【原告準備書面3】札幌弁護士会に対する不当利得返還請求訴訟

令和6年4月25日の第3回口頭弁論期日までに、被告(札幌弁護士会)の側から準備書面1が出ておりました。被告の準備書面1に対して、こちらからの原告準備書面3を第3回期日に用意できたので、期日の当日に提出しました。期日当日に提出したので、陳述は次回期日ということで、本日(6月6日)の第4回口頭弁論期日で陳述となりました。

今日の期日では、こちらからは原告準備書面3の他に、期日間で提出していた原告準備書面4〜6も陳述し、被告からは準備書面2の陳述がありました。本日で結審となり、判決日は、令和6年9月12日と指定されました。
(被告の書面は公開しません。)


令和5年(ワ)第2440号 不当利得返還請求事件
原告 林 朋寛
被告 札幌弁護士会

原告準備書面⑶

令和6年4月25日

札幌地方裁判所 民事第3部合議係 御中

原告  林  朋 寛 

第1 被告の準備書面⑴の別紙記載の過去の総会決議について
 1 令和3年決議(同別紙㉖)および令和5年決議(同別紙㉗)を除いた被告の準備書面⑴の別紙記載の過去の総会決議について、被告は、日弁連の承認があったことを証明する書面を証拠として提出していない(乙8〜10、12〜25、30〜33、35、37、40)。
   これらの決議の存在について、原告は不知である。
これまで明らかとなっている総会決議と同様に、被告主張の各決議が存在していたとしても、日弁連の承認を欠いて無効な決議であったといえる。
  (なお、同別紙の④の「平成28年」は「昭和28年」の誤記と解される。)

 2 会館維持負担金についての昭和63年決議(同別紙⑲、乙2・29枚目)は昭和63年度の予算の決議であるから、その効力は同年度(平成元年3月まで)にしか及ばない。
したがって、同決議が会館維持負担金の根拠(ただし、日弁連の承認を欠き無効なもの。)だったとしても、平成元年度(同年4月〜)以降は、総会決議も無く徴収をしていたことになる。

 

第2 道弁連会費や すずらん会費が被告の「会費」にあたらないことについて
 1 被告が道弁連会費や すずらん会費が被告の特別会費であるとは認識していなかったこと(原告準備書面⑴6頁3項)については争いが無い(被告の準備書面⑴3頁第1・1項参照)。
 2 被告は、弁護士会連合会の活動に必要な財源を確保することは弁護士会の存立及び運営のために必要なものである旨を主張する(被告の準備書面⑴3頁第1・1項)。
しかし、被告の主張は、弁護士会連合会の活動を云々するだけで、弁護士会の存立及び運営についての必要性については論証されていない。
すずらん会費(被告のいう「基金特別会費」)については、被告の主張(被告の準備書面⑴3頁第1・1項の「しかしながら」の段落)には弁護士会の存立及び運営との関連性は何ら示されていない。
 3⑴ 被告の言う 過去において道弁連会費相当額が予算及び決算に計上されていた時期(被告の準備書面⑴4頁6行目)というのは、昭和26年から昭和51年までの間のことと思われる(同別紙②〜⑤、⑧、⑬)。
 ⑵ この期間には、特別会費の規定が無かったから、少なくともこの期間の道弁連会費は特別会費ではあり得ない。また、通常の会費とは別に道弁連会費を徴収していたのであるから(乙24・7頁)、道弁連会費は被告の通常の会費ともされていなかった
   すなわち、この期間においても、被告は、道弁連会費を根拠無く徴収していたことになる。
 ⑶ 昭和51年度以降に「日弁連会費」や「道弁連会費」の科目が現れないことになった(同別紙⑬)ことについて、原告は不知である。同年の被告の議事録(乙24)を見ても、「日弁連会費」や「道弁連会費」の科目が現れないことにしたのかどうか及びその理由については不明である。
 ⑷ なお、日弁連会費については、弁護士は日弁連の会員であるところ(弁護士法47条)、日弁連の会則(甲2)95条1項では弁護士は所属弁護士会を経て会費を納めることとされ、被告の会則(甲1)94条5項で被告が弁護士会員から徴収するとされている。したがって、本件で問題となっている道弁連会費の場合とは異なり、被告が徴収する日弁連の会費については被告の収入ではないものとして被告の予算や決算において日弁連の会費については計上しない、という処理がされたことに理由が無いものではない。
 4⑴ 道弁連会費・すずらん会費が被告の予算・決算に計上されていなかった事実は、道弁連会費やすずらん会費が弁護士法や会則でいう「会費」に該当するかどうかの認定・評価の基礎となる事実である。
 ⑵ なお、道弁連会費・すずらん会費が予算・決算に計上されてこなかった事実を含め、被告の会費ないし特別会費として扱われてこなかった事実は、令和5年決議の遡及効の有効性の判断の基礎ともなる事実である。
 5 道弁連会費・すずらん会費は、被告の特別会費だったとはいえないから、被告が原告から道弁連会費・すずらん会費の名目で徴収した金員は不当利得である。

第3 会則94条3項違反について

(会費及び特別会費)
第94条 弁護士会員は、会費及び特別会費を本会に納めなければならない。
2 会費は毎月末日迄に納めるものとし、その額は総会によって定める。
3 特別会費は、その額、使途、納付期限、納付時期及びその他必要な事項を定めて総会において出席した弁護士会員の3分の2以上の賛成をもって議決しなければならない。
4 会費及び特別会費は、弁護士会員が本会の弁護士会員となった月分から徴収し、本会を退会した月分は徴収しない。

  1 特別会費の「使途」や「納付時期」の「定め」というものは、決議の内容として明記されるべきものであって、会館維持負担金の令和3年決議や道弁連会費・すずらん会費の令和5年決議の内容には何らその「定め」が無い。
   なお、日弁連の特別会費(甲2・95条の3第2項)についての総会決議(甲33、34)には、明確に使途や納付時期の「定め」がある。日弁連の決議と比較しても、令和3年決議や令和5年決議にはそれらの「定め」」が無い。
 2⑴ 被告は、会館維持負担金・道弁連会費・すずらん会費について、「それらの名目をもって各決議に係る特別会費の使途を定めたものと解される」と主張する(被告の準備書面⑴4頁2⑴)。
 ⑵ 被告の主張する「名目」が、何を指すのか不明で、「名目」が何かに記載されているものなのかも不明である。
   そのような曖昧な「名目」では、「事項を定め」(被告の会則94条3項)たことにはならない。
 ⑶ 上記の被告の主張では「と解される」とされているところ、「事項を定め」ていないからこそ、「解される」という解釈で誤魔化すより他ないのである。
 3⑴ 被告は、会館維持負担金について、原告の指摘(原告準備書面⑴9頁⑷)を受け、「被告が所有する会館」との主張が不正確・不適当であったので訂正するという(被告の準備書面⑴4頁下から4行目)。
   被告のこの主張の訂正について、相手方当事者の同意が必要な場合だとすれば、原告は同意しない。
 ⑵ 被告がこのような「不正確・不適当」な主張をしてしまうということは、もともと、会館維持負担金について使途の定めが無いことの一つの証左である。
 4 被告は、議案書の記載及び臨時総会における説明から使途が明らかである旨を主張する(被告の準備書面⑴4頁2⑴)。
   しかし、議案書の記載や総会での執行部の説明には何ら規範性が無いから、「定め」にはなり得ない。議案書の記載や総会での説明は「定め」の解釈に反映されることがあり得るとしても、本件では令和3年決議や令和5年決議に「定め」そのものが無い。
 5 被告は、納付時期について、「各決議の適用日から各決議の改廃に至るまでの間の各月を納付時期と定めたものと合理的に解することができる」と主張する(被告の準備書面⑴5頁)。
   このように、被告が「合理的に解することができる」などと主張していること自体、納付時期の「定め」は無いことを示している。「定め」があれば、これが「定め」だと主張すれば足りるからである。
 6⑴ 被告は、特別会費の総会決議について「使途」や「納付時期」の「定め」をすべきという議論であるのに、特別会費を定める総会決議が特別会費に係る会員の会費の負担をできる限り抑えようという実質的要請の趣旨が会則94条3項に含まれれば同項と総会決議が矛盾抵触するか否かの判断に困難をきたすなどと主張して(被告の準備書面⑴6頁)、論点をすり替えようとしている。
 ⑵ 弁護士会の目的は限定的に法定されていること(弁護士法31条1項)や、弁護士会が強制加入団体であることからも、「使途」や「納付時期」を明確に定めるべきとする原告の会則94条3項についての解釈(原告準備書面⑴6頁第6)が妥当である。

 第4 総会決議の遡及的効力の無効について
 1 租税事案との比較について
⑴ 被告は、「租税立法に関する事案との比較をもって直ちに本件各決議の違法無効を論ずることはできない」などと云々する(被告の準備書面⑴7頁 第2・1)。
そもそも租税事案を持ち出したのは被告である。
 ⑵ 原告準備書面⑵第1・1でも指摘したように、令和3年決議や令和5年決議の遡及適用の附則は、数十年にわたり法律上の根拠なく課税していたことが発覚したため課税の根拠を数十年前まで遡及させる立法をしたことと同様のインチキである。
   そのような令和3年決議や令和5年決議のインチキを肯定するような「諸事情」(被告の準備書面⑴7頁下から1行目)は無い。
 ⑶ 被告は、マンション管理組合に関する最高裁第三小法廷平成22年1月26日判決(甲38)を指摘する(被告の準備書面⑴8頁脚注4)。
   しかし、この判決文を確認すれば、同判決は 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)66条、31条1項の解釈適用が問題になった事案であり、遡及効とは関係の無い判決であることが分かる。
 2 弁護士法33条違反について
   被告の主張するように日弁連が弁護士会の承認申請に対して指導することが可能としても、既成事実を積み上げて事後承認を求めることは承認を事実上強制することになるから、被告の主張(被告の準備書面⑴8頁2)は的確でない。
 3 無効行為の追認の無効について
 ⑴ 被告は、弁護士会の決議に民法119条の適用があることに疑問を呈するところ(被告の準備書面⑴10頁4)、その適用を否定すべき根拠があるものではない。
 ⑵ 被告は、総会決議を「特殊の法律行為」とする一方で(被告の準備書面⑴10頁下から7行目)、債権的遡及的追認は契約自由の範囲内で有効であるなどとして(同10頁下から2行目以下)総会決議を契約に類して主張しており、その主張は整合性を欠く。
 ⑶ なお、被告の総会決議は、被告と原告との契約ではないから、原告の不当利得返還請求権を原告の同意なしに奪うことはできない。
 4 不当利得返還請求権を一方的に奪うものであることについて
 ⑴ 被告は、原告の主張について「論点先取の議論」などと非難する。
   しかし、時系列の順では、令和3年決議までに入会金・札弁会費・会館維持負担金について民法の要件を満たして不当利得返還請求権が生じていたし、令和5年決議までに道弁連会費・すずらん会費について同様に不当利得返還請求権が生じていた。したがって、被告が非難するような論点先取などということにはならない。
 ⑵ 令和3年決議および令和5年決議は、既発生の不当利得返還請求権を法的根拠なく遡って消滅させようとするものであり、無効である。
これらの決議が遡ったとしても、少なくとも不当利得返還請求権を否定する効力は無いものというべきである。

第5 弁護士会の総会についての実体的基準についての被告の主張について
 1 被告は、被告の主張は部分社会の法理に依拠したものではないとして、原告の主張を非難する(被告の準備書面⑴13頁第3)。
 2 しかし、被告の主張する“実体的基準”は、弁護士会の総会決議が違法無効とされる場合を極端に限定したものであり、実質的に司法権が及ばない範囲を広く認めるものであり、裁判を受ける権利の保障(憲法32条)や裁判所にすべて司法権が属すること(憲法76条1項)からも妥当でない。
 3 なお、被告の主張する基準に対する原告の主張(原告準備書面⑴3頁第2)は、部分社会論に限られるものではない(同第2・4項5項)。
 4 また、弁護士会と同じく強制加入団体である司法書士会や税理士会についての訴訟では、被告の主張するような特殊な基準は採られていない(甲35〜37)。

第6 被告の必要性等の主張について
 1 被告は、令和3年決議及び令和5年決議について、必要性等がある旨の主張をする(被告の準備書面⑴14頁3項〜)。
   被告の主張する必要性及び合理性は、単に被告の都合に過ぎず、本件の不当利得返還請求権の存在・内容には影響しない。
 2 被告が会員に対して本件の会費相当額の返還をすることになれば財源や手続き負担が必要などというところ、いわゆるサラ金が過払い金を返還するのに財源や手続きの負担があるからといって過払い金を免れることができないのと同様に、被告の主張には意味が無い。
 3 なお、被告は、被告に対して不当利得返還請求をしているのが今のところ原告のみであることをたびたび指摘するところ、そうであれば、原告にだけ返還すれば足りるのであるから、財源等の問題は生じない。
   (ただし、本件訴訟の認容判決が下されれば、原告と同様に被告に対して請求する被告の会員・元会員はいるものと思われる。)
 4 被告は、会員の予測可能性が奪われない旨を主張する(被告の準備書面⑴16頁下から4行目)。
   被告のいう「予測可能性」は何を予測することをいうのか不明確であるところ、不当利得返還請求権を奪われることの予測について言っているものと解される。
   しかし、強制加入団体である被告の会員は望むと望まないにかかわらず被告に会費・特別会費を強制的に徴収されているのであるし、徴収時に不当利得になると認識して会員は被告の徴収に応じているものではない。被告の会員は、適法な根拠のある徴収だといわば被告にだまされて徴収され続けていたものといえる。このように徴収されていた会員にとっては、徴収された金員が不当利得になると徴収時に認識するのは困難であったから、不当利得返還請求権を奪われることを予測することができるものではなかった。
   したがって、被告の主張の予測可能性を問題にすること自体、適切なものではない。
 5 被告は、決議の遡及適用によって「著しく法的安定が害されたりすることになるものとはいえない」と主張する(被告の準備書面⑴16頁)。
   しかし、令和3年決議や令和5年決議は、既に生じていた原告のあるいは被告の会員の不当利得返還請求権を奪おうとするものであるから、法的安定性を害するものである。
 6 以上のほか、被告が縷々述べることは、原告準備書面⑵5頁7でも指摘したように、原告の不当利得返還請求権の存在・内容には関係が無い。

以 上

 

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