【原告準備書面1】札幌弁護士会に対する不当利得返還請求訴訟

本日(2月29日)、札幌弁護士会に対する不当利得返還請求訴訟の第2回口頭弁論期日がありました。
答弁書に対するこちらの反論の番でしたので、原告準備書面1と2を陳述しました。
準備書面1が10頁になったので、主張の後半を準備書面2にしました。
実際の原告準備書面1の方には、黄色マーカーをした部分があります。
原告準備書面1をコピペしたものを以下に掲載します。


令和5年(ワ)第2440号 不当利得返還請求事件
原告 林 朋寛
被告 札幌弁護士会

原告準備書面⑴

令和6年2月18日

札幌地方裁判所 民事第3部合議係 御中

原告  林  朋 寛 

第1 請求原因に対する被告の認否について

 1 被告は、請求の原因に対する認否において、第5「2 法律上の原因のないことについて」(訴状9頁以下)について、「⑵ 原告の質問等に対する被告の回答」の記載のやり取りについては認め、他は否認ないし争うとする(答弁書5頁⑵)。その否認の理由は不明である。

 2 請求の原因第5・2「⑴ 個別規定の無いこと」(訴状9頁)について、被告は、会館維持負担金、道弁連会費、すずらん会費のそれぞれについて定めた会則や会規等での個別規定の存在・内容を具体的に主張しないから、それらの個別の定めは無いことに争いはないといえる。

 3⑴ 請求の原因第5・2「⑵ 原告の質問等に対する被告の回答」の記載のやり取りについて被告は認めている以上、同「⑶ 被告の主張の変遷」(訴状15頁)について被告の否認する範囲は不明確である。

 ⑵ 原告の質問に対して被告が、道弁連会費や すずらん会費の根拠を会則94条5項と回答したり、道弁連の すずらん基金に関する規則5条1項と述べていたこと(訴状15頁⑶イ)は、争いのない事実である。なぜなら、「⑵ 原告の質問等に対する被告の回答」の記載のやり取りについて被告は認めているからである。

 ⑶ つまり、被告は、原告には当初、道弁連会費や すずらん会費が特別会費であるとは回答していなかった

 4⑴ 請求の原因第5・2「⑷ 会館維持負担金の根拠がないこと」(訴状16頁)について、被告は、「使途、納付期限、納付時期」(被告の会則94条3項)の定めのある総会決議があることは主張していない。被告は、決議の経緯等に照らすと無効ではないと主張しているに過ぎない(答弁書14頁4⑵)。

 ⑵ したがって、会館維持負担金について、「使途、納付期限、納付時期」(被告の会則94条3項)の定めのある総会決議は無いことに争いはない。

 5 請求の原因第5・2「⑸ 道弁連会費の根拠がないこと」(訴状17頁)について、被告は、「道弁連会費について、被告は予算および決算を総会で決議ないし承認しておらず、被告において特別会費として扱われていない」との原告の主張に対して何ら具体的に主張していない。

   被告が主張しないのは、道弁連会費について予算や決算が作成されず、特別会費として扱われてきた事実が存しないからである。

 6 請求の原因第5・2「⑹ すずらん会費の根拠がないこと」(訴状17頁)について、被告は、「すずらん会費について、被告は予算および決算を総会で決議ないし承認しておらず、被告において特別会費として扱われていない」との原告の主張に対して何ら具体的に主張していない。

   被告が主張しないのは、すずらん会費について予算や決算が作成されず、特別会費として扱われてきた事実が存しないからである。

 7 弁護士会連合会が法人格なき社団(答弁書4頁第2・2)かどうかについては、原告は不知である。弁護士会連合会の法的性質については本件には関係無いと思料する。

 

第2 いわゆる部分社会論について

 1 被告は、弁護士会の総会決議が違法無効とされるのは公益を害するといい得る程度に実質的な法令等の違反があることが明白であると認められる例外的な場合に限られる旨を主張し(答弁書15頁イ)、脚注11(答弁書17頁)で大阪高裁平成元年2月28日判決を引用する。

 2 被告の主張は、司法審査の対象をおよそ実際にはあり得ない範囲に限定するものであるし、上記大阪高裁判決(甲19)の一審の大阪地裁昭和63年2月4日判決(甲18)は最高裁大法廷昭和35年10月19日判決(甲17)を前提とするものであるから、被告はいわゆる部分社会論(部分社会の法理)を主張しているものといえる。

 3⑴ 部分社会論の判例とされる上記昭和35年最高裁大法廷判決等は、最高裁大法廷令和2年11月25日判決(甲16)によって変更されている。

   団体の自律権等を主張して司法審査を排しようとする被告の主張は、この令和2年最高裁大法廷判決に反するものであるし、以下に述べる宇賀克也裁判官の補足意見の観点からは憲法を蔑ろにする主張である。

 ⑵ 上記令和2年最高裁大法廷判決での宇賀克也裁判官の補足意見では次のとおり述べられている。

法律上の争訟については、憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障されており、また、法律上の争訟について裁判を行うことは、憲法76条1項により司法権に課せられた義務であるから、本来、司法権を行使しないことは許されないはずであり、司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは、かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される必要がある。

 ⑶ したがって、弁護士会の総会決議を違法無効とする場合を極端に限定する上記の被告の主張は、憲法上も判例上も根拠がなく、採用され得ない。

 ⑷ なお、被告の主張(答弁書16頁)は、日弁連が弁護士会の総会決議を取り消すことができることを規定した弁護士法40条についての日弁連の解説を前提としたものであり、本件に妥当するものではなく、また、論理に飛躍がある。

 4⑴ 弁護士会に何らかの裁量が仮に認められるとしても、その裁量は、弁護士法等の法令や会則に違反したり、これらを無視したりできるものではない

 ⑵ また、弁護士会は、いわゆる強制加入団体であり、弁護士業をしようとする限りは弁護士会に加入しなければならないとされている(弁護士法8条、9条参照)。札幌地方裁判所の管轄区域内で法律事務所を設置して弁護士をするのであれば、被告に加入する以外の選択肢は無い。

 ⑶ 弁護士会の内部における相対的多数派から少数派の権利・利益が保護される必要がある。

 ⑷ したがって、弁護士会に仮に一定の裁量が認められるとしても、弁護士会の総会決議等の諸活動については常に司法審査の対象となるというべきである。

 5⑴ 被告は、弁護士会が「国家機関からの監督を受けないという自治権ないし自律権」を付与されているなどと主張する(答弁書16頁)。

 ⑵ 現行法では、弁護士や弁護士会、日弁連について、懲戒等の監督をしたり許認可をする行政官庁が無いというだけであって、特に何らかの自治権や自律権が付与されたという憲法あるいは法令上の根拠があるものではない

 ⑶ 弁護士会が一般の民間団体と別に取り扱われなければならない法律上の根拠は無く、むしろ、監督官庁が無く、強制加入団体であることから、活動の適法性を確保し、会員の権利利益を保障するため、一般的な団体よりも厳しく司法審査がなされるべきである。

 ⑷ 裁判所が弁護士会について常に司法審査の対象とすることは、弁護士について裁判所の規則制定権(憲法77条1項)を明示した憲法の趣旨にもかなうものである。

 

第3 令和5年11月24日決議の主張に対する原告の認否等

 1 被告は、道弁連会費やすずらん会費の根拠として、本件提訴後の令和5年11月24日の総会決議を主張する(答弁書9頁⑵、10頁⑶)。

 2 原告は、同総会に出席しておらず、自ら議事録を確認をしていないので、同総会決議の存在や内容については不知である。同総会決議の効力について否認ないし争う。

 3 同総会決議の遡及効は無効であり、また、同総会決議は会則94条3項で要求されている「使途、納付時期」の定めを欠くから無効である。

 

第4 本件の主な争点について

   被告が仮定の話を云々する(答弁書18頁下から3行目「なお」以下)中での脚注14の記載は、攻撃防御方法としての主張ではないと解される。
   したがって、答弁書の被告の主張からは、本件訴訟の主な争点としては、会館維持負担金、札弁会費、入会金については、それぞれについて令和3年11月26日総会決議(以下「令和3年決議」という。)の有効性が、道弁連会費とすずらん会費についてはそれぞれについて令和5年11月24日総会決議(以下「令和5年決議」という。)の有効性が、問題となる。

 

第5 道弁連会費とすずらん会費が被告の「会費」にあたらないこと

 1 令和5年決議の有効性を論じる前に、道弁連会費とすずらん会費が被告の「会費」にあたるかが問題となる。
   被告は、道弁連会費と すずらん会費についても、「被告の存立及び運営に必要な財源を確保するために」会員から強制的に徴収する金員であるから、「会費」(弁護士法33条2項15号)にあたる旨を主張する(答弁書7頁⑵)。
   しかし、道弁連会費とすずらん会費は、「被告の存立及び運営」には関係が無く、被告の主張を前提としても、「会費」にあたらない。

 2 道弁連会費とすずらん会費について、被告は、予算や決算において、特別会費として扱ってこなかった(甲26の1、26の4、26の5)。

 3 被告は、道弁連会費や すずらん会費が特別会費であるとは認識していなかった(訴状9頁2⑵ウ、甲27)。

 4 したがって、道弁連会費と すずらん会費は、長年にわたり被告が根拠なく不当に徴収してきた利得金に過ぎない。

 5 なお、答弁書8頁脚注6で被告が引用する東京地裁平成29年6月30日判決は、臨時会費が寄附かどうかが争われた事案であり、本件とは関連が無い(甲20)。

 

第6 会則第94条3項違反について

 1⑴ 被告は、会館維持負担金についての令和3年決議(甲13、乙4・4枚目)、道弁連会費と すずらん会費についての令和5年決議(乙6)に、会則94条3項の「使途」「納付時期」の定めがあるとは主張していない(答弁書14頁4⑵)。
   したがって、これらの令和3年決議および令和5年決議に会則94条3項の「使途」「納付時期」の定めが無いことについて争いはない

 ⑵ 会館維持負担金についての令和3年決議、および、道弁連会費と すずらん会費についての令和5年決議は、使途と納付時期の定めをしておらず、会則94条3項「特別会費は、その額、使途、納付期限、納付時期及びその他必要な事項を定めて総会において出席した弁護士会員の3分の2以上の賛成をもって議決しなければならない。」に真っ向から反する。
   弁護士会の会則は、弁護士会の基本ルールでありいわば弁護士会の憲法である。会則に違反した行為は、無効という他ない。

 ⑶ 会則の違反を容認してしまうと、被告を含めた弁護士会や他の団体が団体の基本的なルールを無視ないし軽視して活動することを許してしまうことになり、妥当でない。

 ⑷ 弁護士法は、「会費に関する規定」を会則の必要的記載事項としており(同法33条2項15号)、法が会則で定めることを要求する事項の違反は、法律違反と同視して無効というべきである。

 ⑸ア 被告は、会費に関する規定が必要的記載事項とされる趣旨から、「使途」についての決議の瑕疵は会費の納付義務に影響しないと主張する(答弁書15頁脚注8)。必要的記載事項とされる趣旨から何故に「使途」についての決議の瑕疵が会費の納付義務に影響しないのか、その論理は不明である。(なお、本件では、総会決議に「使途」の定めそのものが無いのであるから、「瑕疵」というほどの軽いものではない。)

 イ 被告の引用する『条解弁護士法』(乙1・366頁)では、同法33条2項15号の会則の必要的記載事項の趣旨は、会費の負担は「個々の会員にとっては、直接その経済的利害に関わる重要事項である」として、弁護士会の財政的要求と会員の経済的利害との調和を図る必要があり、会費の額その他の内容を決定するには総会の決議を要することとし、会員の総意を反映させることにしたもの、とされる。『条解弁護士法』でいう同法33条2項15号の趣旨からしても、「使途」の定めが無い以上は会員の総意を反映しようが無いのであるから、「使途」の定めの無い総会決議は無効というべきである。

 ウ また、被告は、答弁書15頁脚注8で、税理士会の事案の最高裁第一小法廷平成5年5月27日判決(甲22)を引用するところ、同判決の事案は、税理士が税理士会に支払う一般会費の増額の決議が問題になったもので、同判決で問題となった「使途」は税理士会が一般予算から支払う使途のことである。同判決は、使途の定めをすべき特別会費について使途を定めなくて良いとしたものではない(同判決の控訴審判決・甲21参照)から、被告の引用は裁判所の誤解を招こうとするものである。

 ⑹ 被告の会則94条3項の趣旨は、会費の負担は会員の経済的利害に関わる重要事項であるから、特別会費について「その額、使途、納付期限、納付時期及びその他必要な事項」を特別決議により定めることで、特別会費の負担を具体的に限定して会員の会費の負担をできるだけ抑えようとしたもの解される。
   また、そもそも、「使途」が明確に定められなければ、その使途に必要な特別会費の金額や納付時期を合理的に算出することができず、妥当な特別会費を合理的に定めることができないから、会員の総意を適切に反映することもできない。
   さらに、「使途」の定めが無ければ、特別会費の毎年度の支出について適切なものかどうかの検証もし難くなるし、特別会費の必要性を見直す契機が被告内部の機関や一般の会員にも与えられないことになる。「納付時期」の定めも無いと、納付する期間の満了前に特別会費についての見直しをする機会も生じないこととなってしまう。
   したがって、「使途」や「納付時期」の定めを欠く総会決議は、会則94条3項の要求する定めを欠いており、無効というべきである。

 ⑺ 以上より、会館維持負担金についての令和3年決議、並びに、道弁連会費と すずらん会費についての令和5年決議は、会則94条3項の定めを欠いて無効である。

 2 会館維持負担金について

⑴ 被告は、会館維持負担金の令和3年決議について、「被告が所有する会館の維持に係る費用に充てるため、会館維持負担金決議が改廃されない限り、被告に所属する弁護士会員に対し、入会月から退会月の前月に至るまで」の納付義務を負わせる趣旨でなされたものであることが明らかであると主張する(答弁書14頁下から1行目以下)。

 ⑵ 原告は、上記の被告主張について不知ないし争う。

 ⑶ 日弁連の承認の対象である令和3年決議(乙4・4枚目)の文言からは、被告主張の上記趣旨は何ら読み取れない。

 ⑷ア 会館維持負担金の令和3年決議は、附則で昭和63年6月1日から適用するとしているところ、そもそも被告が主張する「被告が所有する会館」はこの昭和63年6月1日には存在していなかった。
被告が現在の会館を所有したのは、平成16年2月27日ころである(甲15)。

 イ 被告の昭和63年5月14日定期総会においては、会館維持負担金を減額するという予算案の説明の中で、被告の当時の副会長からは、会館取得をあきらめ、会館維持負担金は賃料等のランニングコストに見合うもので足りるという説明がなされている(乙2・29枚目の26頁左から4行目以下)。

ウ 昭和63年(1988年)6月1日から平成16年(2004年)2月27日ころまでの約16年間は、被告の会館は賃借していた建物であった。この間に会館維持負担金名目で会員から徴収した金銭をどのようなことに支出したのかについての詳細は不明であるけれども、主に建物賃料に支払われたものと思われる。

エ 平成16年(2004年)2月27日ころから被告の会館の土地建物(甲14、15)の根抵当権が解除された令和3年(2021年)7月28日までの約17年間は、会館維持負担金名目で会員から徴収した金銭を会館の土地建物の取得のための借入金の返済にあてたものと思われる。

オ 会館維持負担金名目で会員から徴収した金銭は、上記のとおり、場当たり的に使い途が変遷している。

カ 会館維持負担金について「使途」の定めが無いために、「納付時期」つまりいつまで徴収されるのかと言うこと及び金額の妥当性が被告において何ら検証されてこなかった。

⑸ 上記⑷のとおり、会館維持負担金は、特別会費を定めた総会決議が無く、会則94条3項の定めがなされていなかったために、この約36年間に、使途が場当たり的に変遷し、金額の妥当性が不明となっている。
  令和3年決議が会則94条3項の定めを欠いていても有効とされるのであれば、このように使途が変遷し金額の妥当性も不明な状態が今後も続くことになる。
  したがって、会館維持負担金の令和3年決議は、会則94条3項の定めを欠き、無効とされるべきである。

 

第7 原告のその他の主張等
  原告のその他の主張反論等は、原告準備書面⑵で述べる。

以 上

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