今、旧枠モダンを始めてみたい人へ(後編)
はじめに
前回(前編)では「旧枠モダンではこんなカードが活躍してるよ」という話を、懐かしのカード集という形でご紹介しました。
(▼まだお読みでない方はこちら)
前編が「旧枠モダンに興味がある、けど何から始めればいいのかわからない……」という方に、「このカードが使えるならやってみようかな」と思えるカードを見つける手助けに少しでもなっていたなら幸いです。
そしてこちらの後編では、「よし、旧枠モダンやってみるか」となった方に向けて、「旧枠モダンとはこういうフォーマットだよ」と説明していきたいと思います。
基本的に、既に何年もマジックをプレイしてきた方向けの内容となります。そして中には「そんな当たり前のこと今更説明要る?」と思われるような内容もあるかと思います。
ですがここは旧枠モダン。スカージ(2003年発売)までに刷られたカードたちのみが織り成す環境は、現代マジックに馴染んだ我々に「旧枠モダンは現代マジックとは違う」という現実を突き付けてきます。
当たり前過ぎて忘れていた、あるいは現代マジックに慣れ過ぎて感覚が麻痺していた、そんな方たちに改めて「あぁ、昔のマジックってこんなのだったなぁ」と思い出してもらいつつ、不思議なノスタルジーに浸りながら楽しめるマジックをご提供できればと思っています。
ちなみに旧枠モダンの主たるターゲット層は現在30代前半〜中盤、「中学の時にちょっとマジックやってて、社会人になってからマジック復帰した」とか、「コロコロに載ってた、まだマジックやってた頃のデュエルマスターズ読んでた」とか、そういうプレイヤー層となっております。
もし周囲にそんなお仲間がいれば、「最近、旧枠モダンって流行ってるらしいよ」と紹介してみても面白いですね。案外、同じように旧枠モダンに興味をもってくれるかもしれませんよ。
前提編
基礎知識の前段階、前提となる旧枠モダンの環境についての説明です。
ルールについて
使うカードはスカージ(2003年発売)までに刷られたカードのみですが、ルールは最新のモダンに準じます。なのでマナバーンはありませんし、ダメージスタックは用いませんし、マリガンルールは現代のものです。当時のオラクルを参照するといったこともありません。あくまでモダン内で行われるカジュアルな遊び方だと思っていただければ大丈夫です。
また、実際のゲームで使用するカードのバージョンについても、「カードそのものがリーガルであれば使うカードのバージョンは問わない」となっております。もちろんオシャレで旧枠統一や初出版統一、FullFoilなどを目指すのも楽しみ方です。なお、その際にかかる出費については自己責任でお願いします。
各種アーキタイプが満遍なく存在する
では具体的な旧枠モダンの環境についてです。
カードプールはこの記事執筆時の2024年7月現在(〜ACR)、1003枚となっております(基本土地5枚+冠雪基本土地5枚を除く)。この枚数を多いと見るか少ないと見るかは人によって感覚が違うかと思いますが、喩えるなら「当時のローテーションが起こった直後のスタンダード」くらいのカード数です。なんとなく伝わるでしょうか。
このカードプールで、各種アーキタイプが成立しています。
アグロ/ビートダウン、コントロール、コンボ、ミッドレンジ(当時で言うと中速/ビート・コントロール)。バリエーションの多寡はあれど、どの速度帯のデッキも存在します。
アグロはコントロールに強く、コントロールはミッドレンジに強く、ミッドレンジはアグロに強い。そしてコンボはこれら相手に別軸で攻めるが、対処され崩されると弱い。そんなわかりやすい三竦み、じゃんけんの構図が旧枠モダンにもきっちりあります。
ご安心下さい。カードプールが狭そうに見えて、きちんとメタゲームは存在しています。
メタ読みはあまり意味がない
メタゲームは存在しています。ですが、実際のところはメタ読みはあまり意味がありません。
ひとつ上で書いたことといきなり矛盾していますが、順番に説明します。
まず旧枠モダンのユーザーの性質として、「自分が使いたいカード/デッキ/アーキタイプを使う」というものがあります。
これを今読んでいる、旧枠モダンに興味を持ち始めた貴方もそうでしょう。お気に入りのカードがあって(あるいは見つかって)、じゃあそのカードを使うために何から始めようか、となってこれを読んで下さっているかと思います。
まずやりたいことありき。その上で、勝てるなら勝ちに行きたい。そんな動機で旧枠モダンを遊んでいるプレイヤーが大多数です。
もちろん勝つことを目的に旧枠モダンをプレイすることも大いにありです。しかしながら少し前に開催された30人規模の旧枠モダンのトーナメントにおいて、メタゲームの分布図はこんな感じでした。
ちなみに大会前、大本命とされていたのはMH3にて強力な強化パーツを手に入れた青白コントロールでした。皆、仮想敵として青白コントロールを意識した構築をしてきました。
なお、当日の青白コントロール使用者数はゼロ。
(参照▼)
参加者皆が皆、大会では強いとされるデッキよりも自分の握りたいデッキを優先している結果と言えます。完全にメタのるつぼと化しているわけですね。
そんなメタゲームで、「今はこのデッキが流行ってるからそれに有利なあのデッキを使おう」だとか、「最近あのデッキが減っててガードが下がってるだろうからこのデッキを使おう」だとか、読もうとするのは半ば無意味なわけですね。
だって皆、自分が握りたいデッキを握っているわけですから。
どんなデッキにもチャンスがある
じゃあ勝ちたいならどうすりゃええねん、という話になってしまうでしょうが、答えは簡単です。「自分の握りたいデッキをとことん突き詰めよう」です。
一強環境になりにくい/ならないというのはつまり、どんなアーキタイプのどんなデッキにも勝利のチャンスが存在するということです。そういう意味では、旧枠モダンではある種健全なメタゲームが成立しているとも言えますね。
その上で、流行りのデッキや新たに登場したデッキ、新規再録パーツを得て強化されたデッキの存在を意識し、自分の握りたいデッキをチューニングして最適化していく。そんな遊び方が一番勝利への近道だと、筆者は思っています。
好きなデッキを握って好きなカードを使おう
モダンという環境に対して、「やりたいことの押し付けが強い」という評があります。実はこれ、旧枠モダンでも同じです。
全方位に向けてそこそこ〜微有利くらいのデッキを組むよりも、ひとつのコンセプトを突き詰めたデッキの方が、尖っている分強さに芯ができます。
使いたいカードがあるなら、そのカードを活かせるデッキを。使いたいデッキがあるなら、そのデッキの長所を伸ばす構築を。そんな風に意識した方が、旧枠モダンでは勝ちに繋がりやすく、楽しみやすいです。
せっかく好きなデッキや好きなカードを選ぶんです。その「好き」を伸ばして楽しみましょう。
基礎知識編
ここまでは旧枠モダンというフォーマットについて、向き合う際の心構えみたいなものを書かせてもらいました。
そしてここからはいよいよ実戦的な話、旧枠モダンというフォーマットでプレイするにあたり「持っておきたい基礎知識」を書いていきます。
上で書いたことをもう一度書きますが、「そんな当たり前のこと今更説明要る?」的な内容も多いです。長くマジックをプレイしてきた方や、既にそれなりの腕前をお持ちの方にとってはむしろ退屈な内容、もしくは釈迦に説法になる可能性も高いかと思います。
ですが何事もまずは基礎から。現代マジックに慣れて忘れてしまっていた内容を、改めて思い出す時間にしていただければと思います。
1枚でゲームの主導権を握るカード(≒PW)がない
旧枠モダンと現代マジックとの大きな違いのひとつとして、「プレインズウォーカーがいない」という点があります。
当たり前のことなんですが、この差について大真面目に解説します。
現代マジックにおいて、プレインズウォーカーというカードタイプがゲーム中に担う役割は非常に大きくなっています。
盤面に着地し、最低1回は何かしらの恩恵をプレイヤーにもたらす。そして除去されない限り盤面に残り続け、毎ターンアドバンテージを稼ぐ。最終的にはゲームを決めるフィニッシャーにもなり得る。現代マジックでは、プレインズウォーカーを維持できた方が勝つゲームも多く、このプレインズウォーカーを巡る攻防がゲームの大勢を決めることすらあります。
そんな役割を担えるカードが、旧枠モダンにはありません。何故ならプレインズウォーカーの初登場はローウィン(2007年10月発売)。スカージ(2003年5月発売)から4年半も後に登場したカードタイプです。しかし残念ながらマジックの歴史では既に、プレインズウォーカーがいた期間の方が、いなかった期間よりも長いのです。驚きですね。
話が逸れました。
上記の通り、プレインズウォーカーが担う役割は、現代マジックにおいては半ば「あって当たり前」になりつつあります。そして、より強力なプレインズウォーカーを先に着地させた方がそのままゲームの主導権を握る、と言っても過言ではありません。
ですが旧枠モダンにはプレインズウォーカーはいません。
場にいるだけでプレッシャーを与え続け、盤面に干渉し、アドバンテージを稼ぎ続けるようなカードが存在しない、というのは前提知識として改めて確認しておきましょう。
至極当たり前の話ですが、とても重要な点です。
1枚で2枚分の働きをするカードが強い
プレインズウォーカーがいないならば何がゲームを動かしていくのか。当然、スペルとクリーチャーです。プレインズウォーカーがアドバンテージを稼いでくれないのならば、何でアドバンテージを稼ぐのか。当然、スペルとクリーチャーです。
細かいアドバンテージ理論については、ここでは触れません。ややこしいですし、筆者自身も正確に説明できる自信がありません。詳しく勉強したい人は『すべてがTime Walkになる』でググるとか、MTGwikiで『アドバンテージ』の項からいろいろ辿るとかしてみて下さい。
また話が逸れました。
要するに。旧枠モダンで意識すべき重要な点として、カード1枚でアドバンテージを取れるスペルやクリーチャーの価値が(現代マジック以上に)非常に高い、という点があるわけです。何故なら現代マジックと違い、プレインズウォーカーでアドバンテージを稼ぎ続けることができないわけですから。
そしてカード1枚1枚のカードパワーが現代マジックほど高くない分、積み重なったアドバンテージ差を逆転する手段もとても少ないです。現代マジックではそこもプレインズウォーカーが担っていたりするのですが、ここは旧枠モダンですから。
この項を平たく言えば、「アドが稼げるカードを意識して採用しよう」という風になります。最初からそれを言え
カードの強さの基本はスペル>クリーチャー
現代マジックにおいてよく言われている内容として、「カードパワーがインフレしてる、特にクリーチャー性能が」的なものがありますよね。筆者は少なくとも10年以上前から聞き続けています。
そうです。現代マジックでは、カードの性能がめちゃくちゃ高いのです。そして年々上がり続けています。特にクリーチャーの質は段違いですね。
逆に、旧枠モダンではカードの性能が現代マジックと比べてめちゃくちゃ低いです。特にクリーチャーの質はひどいですね。2003年で止まってるわけですから。
しかしながら、スペルの質は現代マジックと比べて遜色ない部分もあります。マジック黎明期に刷られたはずの《対抗呪文》や《稲妻》が現代モダンでも通用しているあたりなどを見ればわかっていただけるかと思います。
スペルはまだそこそこ強い。けどクリーチャーはさすがにちょっと見劣りする。旧枠モダンではカードパワーは「スペル>クリーチャー」だと思っておいて下さい。
ゲーム中の価値はクリーチャー>スペル
さて、では旧枠モダンはスペルばかりが飛び交うゲームが主流なのかと言うと、決してそうではありません。何故ならマジックの勝利条件は「相手プレイヤーのライフを先に0にする」だからです。
相手のライフを削り切るための手段は何か。そう、クリーチャーによる攻撃ですね。
旧枠モダンのゲーム展開は、基本がクリーチャー戦です。相手よりも強力なクリーチャーを用意し、スペルでバックアップしながら殴り切る。お互いのクリーチャーを巡るスペルによる応酬や、クリーチャーを対処するスペルへの対処。それを繰り返すゲーム展開が一般的です。
つまり旧枠モダンとは、「決して強いとは言えないクリーチャーたちを、スペルで守りながら、あるいはスペルで攻めながら、相手プレイヤーのライフをクリーチャーで詰めていくゲーム」だと思って下さい。
いくら強力なスペルで身を守っても、クリーチャーで殴らなければ勝利には辿り着けない。ゲームを決定づけるプレインズウォーカーの奥義などがないのも一因かもしれませんね。
貧弱だったり低スペックだったりするクリーチャー達でも、決して馬鹿にしてはいけません。彼らがいなければ勝利は得られないのですから。
テンポ(マナ効率)が他フォーマットよりも重要
現代マジックにおいては、カードアドバンテージとテンポアドバンテージが重要視されている、というのが一説です。
カードアドバンテージというのはまぁまだわかると思います。上で書いた、1枚で2枚分の仕事をするとかそういう話です。
ではテンポアドバンテージとは? ここでも詳しい説明は省きますが、旧枠モダンにおいてはざっくりと「マナ効率」のことだと思って下さい。もっと詳しく勉強したい方は『マナカーブ理論』とかのワードでググって調べて下さい。
カードパワーの差が激しい現代マジックと旧枠モダンですが、変わらない部分がひとつあります。「土地」と「マナ」という概念ですね。
カードパワーが高く、1枚でこなす仕事量が多いカードがたくさんある現代マジックならば、多少のテンポ損などは気に留めない方もそこそこいるかもしれません。多少テンポ損しても、後でそれを1枚のカードパワーで取り戻せる見込みがあるわけですからね。
では旧枠モダンではどうかと言えば、カードパワーは「等しく低い」です。飛び抜けたカードパワーを持つカードというのはあまり多くありません。まして、一度失ったアドバンテージを取り戻すような強力なカードはほとんどないと思って下さい。
一撃あたりの威力がお互いさほど変わらないのであれば、より手数を繰り出せた方が優勢になりますよね。その手数を確保するのが、1ターンにおけるマナ効率なわけです。
ただし、『相手よりもコストは重いが威力の高い一撃を繰り出すのが目的のデッキ』と、『コストは軽いが相手より威力の劣る攻撃を多数繰り出すのが目的のデッキ』と、どちらが強いのかという議論は割と無意味です。「アグロとコントロールどっちが有利?」という問いに「状況による」としか答えようがないのと同じです。
リソースの補充が難しい
もうひとつ、現代マジックと旧枠モダンで変わらない部分があります。「ドローは毎ターン1枚」という点です。
当たり前のようにオマケとして付属しているキャントリップやら、各ターン1回しか誘発しないけど条件満たせば1ドローを提供してくれる能力やら、手がかりトークンやら血トークンやら、そんな便利なものは旧枠モダンにはありません。きっちりと平等に、「各プレイヤーは毎ターン1枚ドローしてね」という部分しか、リソースの継続的な補充手段はありません。
もちろん、スペルや能力でカードを引くこともできます。ですが、カードを引くためのリソース、リソースを得るためのリソースを確保する手段は、毎ターン1枚のドローが原則です。
となれば、リソースを無駄遣いするわけにはいかないのはわかりますよね。ひとつ上とも関連してきますが、貴重なリソースを無駄にしないプレイングが要求されます。雑にプレイしないよう気を付けたいですね。
クリーチャーサイズは3/3が基準
ではクリーチャーの話に進みたいと思います。
旧枠モダンの環境について少し聞いたことがある方は、「象が強い」「3/3が基準サイズ」などと耳にしたことがあるかもしれません。
まさしくその通りです。
《獣群の呼び声》から現れる、3/3の象トークン。旧枠モダンのクリーチャー戦において、この3/3というサイズを「基準」だと思って下さい。
いえ、「基準」と言うと伝わりにくいかもしれませんね。「意識すべきサイズとスペック」と言うべきでしょうか。
もっと噛み砕いて言いましょう。「旧枠モダンにおいては、『緑の3/3バニラのトークン・クリーチャーをどうにかできるか』が採用されるカードの判断基準である」です。
具体例を挙げて説明しましょう。
例えば除去なら、《ショック》だと象を焼けないからダメ、でも《稲妻》《火葬》なら象を落とせるから採用、という風に。《恐怖》なら《巨大化》された象トークンでも倒せるから採用、《送還》はあまり強いカードではないけど1マナで象トークンを消滅させられるから採用検討、《ブーメラン》なら象トークンの対処以外にも役割を持てるから採用、という風に。
クリーチャーなら、《灰色熊》だと象で止まるからダメ、でも《陽光尾の鷹》なら象を無視して飛行で殴れるから採用。《稲妻の天使》は象を一方しつつ飛行で殴れるから強い。《セラの天使》なら《稲妻の天使》をさらに一方できるからめちゃくちゃ強い、といった風に。
3/3が基準サイズという話、おわかりいただけたでしょうか。
3/3と2/2での殴り合いがメイン
3/3の象が基準とは言いましたが、《獣群の呼び声》を全てのデッキが採用しているわけではありません。よく見るのは事実ですが、あくまでカードの評価を計るひとつの基準であるだけです。
実際の旧枠モダンのゲームでは、一回り小さい2/2が戦闘の基本スペックとなります。2003年までのクリーチャースペックの基準が伺えますね。
さて、突然ですが思考実験です。
自分が地上2/2バニラを1体、相手が《獣群の呼び声》の3/3象トークンを1体コントロールしています。召喚酔いは解けています。殴りますか? ややこしくなるので、ここでは「お互いの手札やマナや残ライフや次のドローは考慮しなくていい」とします。
まぁ普通は殴らないと思います。象に優しくキャッチされて犬死にするだけですから。では立場が逆で、自分が3/3象、相手が2/2だったら?
殴りますよね。ブロックされても2/2を一方的に倒せますし、ブロックされなくても返しでは2点しか受けないわけですから。
ではそのまま、ブロックされずに3点相手に与えて次の相手のターンへ。相手が地上2/2をもう1体追加してきました。そして殴ってこずにエンド。返しの自分のターン。引いたカードは土地。ではこの3/3象でこのターン、殴りますか?
何の話をしてんだこいつ、と思われそうですが、これが旧枠モダンのクリーチャー戦の基本です。
殴るか殴らないか、殴るならどれで殴るか、殴ったとしてどうブロックされるか、殴ったら次はどうするか、それらを考えながらプレイする必要があるわけです。
当然実戦では、ここでは考慮しなかったお互いの手札やマナ、残ライフ、次のドロー、相手のアーキタイプは何か、メイン戦なのかサイド後なのか、後続であり得そうなカード、そういった要素も考える必要があります。
当たり前のことを何を今更、と思われるかもしれません。ですが上で書いた通り、旧枠モダンではクリーチャーの価値はスペルより高く、スペルはクリーチャーよりも良質です。そして失ったアドバンテージを取り戻す手段が少ない、というのは繰り返しお伝えしている通りです。たとえ地上3/3と2/2の殴り合いでも雑にプレイしてはいけない環境である、と思って下さい。
回避能力持ちが強い
旧枠モダンはクリーチャー同士の殴り合いなどと言いつつも、実際のところは「盤面を固めて回避能力持ちで殴る」がダメージレースの基本となります。以下に各種回避能力について解説します。
飛行:
一番よく見る回避能力です。よって飛行持ち同士のコンバットも頻発します。飛行持ちを地上のブロックに参加させるシーンも多くあるため、クリーチャーの価値をよく考えてダメージを割り振りましょう。
渡り:
相手と噛み合えば最高の回避能力です。山渡り≧島渡り>森渡り>沼渡りくらいの頻度で見ます。山渡りは《ゴブリンの王》で、島渡りは《リバー・ボア》で、森渡りは《猫族の戦士ミリー》と《エルフのチャンピオン》で、沼渡りは《葬送の魔除け》で主に見ます。多色デッキの場合、渡られないようにする土地の置き方も地味ながら重要なテクニックです。
プロテクション:
除去耐性でもありますが、特定の色にブロックされない能力でもあります。見る頻度は黒≧赤>白>青くらいでしょうか。
プロテクションを持つ主なクリーチャーとして。プロ黒は《ヴェクの聖騎士》《霊体の先達》《怒りの天使アクローマ》《秘教の処罰者》、プロ赤は《ヴェクの聖騎士》《サルタリーの僧侶》《怒りの天使アクローマ》、プロ白は《黒騎士》、プロ青は《ゴブリンの群衆追い》などがいます。
プロテクション緑を持つクリーチャーは旧枠モダンにはいませんが、選べば持つ《万物の声》や、好きな色へのプロテクションを付与する《避難》などもあります。
シャドー:
ブロックできないがブロックされない回避能力。シャドー持ちは旧枠モダンに2体しかいません。《サルタリーの僧侶》と《ダウスィーの殺害者》ですね。たまに「出会ってしまった二人」状態が起こったりもします。
畏怖:
黒かアーティファクト生物にしかブロックされない能力。MH2以前は比較的優秀な回避能力でしたが、MH2にて《ミシュラの工廠》がモダン入りし数多くのデッキに採用されるようになってからは信頼度が下がりました。《影魔道士の浸透者》が《泥棒カササギ》に負けてしまう理由のひとつです。
トランプル:
擬似的な回避能力です。主に《怨恨》のついたクリーチャーと、《樹上の村》《スキジック》で見ます。ちなみに旧枠モダンでは接死+トランプルは成立しません。また、トランプルを付与するインスタント呪文も存在しません。
スーパートランプル:
『それがブロックされなかったかのようにダメージを割り振る』の俗称です。旧枠モダンでは《一匹狼》《ロウクス》《茨の精霊》の3体のみが持ちます。トランプル繋がりで一応紹介しましたが、あまり見ません。
先制攻撃:
クリーチャーの価値が高い以上、ブロックされても一方的に倒せる状況を作れれば擬似的な回避能力になります。《白騎士》《黒騎士》《ヴェクの聖騎士》《猫族の戦士ミリー》などが頻出カード。トランプルと同じく先制攻撃を付与するインスタント呪文は存在しませんが、火力と組み合わせるなどしてふた回り以上サイズ差のあるクリーチャーを討ち取ったりするプレイングもあるので要注意です。
側面攻撃:
「なんだっけそれ」となった方、割と普通の感覚なので大丈夫です。『側面攻撃を持たないクリーチャーにブロックされるたび、ターン終了時まで、そのブロッククリーチャーは-1/-1の修正を受ける』という能力です。
古い能力ですが実はかなり優秀で、単に相手を一回り小さくするだけでなく、『タフ1複数にブロックされても一方的に倒せる』『マイナス修正なので再生を許さない』『対象を取らないのでプロテクションを貫通する』『先制攻撃のダメージより先にマイナス修正がかかる』などなど、割と良いことずくめの能力です。旧枠モダンでは《ザルファーの指揮官》《スークアタの槍騎兵》の2体のみが持ちます。
威迫系:
系、と書いているのは《ファイレクシアの巨像》もここでまとめるつもりだからです。数は少なく、実際に見るのは巨像と《双頭のドラゴン》くらいです。
除去耐性持ちが強い
スペルが強力な以上、クリーチャーをスペルで除去するシーンも多いですし、驚異となるクリーチャーはスペルで対処するのが基本です。その中で、実質的な除去耐性と呼べるものもいくつかありますのでご紹介します。
プロテクション:
文字通りの除去耐性です。プロ赤やプロ黒が特に評価が高いです。具体的なプロテクション持ちについては回避能力の項で書いたので割愛します。
タフネス4:
3点火力で落ちません。クリーチャーのサイズの基準が3/3で3点火力が標準となっている以上、それに耐えられるタフネスは擬似的な除去耐性となります。
黒い:
《恐怖》や《闇への追放》、《破滅の印象》が当たらなくなります。黒の除去は黒いクリーチャー相手には当たりにくいです。黒が同じ黒にはあまり強くなかった時代の名残ですね。
点数で見たマナコストが4以上:
サイズや色に関係なく破壊する、強力な単体除去たる《燻し》が当たりません。軽いは正義、とは言い切れない根拠です。ちなみにこれも《影魔道士の浸透者》が《泥棒カササギ》に負けてしまう理由です。
再生:
黒い除去は基本的に再生を許しませんが、火力による除去は再生が可能です。火力の二番手が《火葬》である理由です。サイズの近いクリーチャー同士の殴り合いでは自分だけ生き残れるため、擬似的な回避能力となることもあります。
被覆:
《敏捷なマングース》よりも《森を護る者》で付与される形で見ることの方が多いです。対象にならなくなりますが、対象を取らない呪文や能力には無力なので過信は禁物です。
ちなみに、クリーチャーよりも《象牙の仮面》でプレイヤー自身が被覆を持つことの方が実は多いです。なお旧枠モダンに呪禁は存在しません。
色の役割が現代よりも強い
ここからはスペルについてです。
現代マジックでは色の役割がだいぶ拡張されましたが、旧枠モダンのカードは2003年までのカードたちです。まだまだ色の役割という概念が色濃く残っています。
例えば、白はドロー能力を持ちません。
青はパーマネント破壊を持ちません。
黒はエンチャントにもアーティファクトにも触れません。
赤は衝動的ドローがありません。
緑は格闘によるクリーチャー除去を持ちません。
無色はアーティファクトと土地だけです。
上記の中にも一部例外はもちろんありますが、基本はこの通りになっています。ですが逆に、現代ではその色の役割から外された機能を持つカードも若干数ですが存在していますので探してみて下さい。
1枚で詰む致命的なカードが存在する
色の役割の話とも関連しますが、その色にとって致命的なカードというのが存在します。
わかりやすい例は、赤と黒にとっての《防御円》や《崇拝》《象牙の仮面》といったエンチャントでしょうか。赤と黒にとっては出てしまうと対処がほぼ不可能となってしまうカードですね。
色対策カードも少数ですが存在します。さすがに《日中の光》《寒け》《たい肥》レベルに強烈なものはいませんが、《冬眠》や《窒息》、《沸騰》《野火》などは存在します。
自分が使うデッキの構成が特定のカードで完封されてしまわないか、カードプールを確認しておきたいですね。
対策への対策を
色の役割が限られている以上、完全な単色でデッキを構築するのはリスクが伴います。となれば、弱点となる部分を補うために他の色と組み合わせるのが順当な手段です。
ただし、対策への対策をしすぎるとデッキの軸がブレてしまいかえって弱くなってしまうこともありますし、色を増やすことで色事故のリスクも生まれます。ここは現代マジックと同じですね。うまく調整したいところです。
また、色の組み合わせによっては弱点を補えない場合もあったりします。どうしようもないカードについては、アーティファクトや土地を頼るのも手です。《ネビニラルの円盤》や《鋸刃の矢》《氷の干渉器》、《砂漠》《流砂》などが人気どころです。
デッキ構築編
ここまでで、旧枠モダンの環境がどういうものか、そしてどんなカードが飛び交うのかは概ね伝わったかと思います。
この項では具体的に、デッキを構築するにあたり意識したいポイントを挙げていきましょう。
土地は23〜26
マナ効率が重要という話をしましたが、そもそもマナがなければ、土地がなければ効率どころか動くことすらできません。
そして旧枠モダンはカードを引く手段が乏しいという話もしました。ドロースペルは手札にあるけど撃つためのマナがない、なんて笑えない状況ですね。マナスクリューは敗北に直結すると思っておきましょう。
となると、デッキ構築の段階から土地を多めに入れておくのが土地事故を防ぐわかりやすい対策となります。土地が多いことによるマナフラッドに関しては防ぎようがありませんが、旧枠モダンではミシュラランドによる攻防も多いため、そちらでフラッドしたマナをうまく使うと良いでしょう。
アグロデッキは23、ミッドレンジは24〜25、コントロールは26を基本とするのがいいかと思います。
マナ基盤がめちゃくちゃ厳しい
現代モダンと旧枠モダンとの最大の違いにして致命的な差が、マナ基盤の貧弱さです。多色土地がめちゃくちゃ少ないのです。
ショックランドがありません。トライオームもありません。よって、フェッチランドで引っ張ってこれるのは基本土地のみです。そのフェッチランドも友好色のみです。
2色土地も、基本はペインランドです。《アダーカー荒原》から2点食らって撃つ《対抗呪文》はキツいです。
タップインデュアルランドがありますが、友好色のみです。「今時タップインデュアルランド!?」となるでしょうが、対抗色デッキだとそれすらありません。ペインランドと基本土地でがんばる形になります。
5色土地として《真鍮の都》がありますが、ペインランド以上に痛いです。他にも《反射池》《宝石鉱山》がありますが、《反射池》は出したい色を出せるオリジナルの土地が別に必要ですし、《宝石鉱山》は3回のみの使い切りです。
現実的なところとして、デッキは基本的に2色までにまとめたいですね。友好色なら、タップインデュアルランドとペインランド、《反射池》、フェッチランド、基本土地で戦えます。対抗色だと、ペインランドと《反射池》をうまく使いつつ、色拘束のきついカードは控えるなど工夫したいところです。
3色にする場合、対応する組み合わせのタップインデュアルランドとペインランドを使えますが、4枚ずつ投入すると土地からのダメージが痛すぎるかタップインまみれか、どちらかに陥りがちです。ド三色は避けて2色タッチ1色の形にしたり、マナ補助が得意な緑を交えるなどした方が無難かもしれません。
4〜5マナ域のカードがゲームを決める
そして現実的なラインとして。
ゲームを大きく動かすカードパワーを持ち、なおかつ毎ゲームほぼ確実に唱えられるマナ域のカードとなると、4マナあるいは5マナ域のカードがゲームの主役になってきます。このアクションをうまく通せるか、あるいはうまく防げるかがゲームの肝となるわけですね。
デッキの構成を見た際に、そのマナ域にゲームを動かせるカードが用意できるよう意識しておきましょう。ゲームの主役になるカードたちですからね。
1枚のカードで詰まない構築を
などと言いつつ、詰む時は詰みます。デッキの構成上どうしようもないカードが突然対戦相手から飛び出してくることもあるかと思います。
しかし、詰む可能性を減らす方法はあります。
その方法とは、カードプール内に存在するカードをよく知っておくことです。「そんなカードあるなんて知らなかった、今のデッキじゃどうしようもない」となり投了するのはなかなか堪えます。
知識は力です。そのカードの存在を知っているかどうかで防げる完封負けもありますよ。
もちろん、『死に覚え』でもいいです。初見で殺されたその次は、きっときちんと対策できるはずですので。
サイドボードは「60枚を補う15枚」に
マジックにおいてはマッチ戦が基本のため、メイン戦1本よりもサイド戦2本を取りに行く構築が重要なのは間違いありません。これは旧枠モダンでも同じです。
しかしサイドボードの枠は15枚しかありません。
全てのマッチアップを15枚でカバーし切るのは無理、というのは現代マジックでも同じですが、旧枠モダンでは特にその特徴が顕著です。この記事の最初で書いた通り、メタ読みは半ば無意味、かつアーキタイプの種類が非常に多いからですね。
そしてもうひとつ重要な点として、旧枠モダンのカードは「一芸に秀でたもの」が多いという点があります。
現代マジックでは、例えば《削剥》や《紅蓮破》のような、それ1枚で複数の役割を担えるカードが多数ありますよね。モードを選べるカードたちです。これらはいわゆる「丸いサイドカード」というやつです。
旧枠モダンには残念ながらそんな風に器用なカードはほぼ存在しません。「特定の相手には劇的に効くが、効かない相手には紙くず同然」レベルのカードが多いです。
ですので、サイドボードのカードはきちんとそれぞれに「このカードはこのデッキ(戦略)対策」と役割を持たせることが重要です。一芸に秀でた仕事人たちを複数ベンチに控えさせておきましょう。
また、サイドボーディングでデッキの形が歪み、デッキコンセプトが薄れるのも良くありません。ひとつのコンセプトを突き詰めた方が強いのは前述の通りです。
最近のマジックでは「75枚でひとつのデッキ」などと言ったりもしますが、旧枠モダンでは「メイン60枚の弱点を補うためのカード、それらを集めて計15枚」と意識してデッキを構築する方が良いかと思います。
プレイング編
旧枠モダンにおけるゲーム中のプレイングについてです。普段他の構築フォーマットではあまり意識しないような点がありますので、頭の片隅にでも入れておきましょう。
デッキのレンジとゲームのレンジを強く意識する
自分のデッキのレンジ(速度帯)を意識しましょう。
自分のデッキはアグロなのかコントロールなのかミッドレンジなのか、対して相手のデッキはどうなのか。その結果、ゲームはどのような展開になることが予想されるか。そのために自分は、ゲームの序盤中盤終盤にそれぞれどういう指針でプレイすべきか。ここを意識しておくだけで、ゲーム中の各カードの価値が変わってきます。
旧枠モダンは各カードの役割がはっきりしている分、デッキのレンジによる相性差が出やすい環境でもあります。コントロールはアグロ相手にどう立ち回るか、アグロはミッドレンジ相手にどう立ち回るか、ミッドレンジはコントロール相手にどう立ち回るか。
相性差をカバーするのは常にプレイングです。
キープ基準は厳しめに
自分のデッキが最も強く動ける初手を探しに行くことが重要です。
上記のデッキレンジの話で、例えばアグロデッキならば、初動2ターン目のぼんやりした「とりあえず動けるし」でキープした7枚よりも、1ターン目から攻めていけるダブマリした5枚の方がずっと強く立ち回れます。
また、サイド後などは特にキープ基準を厳しめにし、マリガンを躊躇しないのも重要です。1枚で相性差を覆すほどの刺さるサイドカードを投入したのなら尚更です。
ゲーム中のリソースの補充が難しいということは、初手で配られるハンドは、そのゲーム内で最も大きなリソース確保手段でもあります。
マリガンしてこれより良い初手はあるか、と考えてキープを判断しましょう。
実はリミテッドに近い
クリーチャーの価値が高く、ゲームの基本はクリーチャー同士の殴り合い。クリーチャーを巡るスペルの応酬。リソースの確保が難しい。デッキのレンジを意識する。初手が大切。
これらを読んで、既になんとなく気付いている方もいるかと思います。
実は旧枠モダンの環境は、リミテッドに近いです。
限られたカードプールの中からプレイアブルなカードを選んでデッキ構築をしているわけですから、ある意味リミテッドですね。
冗談はともかく。
意外にも、勝つために求められるマジックのスキルが多いのが旧枠モダンというフォーマットです。リミテッド巧者にとっては、やりがいのあるフォーマットかもしれませんね。あるいは改めてリミテッドやコンバットの腕を磨きたい人にも向いたフォーマットと言えるかもしれません。
ニッチなカードを使うだけの単なる奇特なフォーマットと思わず、どうせなら旧枠モダンでさらに腕を磨くのも良いかもしれませんよ。
おわりに
他の構築フォーマットでは当たり前のことが、旧枠モダンでは当たり前ではない。逆に、他の構築フォーマットではあり得ないようなことが、旧枠モダンでは当たり前だったりする。
旧枠モダンは、やりがいのあるフォーマットです。
カードプールが少しずつ増えていっている点や、プレイ人口の少なさ故に研究がゆっくりである点、そしてプレイヤー皆が「お気に入り」で勝ちに行っている点などで、旧枠モダンの環境は不思議なバランスでメタの流動性を確保しています。
懐かしのカードやかつてのお気に入りのカードを使いながら、まったりとゆるふわに、だけど皆が「勝ち」を狙いに行っています。
筆者は実績があるような優れたプレイヤーではありませんが、この記事では少しでもそんな「勝ちたい」に繋がるような内容を書けていれば幸いです。
本当は旧枠モダンでよく見るカードについての解説や、旧枠モダンをプレイする際の小テクなども載せたかったのですが、フォーマットの前提と基礎知識だけで15000字を超えてしまったので、それらはまた後日、別記事にて書かせていただこうと思っています。
ひとまず後編はここまでです。次回はカード紹介&解説編になるかと思います。
なお、現時点で既に旧枠モダンに興味あるから何か情報源を、という方は、Twitter(X)で「旧枠モダン」「旧モ」などで検索してみると、旧枠モダン民の活動が見れたりします。旧枠モダン情報アカウント様(@Old_modern)をフォローしてみるのもいいかと思います。
もしくは「旧枠モダン、ちょっと興味あるな……」と呟いてみて下さい。どこからか旧枠モダン民が現れて、スッと情報を置いていってくれることでしょう。
また、もし貴方が関西のマジックプレイヤーならば、関西旧モアカウントであるMF梅田(仮)様(@9mo_osaka)が主催する体験会・交流会に顔を出してみるのもいいかもしれません。筆者も定期的に参加しておりますし、貸し出しデッキなども用意されています。
ちなみにですが、筆者のアカウント(@SaqulayMTG)もございますので、よければ覗いてみてやって下さい。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
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