乳がんと診断されるまで
どうやって乳がんと診断されたのか?という経緯は、まず気になるところかと思います。治療の過程で、検査などで出会う女性の技師さんや、看護師さんと世間話をしながら採血を受けたり検査の準備をすることはよくあるのですが、その度「どうして検査に行こうと思ったの?」「どうやって気づいたの?」「検査に引っかかったあと、診断されるまで何をするの?」と質問攻めに合うこともしょっちゅうでした。また、新しく出会う先生にもカルテや診断書の整合性などを確認するために、「今までどんな治療や検査を受けたか、説明してもらえますか」なんて質問されることもあります。そんなこともあり、乳がんを疑い始めたきっかけから、実際に乳がん、という診断を知らされるまでの流れや、時間の推移なんかを書いていこうと思います。あくまである一人のケースとして、参考にしていただけたらと思います。
Noticed a lump by myself (自分でしこりに気づいた)- 8月中旬
私の場合、自分でしこり(lump)に気づきました。
確かスポーツをして汗をかきながら家に帰ってきた時だったと思います。体温の上昇もあってか胸にかゆみを感じ、無意識に掻きむしっていたら、左胸の内側、乳首の比較的近くに楕円形のものがあることに気づきました。私の場合痒みがあったけれど、調べた限り人によっては感じ方はまちまちです。基本的に痛みを感じることは無い、と書かれていることが多く、痛みも何も感じなかった、という人もいますが、中には痛みがあって気づいた、なんて方もいらっしゃるようです。
Went to see a gynecologist and referred to an imaging center for women(婦人科に行ってマンモグラム検査をすすめられる) - 9月上旬
しこりに気づいたときはびっくりして、とりあえず早く検査を受けなきゃ、と思ったのですが、しこりは100%がん、てことになるんだろうか、という疑問が浮かび、インターネットで調べてみると、私のような30代や、更に若い20代の人たちはしこりがあったとしても乳腺症とか、乳腺線維腺腫というがんとはまた違った診断を受けることが多いのだとか。今まで幸いながら健康に生きてきた私は、その時は疑いなく私もこのどちらかだと思って、検査を受けなきゃと思いながら2週間ほどほったらかしにしていました。ようやく重い腰を上げて、自分を安心させるためにも、と婦人科医(Gynecologist ガインコロジスト)の先生に予約を取り、9月上旬に診察を受けます。先生は私のしこりを触診して、マンモグラム検査を受けるようすすめてきました。近くの乳がんなどに関する検査に特化した女性向けの検査センターへ先生が検査依頼(Order)をFAXで送り、私も別に検査センターへ電話して、予約を取るように言われました。婦人科医の先生に見せたら何でも無いね、なんて言われて帰ってこれると思って診察を受けたものの、結局検査をすすめられる羽目に。何だかこれは大変なことになってきたんじゃないか、いや、でも今度の検査でこの話も終わるはず、なんて少し動揺していました。
Had a mammogram and an ultrasound test(マンモグラフィ検査と超音波検査を受ける - 9月中旬)
乳がんに関する検査に特化した検診センターで予約を取り、マンモグラフィ検査と超音波検査の2つを受けました。待合室には40代から50代の女性がたくさん検査を待っていました。30代でしかも童顔のアジア人の私は子供のように見えるのか(笑)、隣の女性が私を心配して「どうしてここにきたの?」「もし何かあっても、取っちゃえばいいんだから大丈夫よ!」「これが終わったらアイスでも食べて自分にご褒美をあげるのよ!」と励ましてくれたのです。不安な気持ちで待っていた私には本当にありがたかった。
検査後、数日で結果が出ます、とのこと。超音波検査では私が申告した左胸の他に、左脇の部分も技師さんが調べていました。検査技師さんは何も言わずに胸の大きさを調べて大きさを入力していくのですが、左脇でも技師さんが何かを発見し、入力しているのを見て、不安な気持ちがさらに高まっていきました。もしかして、私のしこりは一つだけじゃないの?本当に乳がんなの?もしかして転移もしているの?と内心ドキドキしていました。検査のあと、すぐに読影医の先生が部屋にくるから待っててね、と技師さん。結果が出るのは数日後じゃなかったっけ?と不安な気持ちでしばらく待っていると、先生が登場。やはり私の左胸と左脇に更に検査の必要なしこりがある、とのことで、しこりに針を刺して細胞を取り出す、biopsy(バイオプシー、生検のこと)という検査が必要ですよ、ということを丁寧に説明してくれました。更に検査が一つ増え、がんという病気が真実味を増してくることに不安が更に大きくなります。仕事場へ戻る帰り道、「もし何かあっても、取っちゃえばいいんだから大丈夫よ!」と待合室で話しかけくれた女性の言葉を反芻しながら、必死に心を落ち着けようとしていました。
Had a biopsy test a week after the mammogram exam (マンモグラフィから1週間後、生検を受ける) - 9月後半
1週間後、同じ検査センターで生検、バイオプシーを受けました。X線や超音波検査など患者側の準備が少ない検査とは異なり、実際に細胞に針を入れて行う検査なので、お医者さんからの術前・術後に関する細かな説明と、同意書のサインなど事前の手続きが必要です。今まで健康で特に手術などを受けたことがなかった私は、受ける説明が丁寧であればあるほど(今となってはとても感謝していますが)、ただただ心細くなっていったのを覚えています。検査は2人がかりで、超音波でしこりの位置としこりの細胞がきちんと摂取できていることを確認してくれる技師さんと、しこりの細胞を取ってくれるお医者さんの二人。胸部の表面に麻酔をかけ、針をしこりの中心に刺して細胞を取り出していく様子を見ながら検査を受けました。最後に、チタン製のクリップ(metal clip, surgical clipなどと呼ばれます。なんかものすごく小さなパチンコ玉みたいな感じ)をしこりの場所を今後特定しやすくなるように挿入し、検査は終了しました。検査後、24時間が経過したらシャワーを浴びていい、その際に傷に貼ったガーゼをはがすように、などの指示を受けて帰りました。検査の二日後、結果が出るとのこと。今まで手術など受けたことのなかった私は、バイオプシーだけで満身創痍になったような気分になっていました。
Diagnosed with cancer two days after the biopsy(バイオプシーから二日後、がんと診断を受ける) - 9月下旬
二日後、また検査センターに戻ってきました。結果を聞きに来た、と受付の方に伝えると、Nurse Navigatorと名乗る看護師さんが笑顔で私を迎えに来てくれました。彼女のオフィスに通され、座るや否や「検査の結果、がんでした。とてもショックだと思うけど、きちんと治るがんだから安心してね」と。ここまで検査は進んでいたけれど、どこかに「そんなはずはない」と思っていたからか、またこれからどうしていけばいいんだろう、という気持ちもあってか、目には一気に涙が溜まっていきました。(ちゃんとそんな患者さん向けに椅子の隣にティッシュが置いてあったのがありがたかった。笑)
ただそのあと、その看護師さんが診断レポートを声に出して読みながら、単に乳がん、と言ってもどういうがんなのか、ということを絵などを使いながら丁寧に説明してくれます。私の場合、がん細胞はすでに乳管を突き破って周りの細胞にまで広がっていること、でも左脇のしこりは検査の結果がん細胞は見つからなかったので、おそらく今の段階はステージ1という初期の段階であるということ、初期で留まればがん細胞の部分を一部切除し、放射線治療などを受けるだけで済む可能性があること、乳がんが死に至る直接の原因になることはなく、そのあと他の臓器に転移したりすることで悪化する可能性が増してくるので、今きちんと取りきることが大切なのだ、などといったことを説明してくれました。印象的だったのは、とにかく患者を安心させるために治療が最小限で済む可能性と、完治できるものだということを何度も説明してくれた、ということでした。これから始まる検査や、お医者さんたちとの診察も、目の前で一気に何本も電話をかけて予約してくれ、次の予定が一気に決まっていきます。またその一方で、家族の有無や、物理的・精神的なサポートが得られる環境が整っているかなど、治療を超えた範囲の体制まで確認をしてくれる。患者さんの動揺や不安な気持ちを少しでも抑えて、スムーズに治療に移るための工夫がいろいろなされていることに、さっきまで溜めていた涙も何処へやら、なんだかただただ感心してしまいました。
もし「がん」と診断されたら、いよいよ日本に帰ることを考えないといけないんじゃないか、とその時までは思っていた私でしたが、その看護師さんの素晴らしいサポートを受け、「もしかしたらアメリカで治療を受けるというのも、いいのかもしれない」という気持ちが湧いてきました。診断が出るまでの日々は不安な毎日でしたが、それでも救いだったのは、マンモグラムからバイオプシーに至るまで、どの検査もとても短時間で結果が出たことも非常にありがたかったです。検査と仕事で忙しい毎日でしたが、思い悩む時間が少なく済んだことは本当にありがたかった。
だいぶ長くなってしまいましたが、最後に診断までの日々の中、参考にさせていただいたエッセイ漫画の紹介です。何もかも初めての診察や検査で、次に何が待ち構えているのか、わからないのはとても不安です。しかも自分の場合、自分の母国語ではない言語で治療を受けるので、次に何が起こるのか、ということが予測できていないと困ることもあります。知っていなければならないことも理解できず聞き落としてしまったりすると、必要以上に自分に対してイライラしてしまったりもします。そんな中、水谷さんのエッセイを読むことで、アメリカと日本で国は違えど、初期の乳がんはどんな検査や治療を標準的に行っていくのか、ということを教えてもらいました。また、水谷さんががん治療に対峙する上での、心の流れを非常に正直に、率直に描いてくれたこともとても心強かった。心細くなったり、どうしようもない理不尽さや、怒りの感情が湧いてきた時も、自分だけではないと、冷静に見つめられる助けになってくれた本でした。
サポートいただけたら、がんと向き合っておられる方々の経済的な支援となる機関へ寄付させていただきます。読んでいただいてありがとうございます :)