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10月の雨はやがてハリケーンに…エデン・ゴラン(Eden Golan)の目はいつも深い悲しみ に沈んでおりました~ユーロビジョン・ソング・コンテストEurovision Song Contest 2024

エデン・ゴラン(Eden Golan)

 今年の5月にスウェーデンのマルメで行われたユーロビジョン・ソング・コンテスト。セミファイナルを終えグランドファイナルへの出場を決めたアーティストの共同会見の場で イスラエル代表のエデン・ゴラン(Eden Golan)に対して記者から「あなたがESCに出場することで他の出場者に危険がおよぶかも(テロの巻き添えになるかも)しれないということは考えましたか?」と辛辣な質問が飛びました。記者は「答えたくなければ答えなくて構いません‥」と続けますが 「どうしてだ?」と隣にいたオランダのヨースト・クラインから突っ込みが入ります。

記者会見の様子(デンマークのニュースより)

 凍った会見の場で彼女は笑顔を繰り出し毅然と答えました。「私たちがここにいる理由はただひとつ(=音楽)。EBUは ESCが誰にとっても安全で団結できる場所になるようあらゆる安全策を講じてます。だから誰もがみんな安全だと感じます…。」エデンは「UNITED BY MUSIC」を唱えて質問を切り抜けますが、イスラエルの警護団(シークレットサービス)を大勢従えてのマルメ入り。厳戒態勢の元、アリーナ近くのホテルに缶詰め状態。おそらく会期中に他国のアーティストとの交流もほとんどなかったでしょう。

 とにかくエデン・ゴランは会期中に終始笑顔を絶やさず気丈に振る舞っておりましたが いつどんな時でも 目は完全に悲しみを湛えて灰色に沈んでおりましたね。若い彼女にとって今回のESC出場は相当なプレッシャーであったことは間違いありません。考えてもみてくださいよ、まだ20歳の娘さんですよ?こんな国際的な問題の矢面に立って 孤独な戦いを強いられちゃってる姿は 個人的な政治思想や信条を超えて 本当に見ていて切なかったです。

 エデンは 2003年にウクライナ系ユダヤ人の母親と、ラトビア系ユダヤ人という父親の家庭に生まれ、6歳のときに父親の仕事の都合で両親とともにロシアに移住。そこで思春期を過ごしますが ロシア代表としてESCを目指したこともあるようです。

(Image: Getty Images)

 エデンが歌うイスラエルは セミファイナルを予選を通過し、26カ国の代表とともに グランドファイナルにのぞみました。決勝の冒頭で彼女は イスラエルの旗を大きく掲げて堂々とステージに登場。緊張のあまりか低音がよく出てない印象でしたが、その歌唱やパフォーマンスは総じて素晴らしく、結果、グランドファイナルでイスラエルは 5位という成績。それを支えたのはユダヤ人コミュニティー勢力が強い国々からの投票数と 圧倒的な視聴者投票数。国を越えた同情票もかなりあったと思います。

 ところで彼女のエントリー楽曲『Hurricane』が、実は 歌詞やタイトルを変えたものであったことを後になって知りました。元々の楽曲名は『October Rain』。ハマスによるイスラエル攻撃(2023年10月)と現在進行中のパレスチナ紛争を想起させることを問題視した欧州放送連合(EBU)が 政治的中立性の立場から放送不可としたため、急遽、歌詞とタイトルを変えてのエントリーとなったとか。

(AP連合ニュース)

 グランドファイナルでの出番を終えた直後、舞台裏の控室(GreenRoom)で、エデンは すべて歌い遂げた達成感からか堰を切ったように号泣。チームが水を差し出しながら彼女の周りに集まり互いの健闘を称えあっていた様子がSNSに流れました。参加当初から このユーロビジョンでイスラエルの強い意志を世界に知らせるという一つの目標を持っていると公言していたエデン。「その目標は大きく達成されました」「私は一瞬たりとも未だ解放されざる人質のみなさんを忘れてはいません」「今回このイベントに参加したことを彼らに捧げます」と政治的な立場でESCに参加したことを自ら表明し続けました。

決勝で歌い終えて安堵の号泣(SNSより)

 また、ESCを終えてイスラエルに帰国したエデンは「このような時にイスラエルを代表する機会を与えられたことは大きな栄誉でした」と語りつつも、張りつめていた気持ちが母国で 再び緩んだとみえてプレスの前でも泣き崩れたそうです。

 祖国と民族の平和を思う気持ちはだれでもみな同じ。イスラエルのパレスチナへの軍事侵攻はまったくもって肯定できるものではありませんが、 自国のためにステージに立ち 見事なパフォーマンスを見せた 一人の人間=音楽アーティストとしてのエデン・ゴランは よくがんばりました。その意味では賞賛に値すると思います。願わくば 今度は ”愛と平和に満ちたポジティブな楽曲" を携えて またユーロビジョンに戻ってきてほしい…。彼女には 平和な世の中で これからの世界的な活躍を期待します。


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