見出し画像

新宿に雪が降った日

新宿に雪が降った日、皆は携帯を空に向けていた。雪を喜んでいた。手が冷たくて悴んで、皆はそんな事を気にしていないようだ。僕だけが悴んだ手を吐息で温めていた。白い息が虚しい。新宿はこんなに広くてキラキラしている。この虚しさと孤独の存在は否定されるべきだ。この街に照らされては行けない。早く帰らないと。

雪は強くなる。先は見えなくなっていく。街は輝きっぱなしで、僕の手の感覚は無くなっていく。心が冷えていく。寒くて涙が出る。寒さのせいにしているだけなのかもしれないけどね。新宿に降る雪は僕を排除しようとしているのか。僕はもうここに居たくない。

マフラーを巻いた男の子が転んでいた。お母さんが手を差し伸べていた。お母さんの優しさが雪を溶かしているように見えた。コートを着た男が女に手を差し伸べていた。それは優しさではないと思った。目的があると思った。先に繋がる何かだと思った。

僕の中にある優しさという概念は、新宿の雪の中に埋もれたのか、そもそも分からないのか。普通どう考えるんだろう。どう受け取るんだろうとか考えている。手の感覚はもう無くなっていた。街からは抜け出していた。雪が積もっている。ここには誰もいないのかな。この街は広いようで狭い。雪が視野を狭めているだけなのか。新宿に雪が降った。皆は喜んでいる。どうやら僕の中で死んだのは手の感覚だけではないらしい。

1人みぞれを踏みしめながら、死にたい気持ちを殺しながら歩いた。地面のみぞれは僕の足跡をくっきり残して、また誰かに踏まれて僕の足跡は次第に消えていく。またまた降る雪に埋もれて人々の足跡は1つも残らなくなる。新宿に降る雪は、1粒1粒がでかい気がする。悲しい気持ちになる。新宿に降る雪は、僕の存在を必要としていない気がする。この街では誰1人生きていない気がする。僕のこの孤独を新宿に降る雪とこの寒さのせいにしたいだけなのかも知れない。新宿に降る雪は、新宿に降る雪は…。何かのせいにしたい自分自身に嫌悪が走る。繁華街の真ん中で涙を流す僕はきっと誰かから見れば雪を眺める人なんだ。僕はきっと雪が降らなくたって独りなんだ。新宿に降る雪はきっと僕らを祝福しない。新宿に雪が降った。皆が飛び跳ねた。僕は雪を見上げた。

何も分かんなくてもいいのかな。知らなくてもいのかな。この街だったら何も知らなくていいのかな。雪が降ってない日に考えよう。帰ったら暖房を付けよう。温かい飲み物を飲もう。ココアでも入れよう。落ち着けば答えは見つかるよね。今日は雪だし仕方ない。寒くて寂しいだけ。寂しいから優しさが難しいだけ。大丈夫なんだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?