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すみれ色

 娘の頃はすみれ色。
誰が為に折られたか。

娘の頃はすみれ色。
淡い片は光をとおし、その後れ毛を明るく照らす。

色を備えて、下にうつむく時、触れれば壊れてしまう危うさを持つ。

やさしく手にしたつもりでいたが、薄い片には爪の跡。
濃い傷跡は元には戻らず。

誰が為に折られたか。
私はその行く末を知らぬ。

娘の頃はすみれ色。
過ぎてみれば儚くて、二度と纏えぬ、無知の色。

娘の頃はすみれ色。
誰が為に折られたか。

覚えているだろうか。
朝露に首を撫でられ、くすりと笑う春を。
小さく慎ましいその株は、切り立った岩肌にすら根を張ることを。

娘の頃はすみれ色。
悲しいくらいに美しく。

誰もがすみれ色を思い出せるのは、誰もがその美しさを手にかけたということ。
そして、その誰もがそれを傷つけた後悔を持っているということ。
そして手にしたつもりが結局手に入れられないと悟ったということ。

誰が為に折られても、その身をそのままに奪われることはないということ。



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