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カフェオレ班(顔のあざ)

私の長男には右の頬全体から耳にかけて大きなカフェオレ班、俗にいう「あざ」がある。アメリカで出産し、二日目には彼の顔にカフェオレ班があることがわかった。母親である私は今まで感じたことのない不安に、健康に生まれてきてくれたことに感謝することも忘れ、不安に明け暮れた。この子があざのせいでいじめられたらどうしよう、つらい人生になったらどうしよう、と。

主人に相談してみた。
「どうしよう、どうしよう、治療法はあるのか。心配でたまらない」と。

その時の主人の対応は、
「大丈夫だよ。健康に生まれてきてくれてありがたいね。バースマーク(Birthmark-英語であざという意味の言葉)なんて大したことないよ」だった。

私はその時、なんなの!全く分かっていない。母親の私がこんなに心配しているのにと心の中で思ったことを覚えている。

アメリカの小児科に行った時も、医者に
「彼は健康そのものだよ、かわいい赤ちゃんだね。お顔のバースマークは消えないよ」と、さらっと言い渡されて戸惑ったのも覚えている。

また、スーパーに長男を連れて買い物に行ったさいに、レジのおばさんに
「わお!なんてすばらしいバースマークなの!ハート形ね、神様からのキスだね」と声をかけられたこともあった。

アメリカでは、バースマークは、タブーでも、不吉なものでも差別されるべきものでもなく、その子の個性としてとらえられている。心無い人もいるが、そういう人はまれで、そんな人たちとはかかわらなければよい。
バースマークなんて、たいしたことないよといった主人、バースマークは消えないよ、でも彼はこんなにかわいくて健康だよ、と言ってくれた小児科医、やさしいレジのおばさんの考え方が正解なのである。

私は長男に対し、かわいそう、心配という気持ちで接するのを一切やめた。

数年後、私たち家族は長男が4歳になったときに、日本に引っ越した。
日本での彼のバースマークに対する人々の反応がアメリカと全く違い戸惑った。

久しぶりに会った友人には、「私がもし母親ならば耐えられない」といわれ、家族にも「身近にあざのある人がいないからどう接していいかわからない」といわれた。

日本の小児科に行ったとき、皮膚科の医師は、
「かわいそうに、女の子だったらまだよかったのにね、お化粧で隠せるから、でもあなた男の子だから大変だね」と言い放った。
あまりの衝撃に、この医者は、生きるということの価値を根本的にわかっていない、こんな人が医者なんて間違えているんじゃないかとさえ思った。

現在、長男は24歳、小さいころから、かっこいいね、かわいいね、優しいね、と心の底からほめ続け、悪いことをした時には遠慮なくしかり飛ばし、かわいそうや心配の気持ちを持たず、育ててきた。彼は今、自分に自信をもって素晴らしい友人たちに囲まれながら自分の夢に向かって進んでいる。

18歳になったときに、もしレーザー治療がしたいようならばできるようだよ、と伝えたが、その必要はないよ、ママ、と。いまも❤型のバースマークとともに生きている彼を誇りに思う。




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