マガジンのカバー画像

ゆきとシオン

61
私たちは再会を何度も繰り返す。 sarajyaの写真とシオンの言葉
運営しているクリエイター

2016年8月の記事一覧

恋花

行くこともないだろう異国の山合いの集落で。 娘たちがまだ知らぬ恋の歌を唄っている。 茶葉を一片ずつを指にとり、撚って、小さな塊にして。 彼女たちが行くこともないだろう異国のとあるテーブルの上。 娘たちが恋を知った頃、静かに大きな花を咲かせている。 芳しい香りを放って、娘たちの喜びを伝え、永遠に逢うこともないわたしを慰める。 だから大抵。 わたしは開いた花に娘たちの幼い恋を思い、冷める頃まで飲めないでいるのだ。

お菓子たち

色とりどりのジェリビーンズは舌を緑をしてしまう。 木に飾られたジンジャークッキーは硬くてボソボソで食べられたものじゃない。 子どもが作る定番のレモネードは種が浮いてるし、蜂蜜がとけないままで、ぬるくて飲めたもんじゃない。 イースターのエッグはいつも本当に食べても大丈夫なのか、心配になっちゃう。 お祭りのべっこう飴は、色んな形してるけど、どれも同じ味で。 きっとあのネズミたちが作ったカステラだって、ただの重曹くさいパンケーキに違いない。 いつか食べてみたいと思っていたけれど

いのちのぎりぎりまでを 焼き尽くすように生きたあなたは 最後の一滴を地上に落とすように 一つの経を口にして 細胞が浸食されていただろうところで微かに、それだけをぎりぎりに残して 絞り出すように、一番の旨味を一滴、この世に遺して逝った あなたの落とした一滴は雨となり川となり海となり あなたが最後に口にした経はたがためのものか、永遠にこの世を回り続ける

錯覚

迷ってるの、わたし。 本当は迷ってる、の遊びをしてるの。 見慣れた場所で、ここはどこ?と、遊んでるの。 いつしかそこが遠い世界と繋がって、わたしはすっぽりそこへ連れていかれるの。 どちらを生きてるのかわからない錯覚に目眩を覚えながら、遊んでるの。 どちらも生きてるわたしがいて、わたしがあることを知ってるの。

セオリー

細い足のグラスは指を揃えて躰から少し離した方が美しく見えるって。 そして時折指に作為的な角度をつけて、口にグラスを運ぶと美しく見えるって。 その時視線は遠くにある方がいいんだって。 オレンジジュースに酔った私がはす向かいのあなたに喋り続けた、女子用のセオリー。

drop

今夜の月は舐めかけのドロップ。 朝が近いと嘆いているのか、少し青みがかかって、ソーダ味のドロップ。 あまりに空が澄んでるから、冷たさが妨げなく届いてくる。 ドロップ好きの君にタオルケットをかけ直す明け方の少し前。

me<you

アタシ、好きでやってんの。 だから、気にしないでほしいの。 アタシ、楽しくやってんの。 だから、ほっておいてほしいの。 アタシ、アタシなりにやってんの。 だから、つべこべ言わないで。 アタシ、アタシだけでも平気なの。 だから、心配しないで。 アタシ、寂しいのも嫌いじゃないの。 だから、私のために道化にならないで。 アタシ、時々痛いだけだから。 だから、あなたまで痛くならないで。 アタシ、幸せよ。 だから、あなたも幸せじゃなきゃ困るのよ、アタシ。

微笑みの下のわたし

一番相談したいことは 一番相談したい人にできない相談で。 一番近くにいる人を 一番遠くにいさせてることに気づいてしまって。 なんだかなあって。 その瞬間が来るのが怖くて、毎日今日を見送ってしまう。

to魔女さん

魔女さん魔女さん、どうぞ教えてくださいな。 毒リンゴを残さず頂くから。 魔女さん魔女さん、どうぞ教えてくださいな。 ぐっとイイオンナになれる魔法。 ぐっとツヨクなれる魔法。 魔女さん魔女さん、どうぞ教えてくださいな。 媚薬を作るのには何がいる? イモリの干物にかえるのたまご… 本当はね。 それを叶える後押しがほしい。 後押ししてくれる、時間を送ろうと思うの。 だからとっておきのヒントを頂戴。 こういう時は必ずいいものが降ってくる。 BGMと。 衣装と。 メイクと。 あと、な

jelly

このきらめきは、またたきの 風にゆれては、立ち直す ほんのわずかのぬくみさえ 身体にまとい、身体に返し そしてその身をやつしてまでも ここにいるのと佇むこと きらめきのかぎりに

すみれ色

娘の頃はすみれ色。 誰が為に折られたか。 娘の頃はすみれ色。 淡い片は光をとおし、その後れ毛を明るく照らす。 色を備えて、下にうつむく時、触れれば壊れてしまう危うさを持つ。 やさしく手にしたつもりでいたが、薄い片には爪の跡。 濃い傷跡は元には戻らず。 誰が為に折られたか。 私はその行く末を知らぬ。 娘の頃はすみれ色。 過ぎてみれば儚くて、二度と纏えぬ、無知の色。 娘の頃はすみれ色。 誰が為に折られたか。 覚えているだろうか。 朝露に首を撫でられ、くすりと笑う春

正義のゆくえ

優しいから。 言葉を選ぶから。 我慢強いから。 怖がりだから。 守ろうとするから。 マットウだから。 見て見ないふりをして。 気づいてるのに気づいてないふりして。 時間が過ぎてくのを待ってる。 そうさせてしまった私は悪党だけど、私からの言葉を待つだけのあなたは卑怯だと思う。

home

いつかこの日も忘れてしまうのだろうか。 紫色の夕焼け。 脚にあたる波の揺らぎ。 ふざけて叫んだあなた達の声。 更けていく空の哀しみ。 遠くから聞こえてきた夜の歌声。 あなたの目に何も残らなくても。 あなたの耳に何も残らなくても。 わたしが、この空をおぼえておくから、どうぞ安心して新しい明日を迎えてください。 わたしが、この波の揺らぎをおぼえておくから、どうぞ安心していつでも帰ってきてください。 ここが、わたしが、あなたのふるさとです。

混沌

指の間からほろほろとこぼれ落ちてく。 手のひらに残るのは、溢れそうな私の混沌だけ。 捕まえても捕まえてもどこかに行ってしまいそうな気がして。 何度も何度も 泣きながら 捕まえていたいと 叫び 手で受けようとするのに 私は疲れてしまって 泣きたいのに涙もでない もう掴むことも探すことも拒まれてることを黙って見ているしかない。 私が捕まえていたかったのは 「ワタシ」 私が私でいることを忘れてしまいそうで 私が私だということも忘れてしまいそうで 本当は 私なんてはじめからなか