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大河ドラマ「光る君へ」冒頭の安倍晴明の台詞を掘り下げてみました。

2024年1月から放送されている、紫式部の生涯を描いた大河ドラマ「光る君へ」は、陰陽師である安倍晴明の台詞から始まります。

「紫微垣(しびえん)の天蓬の星(てんほうのほし)が、いつになく強い光を放っている」

テレビ画面には北斗七星が大きく映し出され、星を眺めることが好きな私は思わずドラマを一時停止。「紫微垣の天蓬の星」とはどの星を指しているのか、なぜ星の明るさが変わるのかを調べてみることにしました。

1. 「紫微垣の天蓬の星」とは

安倍晴明が注目した「紫微垣の天蓬の星」とは、いったいどの星のことなのでしょうか。「紫微垣」と「天蓬の星」に分けて紹介いたします。

<紫微垣(しびえん)>

古代中国天文学において、天球上を3区画に分けた三垣(さんえん)の中垣。ちなみに、三垣の上垣は「太微垣(たいびえん)」、下垣は「天市垣(てんしえん)」という。

NHK、“用語集 大河ドラマ「光る君へ」第1回より”、更新日:2024年1月7日<https://www.nhk.jp/p/hikarukimie/ts/1YM111N6KW/blog/bl/ppzGkv7kAZ/bp/p7d825JQq7/>

天球上の1区画である「紫微垣」ですが、具体的には北極星を中心とした北の空のあたりを指すそうです。
テレビ画面に映っていた北斗七星も、「紫微垣」の範囲に含まれます。

<天蓬の星(てんほうのほし)>

北斗七星の第1星のこと。おおぐま座のα星。

NHK、“用語集 大河ドラマ「光る君へ」第1回より”、更新日:2024年1月7日<https://www.nhk.jp/p/hikarukimie/ts/1YM111N6KW/blog/bl/ppzGkv7kAZ/bp/p7d825JQq7/>

以下の写真で、白い丸で囲ってある星がおおぐま座のα星です。

北斗七星周辺の星々

すると、安倍晴明の台詞は次のように置き換えられそうですね。

「北の空を見てくれ。おおぐま座のα星が、いつになく強い光を放っている」

ドラマの冒頭で陰陽寮の皆さんが見上げていた星の正体がわかり、スッキリしました。

2. なぜ星の明るさが変わるのか

安倍晴明の睨んだ先で、いつもより明るく輝いていたというおおぐま座のα星。それでは、なぜ「いつもより明るい」なんて現象が起こるのでしょうか?

実は、夜空に浮かぶ星たちは、星の一生という長い時間の中で少しずつ自身の明るさを変えているのです。
また、中には数年〜数十年ほどの短い時間で明るさを変える星もあり、それらは「変光星(へんこうせい)」と呼ばれます。

おおぐま座のα星も変光星のひとつで、約44年の周期で明るさが変わるそうです。安倍晴明が見たときは、周期的にちょうど星が明るく見える時期だったのでしょう。

3. 変光星の種類

変光星について、もう少し深く掘り下げてみようと思います。変光星は、星の明るさが変わる原因によって、大きく2つに分けられるそうです。

<脈動変光星(みゃくどうへんこうせい)>
星自身が膨張や収縮を起こして明るさが変化する星のこと。

<食変光星(しょくへんこうせい)>
複数の星がお互いの周りを回ることで、地球から見たときに見かけの明るさが変化する星のこと。
月が地球と太陽の間に入ると太陽が見えなくなる「日食」と似ていますね。

おおぐま座のα星は、後者の食変光星に分類されます。
しかし、ドラマの舞台となっている平安時代には望遠鏡がなかったため、複数の星がお互いを隠し合うように回っているなんて知らなかったことでしょう。
北斗七星のような明るく目立つ星の明るさが変わったら、驚いたり不安になったりするのも納得です。

さいごに

最後までお読みくださりありがとうございました。
大河ドラマ「光る君へ」に登場する安倍晴明の台詞の意味を知りたくて書き始めた本記事ですが、思いがけずとても勉強になり嬉しいです。

本記事で紹介したおおぐま座の見頃は春ですので、夜になっても外で過ごせるくらいに暖かくなったら、夜空を見上げて星の明るさをチェックしてみようと思います。
皆さんもぜひ、現代の夜空に「紫微垣の天蓬の星」を探してみてはいかがでしょうか?

参考

・川合章子『陰陽道と平安京・安倍晴明の世界』淡交社、2003年
・出雲晶子『星の文化史事典[増補新版]』白水社、2023年
・天文宇宙検定委員会『天文宇宙検定公式テキスト《2級 銀河博士》 2023~2024年版』恒星社厚生閣、2023年

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