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夏休み

ラジオ体操のスタンプが貯まらない。なかなか夏が終わらない。日記も何も書いてない。学校はあと10日で始まってしまう。算数の宿題ばかり溜まっていく。お盆休みに実家に帰省する。大きな山、それよりも大きな雲、それよりもっと大きな海。太陽がギラギラ海で反射している。蝉がうるさいし、風鈴がちりりんと鬱陶しくて寝付けない。扇風機じゃあ簡単に涼めないし、アイスは大きくてすぐ溶けてしまう。僕の小さな手はすぐにアイスでベタベタになってしまう。祖母に手を洗えと叱られたあと、障子を破ってしまったが何も言わずに帰った夕暮れ時。あの時はまだ僕は笑えていた。アイスも美味しかった。あの手のベタベタが恋しい日々になってしまった今はこんなにも夏が悲しい。これは僕が小学生の時の話達だ。

夕暮れ、ヒグラシが鳴く頃に、少し郷愁に浸りながら溜まった宿題の事を思い出してブルーになる。結局日記は一気に書いたし、算数は適当な答えを書いて、解答を見て赤ペンで直して、自然な仕上がりにした。僕の夏休み。8月28日が最終日。僕は小学生ながら夏の尊さと無慈悲さを少し理解していた。夏休み明け。僕の好きなあの子は遠くへ引っ越してしまった。ラジオ体操に行けば良かった。そしたらもう少し仲良くなれた気がする。隣の空席には転校生が座りました。少し変わった人。夏に失って、秋に始まる。僕は何となくこの転校生と雪だるまを作るくらいには仲良くなると思っていた。そいつは小学校卒業と同時に引っ越した。

皆は放課後は鬼ごっこをしている。僕はというと暑い中塾に向かう。夜は空手をやる。僕は何か習うならピアノをやりたかったし、なんなら家でゆっくり本でも読みたかった。ゲームとかしたかった。皆は今ケイドロ中。僕は算数と国語をやる。みんなお父さんとお母さんに感謝しているって言っていたのを覚えている。お母さんのご飯が美味しいって言ってたのを覚えている。僕はまだ卒業式で皆が親への感謝の手紙を書いていたのが未だに忘れられない。僕は小学生の時からずっと暗くて皆の行動に疑問を抱いていた。別に産めなんて言ってないし、なぜ世界はこんなにも親に感謝することを強要するんだろうって。気持ちは今も変わらない。この風潮は嫌いだ。母の日も父の日もくそ喰らえってんだ。かけっこも勉強も僕はみんなよりもできた。それでも僕の夏は1人。漢字ノートに汗が浸る。暑い、、、。遊びたい...。そんな気持ちだけが募っていった苦しみだけを覚えている。蝉が煩い。

皆は立派な夢を持っていた。僕は夢を持っていなかった。小学生の頃から僕は諦めていた。サッカー選手、野球選手。皆は口を揃えて同じ夢を語る。僕は夢がないからつまらない人なんだなってずっと塞ぎ込んでいた。長い夏が終わる。蝉が鳴かなくなった。僕は小学生の頃に過ごした夏は一生消えない。僕はもう鬼ごっこもできないし、隠れんぼだけずっと続いている。誰も見つけてくれないまま大人になってしまった。もう少し遊んでいたかった。夏の暑さが苦しいと感じてしまうようになったのはこの時からだろう。好きな季節に夏と答える人は多い。それはきっといい汗を流したから。ラジオ体操のスタンプが沢山溜まっていたから。プール開きに通っていたから。どれもこれも僕ができなかった事だ。今年は21歳の夏が始まる。もういいかい?まーだだよ。

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