に入れて、それを私が食べて蕁麻疹を出しちゃってお医者さんから無理に嫌いな食べ物を食べさせてはダメですよ!ってお医者さん言われて…お母さんが私にごめんなさいって謝って、あれは本当に大変だった。」
その後にアレルギー検査したりとして、あんな経験はもうしたくないと心の中に決めたんだっけ
「そうだよなー!嫌いな食いもんで体を壊したらダメだよな!」
とうーちゃんが…いつの間に?まぁ良いかと
「そうなんだよね、その後お母さん私にごめんなさい!って謝られたんだけど…その時のお母さんの顔が…そんな思いをユカちゃんにして欲しくないの」
「…すうちゃんのお母さんはすうちゃんに好き嫌いをなく色んなものを食べてほしかったんだろうけど…結局体を悪くしたら悲しいもんね?」
カメちゃんの言葉に私もうーちゃんも頷くと教室のドアが開いてドシンドシンとクマ先生が
「ハイハイ!おはよう!ございます!さあ、皆さん!席に着いてください!授業始めますよー!」
クマ先生の声に私もカメちゃんも慌てて席に着いた。
「クマ先生おはようございます!」
クラスの皆が挨拶すると、うーちゃんが手を上げて
「ハイハイ!クマ先生俺今日早くに学校に来たんだぜ!凄い?」
クマ先生に自慢してる…
「それは…!今日雨降りませんよね?先生今日傘持ってきてないんです。どうしましょう!」
クマ先生の一言でクラスの皆が大爆笑した。私はコッソリとユカちゃんを見た。
ユカちゃんはクラスの皆と一緒に笑っていた。
良かった。
するとユカちゃんと目が合ってニッコリと手を振ってくれた。
それをカメちゃんとうーちゃんに見られて少し恥ずかしかったけど、良かった。