見出し画像

音MADにおけるオケヒのような音について

音MAD Advent Calendar 2021

この記事は音MAD Advent Calendar 2021の13日目の記事です。

はじめに

最近私は「オケヒのような音」を用いて音MADを頻繁に作っている。特に意識していたわけではないが、気が付いた時には量産していた。なぜだろうか。何に惹かれたのか。そもそもオケヒとは何かよくわかっていない。オケヒのような音とは何者なのか。その真相に迫る。

オケヒのような音とは

私が個人的かつ感覚的にオケヒと似ているなと思った音の総称である。
具体的には以下のような音を指す。

「オケヒのような音」の一覧

ゆでたまご音
釣瓶(古畑任三郎) 
メガネの愛眼 
伯方の塩 
千年パズル
火曜サスペンス劇場 
感電 (のデーン!の部分) 

挙げたものはぱっと思いついたものなので、他にも大量に存在するだろう。
あと、曲が素材シリーズ  の一部の作品でも見ることができるだろう。

「オケヒのような音」の用例

用例をいくつか置いておく。 
※下2つは後で出てくるのでできれば見ていただきたい。

・Dramatic Look (Young Frankenstein - Dramatic Music)
・暴れん坊将軍のタイトルロゴがアップになるときの部分
・忍たま乱太郎OP(光Genji - 勇気100% )の最初の部分
・感電 のデーンの部分

感電のデーンの部分に関してはあまりにも強烈な音だったので、Twitter
に5本くらい投稿してしまった。

「オケヒのような音」の一般化

例示した素材の要素を一般化すると「複数の楽器の重奏、高音中音低音の成分をもつ、長めの音」といった要素が抽出される。なんか管楽器が入っているケースが多いようにも思う。

オケヒとは

「オケヒのような音」の考察をする前に「オケヒ」が何なのか説明できないレベルの理解度なので理解を深める必要がある。

世間でいうオケヒは、オーケストラで全員が同じ音を出す「ジャン!」みたいな音の総称であって特定の音を指すものではないという印象を持っている。

音MAD素材の中で登場する「オケヒ」

リサーチのため「音MAD オケヒ」でTwitter検索をしたところ、過去にみずれさんが音MAD素材になってるオケヒ音源の収集をしていた。

純粋にオケヒに該当しそうな音が寄せられていた。私が言っている「オケヒのような音」は世間(音MAD界隈)ではオケヒと認識されていないようだ。 (ただ調査が2019年なので「感電のデーン」はかなり多用されていたので今だったら含められている可能性がある。)

元祖オケヒ

オケヒは音色の総称だが、オケヒには元祖(オリジナル)が存在する。

オケヒの誕生秘話は以下の動画が詳しい。
(英語わからんので自動翻訳で見た)
The sound that connects Stravinsky to Bruno Mars 

動画は9分強あるので要約する。
要約:1979年にフェアライトCMIというDAWやサンプラーの先駆けのような電子楽器が発表された。フェアライトCMIの発明者であるピーター・ヴォーゲルは1910年に作曲され1919年に録音されたストラヴィンスキーの「火の鳥」のレコードの「魔王カスチェイの凶悪な踊り」の冒頭の部分をサンプリングした。その音を収録したフロッピーディスク(そのときの音色名はORCH2という)がミュージシャンの手に届き1982年にオケヒを最初に使った曲が発表された。オケヒサウンドはその曲を皮切りに当時の音楽のあらゆるジャンルで多用されまくることになった。

(脱線するが、元祖オケヒはオーケストラのレコードをサンプリングしているのでサンプリングを広義の音MADとしてみるなら「曲が素材シリーズ」や「○○の最初の部分シリーズ」の元祖とも言うことができるのでは?と思った。)

補足:ストラヴィンスキー『火の鳥』の「魔王カスチェイの凶悪な踊り」
の冒頭
動画の6分52秒あたり

オケヒの構成音はどうなっているか

オケヒのサンプリング元であるストラヴィンスキーの『火の鳥』の「魔王カスチェイの凶悪な踊り」をググっていたら楽譜を見つけることができた。

構成音を見ていこう。

楽譜:ストラヴィンスキー『火の鳥』の「魔王カスチェイの凶悪な踊り」

ピッコロ:とてもとても強く
フルート:とてもとても強く
オーボエ:とてもとても強く
クラリネット:とてもとても強く
ファゴット:とてもとても強く
ホルン:とてもとても強く
トロンボーン:とてもとても強く
チューバ:とてもとても強く
ティンパニ:とてもとても強く
グランカッサ(大太鼓):とてもとても強く
ピアノ:とてもとても強く
アルパ(ハープ):とてもとても強く
第一バイオリン:とてもとても強く
第二バイオリン:とてもとても強く
ヴィオラ:とてもとても強く
チェロ:とてもとても強く
コントラバス:とてもとても強く

・・・楽譜だけ見ても最強の音だ!

余談だが、ピッコロとフルートがオケヒの直前に「トゥルルル↑」という音を入れている。これを覚えておけばオケヒ通を名乗ってもいいだろう。

オケヒ前のトゥルル↑

字づらから捉えるオケヒの範疇

「オーケストラル・ヒット」について「オーケストラル」はまだわかるが、「ヒット」の動作が何をめがけて行われているか疑問だ。フェアライトCMIのウィキペディアにはこんな表記があった。

CMIによる代表的なサウンドセットとして「オーケストラル・ヒット」と呼ばれる音色が存在する。これは、管楽器を含むオーケストラの全パートが主音程をヒットさせるアンサンブルの再現であるが、実際には電子楽器を得意とする数々の音楽家や音楽プロデューサーが楽曲に使用して広く普及した。

フェアライトCMI - Wikipedia

全パートが主音程をヒットさせる

・・・そういうが、元祖オケヒの譜面をよくみると、バイオリンのように第一第二の編成になっている楽器については主音程でない音が含まれているので厳密に全ての音が主音程にめがけてなくてもいいように思える。

英語版のWikipediaのオケヒの記事には、このような表記がある。

オーケストラヒット、オーケストラスタブ、またはオーケストラルスタブとも呼ばれるオーケストラヒットは、単一のスタッカートノートまたはコードを演奏するさまざまなオーケストラ楽器の音を重ね合わせて作成された合成音です。

jpedia.wiki - オーケストラルヒット

またはコード」

・・・英語版の記事では和音を許容している。これはおそらく「オーケストラヒット」ではなく、「オーケストラルスタブ」の呼び名の意味が含まれているからだろう。「スタブ」は「曲に劇的な句読点を追加する単一のスタッカート音符または和音」のことらしい。スタブは和音を含む。

「オケヒのような音」は「オケヒ」と呼んでいよいか?


ダメだろう。

ここまで調べた時点で、オケヒに対する解像度が高まり、私が思っていた「オケヒのような音」は「オケヒ」ではないということが明らかになってきた。

「オケヒのような音」はオーケストラルではないし、主音程にすべての楽器の音程がヒットもしていないのでオケヒの要件を満たしていない。

しかし、いまだ「感電のデーンの音」とか、「暴れん坊将軍のデーンの音」とかはオケヒに近いものを感じる。ここからは「オケヒ」と「オケヒのような音」の共通点を見ていく

「オケヒ」と「オケヒのような音」の比較

元祖オケヒのサンプル元である『ストラヴィンスキー「火の鳥」の「魔王カスチェイの凶悪な踊り」の最初の部分』の音と「オケヒのような音」の代表である「感電のデーンの部分」の要素を文字にして違いを洗い出してみることにした。

要素出しがそれなりに的確かどうか見るために、本筋ではないがMADで多用される素材「人の叫び声」や「モノを叩く音」とも追加した。

「人の叫び声」や「モノを叩く音」では抽象的で比較しづらいため、代表として古典的音MAD素材から「人の叫び声」には「フタエノキワミアー」の「アー!」の部分、「モノを叩く音」では男子部の石川の「ドアノック」の部分を当てはめた。

以下が比較表だ。

比較表 詳細

比較するとかなり違う。

もう少しざっくり捉えてみる。

比較表 ざっくり

だいたい同じだ!

おそらく私は、たくさん音が鳴っていて、高音中音低音が鳴っているという理由で、オケヒと同じグループ化をしていたようだ。そしてハーモニーかユニゾンかは無視していたようだ。

「オケヒのような音」を何と呼べばいいのか?

「一斉 演奏 音楽用語」でググったところ、「tutti(トゥッティ)」という言葉が出てきた。

トゥッティ (tutti) は、イタリア語で「全部」の意味で、楽語としては全奏者による「合奏」である「総奏」を指す。演奏している全ての奏者が同時に奏すること。ソロ (solo) の対義語。

Wikipedia - トゥッティ

どうやらソロの対義語らしい。

ソロとトゥッティ

本当は「オケヒ」と「オケヒのような音」を識別する呼び名を求めていていたが、ないものは仕方ない。私はもともと「オケヒ」と「オケヒのような音」を区別していなかったので、これで包括して捉えたほうが都合がいいのかもしれない。

トゥッティな(=音がたくさんなってる)素材を用いた音MADの作り方の考察

「オケヒのような音」改め、トゥッティな音を用いたMADでつかえる方法論をまとめていく。似てる音には同じような編集方法が適用可能だ。

音声編集について

トゥッティな素材の音の合わせ方

音の合わせ方については、本編(素材を曲に同期させる)に入る前の素材紹介の段階で一番使いたい部分とその前後を垂れ流してからブレイクビーツ的に音を合わせていくスタイルが主流だ。

One More Timeみたいな感じ。

前後の音をアクセントに使うのも有効だと思う。
感電を例に挙げると、「デーン」の前の「ぱらららっぱっぱ」という間抜けな音を組み合わせて音量高低差による緩急を生み出すことができる。

音程合わせでの注意点

トゥッティな音は和音か重音(単一音程)で分類できるが、和音かつ和音のバリエーションが1パターンしかない場合は、素材と曲の和音の組み合わせによって、異常に汚い音になる。しかし、単一音での音合わせと異なり、視聴者側も正解が何か分からない状態に陥いってるはずなので、適当に合わせておけばOKだ。

和音の素材における音合わせの無難な方法としては和音のベースと曲のベースを合わせるか、和音の中で一番デカイと思われる音階と曲の主旋律を合わせとけばいいと思ってる。素材のフレーズ中に和音の種類が複数登場する場合は、それらを組み合わせて曲のコードにあってる感じがするように編集するのもいいだろう。

ピッチ変更の音域が広い

大多数の音MADで音程合わせに採用される「声」と比較するとトゥッティな音らはピッチ変更のが許容される音域がとても広いのが特徴だ。

「ヒトはヒトの声の解像度がほかの音と比べて高い」ため「声」の素材を過度に加工を加えるとすぐに別の音と認識されてなんの音か分からなくなる。
なんの音かかからないと、視聴者はサンプリングの意義を訴え怒る。

トゥッティな音のうち、オケヒやオケヒのような音の場合、ヒトの声ではないのでピッチを広範囲で変更してもあまり違和感がない。

トゥッティな音のうち、人の声でもある「合唱の素材」は単独の人間の声よりもごちゃごちゃしてるのでピッチ変更許容範囲が広いに思える。ただし、REAPERのピッチ変更アルゴリズムで「駘astique Soloist」の適正がないのはマイナスだ。

オクターブ違いの音を秘密裏に重ねられる

ピッチ加工で音程を上げ下げすると、音域がそのまま上下にシフトするので音がこもったり、低音がスカスカになったりするが、1オクターブ違いの素材をイコライザで調整して重ねて上げれば、視聴者に気づかれずに音域のバランスを調整することが可能だ。
(ピッチ耐性が高く、ごちゃごちゃしているのでオクターブで重ねてもバレない)

動画編集について

理屈

音に合わせて対象(人物など)が動いていると見るとそこから音が出ているように見えるので、とりあえず音に合わせて対象を大きく動かす(時間単位の座標移動距離を長くする)のがいいと思う。かなり古典的な方法だ。

そのまま使う

強烈なトゥッティな音が鳴っているときの元動画では画面のオブジェクトが大きく動いている場合が多く、REAPERなどで動画も連動して編集している場合は、音を連打しただけ対象が大きく動く場合が多いため、そのまま採用するのも良い。だた、音声のアタックポイントと元動画の対象の移動開始時点ではないので、動画の再生位置を細かく調整したほうが対象の動きが大きくなる。

無理やり動かす

ズームイン/アウト、左右反転で適当に動かすとそれらしくなる。また対象が声を発しているわけではないのでリップシンクする必要もないので楽だ。

いかがでしたか?

「オケヒのような音」について理解は深まったでしょうか?

ちなみに私は「トゥッティな音」とか自分で書いててかなり違和感ありました。主語がでかくなりすぎてたからでしょう。不快感を感じた方がいたらごめんなさい。

この記事以外で私はトゥッティという用語を使うことはないでしょう。

【参考文献について】
ページ内に都度リンクがあるのでそちらを参照願います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?