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実質金利からゴールドの動向を探る

先日アメリカで民主党が上院と下院で過半を占める「ブルーウェーブ」が確定したことで、債券の供給拡大懸念から長期金利が上昇し、ゴールドは大幅な下落となりました。

ここは押し目なのか、それとも今後の下落のトレンドが続いていくのか。

過去の暴落時のゴールドや関連指標の動きから、今後のゴールドの投資妙味を考察してみます。

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ゴールド推移(出自: FRED)


結論として、過去のセオリー通りに考えるとゴールドの上昇余地はもう少ない、むしろ下落トレンド入りする可能性が高そうというお話です。


リーマンショック後の金価格動向

さて、現状ワクチンが完成し各種指標も足元の景気回復を示唆していることから、過去の暴落→景気回復局面まで(FRBがFFレート≒誘導金利目標を引き上げるまで)のゴールドの値動きを参考にしてみたいと思います。

図はリーマンショック後のゴールド(赤)、実質金利(青、正負反転)、M2(緑、≒市場の通貨供給量)、FFレート(紫点線)の比較です。

リーマン後実質金利vsゴールドvsM2vsFFR

(出自: FRED)


ゴールドはリーマンショック後2013年頭まで上昇を続けていましたが、その間の値動きはどうも実質金利と相関していそうだなと読み取れます。(ただし、M2がスポット的に上昇した2011夏ごろにゴールドが暴騰しているのは要チェックですね)

そして実質金利が上昇(図上では正負反転してるので下落)に転じる2013年中旬頃には、既にゴールドは下落トレンドに入っており、この段階に入ってしまうともうゴールドに投資妙味はないと言えるでしょう。

 

ではリーマンショック後、ゴールドを上昇させた実質金利低下の要因は何だったのでしょうか?

実質金利は以下の式で分解できるので、分解してそれぞれの動きを見てみましょう。


実質金利 = 名目金利 – 期待インフレ率


下図の青が実質金利、赤が長期金利(10年債利回り)、緑が期待インフレ率(ブレークイーブンインフレーションレート)です。

リーマン後実質金利vs長期金利vs期待インフレ率

(出自: FRED)


比較をしてみると、リーマンショック後~2013年頭にかけて10年債利回りは4%から2%以下まで下落しています。

一方、期待インフレ率は比較的早い段階で2%~2.5%内のレンジ相場入りしていることから、リーマンショック後の実質金利低下の主要因は長期金利の低下であることが読み取れます。

 

ゴールドの今後

さて、ここからコロナショック後の今後のゴールドを考察してみます。

ゴールドの値動きは実質利金利の動向がポイントになると考えられますが、正直ここから実質金利が下落する余地は少ないと考えています。

現在、米国の10年債利回り(下図赤線)は1%台と過去最低水準になっており、FRBのFFレートも既に下限の0%水準です。

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ここから長期金利が低下するには、景気回復期待をはく奪する何かしらのアクシデントが発生するか、FRBが債券買い入れの平均残存期間の延長などを通じてYCC(イールドカーブコントロール)を実施する必要があります。

これはFRBとしては現状から更に踏み込んだ施策になりますが、現在アメリカの失業率は回復基調にあり、景気動向を示すISM製造業/非製造業指数は既にコロナ前の水準まで戻っています。

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(出自: Yahoo! Japan ファイナンス)


既に景気後退のピークは過ぎていると考えられ、雇用維持とインフレ抑制を命題とするFRBとしては、今後インフレ率が2%を大きく上回るような局面にならない限りYCC導入などの踏み込んだ施策は行わないと思われます。

 

足元の期待インフレ率は2%近くまで上昇していますが、消費者物価指数(CPI)は前年比+1%~1.5%程度の水準であり、まだインフレを懸念するような局面ではなさそうです。

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(出自: Yahoo! Japan ファイナンス)


という事で、今回コロナショックでは金融緩和・財政出動の対応が非常に迅速であった事もあり、既に実質金利は下限に近いところまで落ちており、既に景気回復局面入りしている事からゴールドの上昇余地は少ないかもしれません。

まとめ

・過去、リーマンショック~景気回復局面に至るまで、ゴールドは実質金利の低下により上昇をしていた

・リーマンショック時、ゴールドは実質金利が上昇トレンドに転じる直前で天井を打っており、今回も同様の値動きになると考えらえる


・今回コロナショックでは迅速な金融緩和/財政出動により既に長期金利は底を打っていると考えられ、リーマンショック時のゴールドの動向を考えれば今後景気回復局面でのゴールドの投資妙味は低いと考えらえる


・一方、M2がスポット的に増加するタイミングではゴールドも急騰する可能性があり、短期的にはまだチャンスはありそう(民主党はより大規模な財政出動を実施しようとしている)


筆者個人としては、基本的に右肩上がりの資産を安心して持っておきたいので、ゴールドのポジションは減らすことにします。

※投資は自己責任で!

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