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ピンク映画と日活ロマンポルノ 2

1984年1月。「縄姉妹 奇妙な果実」撮影開始となる。 

私はビデオ作品で演技らしきものはやっていたので、この撮影も「何とかやれるだろう」なんて思っていた。しかし皆様、もうおわかりのように、そんなに甘くはなかった。「縄姉妹」とタイトルにあるよう、私は妹役。主演の「姉」は、よしのまこと氏。同じ歳であった。18歳でピンク映画界にデビューしていた彼女は、堂々たる演技をこなし、とても同じ歳とは思えない。私は萎縮していった。何をやってもスタッフや助監督から注意され、ダメが入る。しまいにはベテランカメラマンも鼻で笑う。現場に漂う「だからシロウトは嫌だよ。誰だ、こんな子連れてきたのは」という空気。しかしここは仕事場。逃げられない。私はいじけた気持ちに鼓舞した。「何としてもやってやる。挽回してみせる」と。

撮影の約2週間、ロケ現場や調布撮影所に組まれたセット内で、私は一人きりであった。出来ない者は相手にされない。いや、ちやほやされて進行していく現場とはまったく違う。そこにはプロの厳しさしかなかった。そんな中、唯一話し相手だったのは、緊縛指導の浦戸宏氏であった。浦戸氏は1970年代に「サン&ムーン」というSM雑誌の編集をしていた。なので共通の話題があったのだ。浦戸氏は私の素性を理解してくれ、緊縛シーンを考えてくれた。「こんな縛りをやろうと思うけど、大丈夫かな」。まず私に話してくれ、私の役が立つようにしてくれた。結果、台本にはないハードな緊縛、吊りを何パターンかこなし、鴨居に逆さ吊り、という長回しシーンを撮った。SM作品も数多く作っているスタッフは「逆さ吊り」が大変なことを知っている。テストを済ませ、本番一発OKとなった時(いやもしかして、途中でフィルムが落ちてテイク2を撮ったかも)、カメラマンから「この子、根性はあるんだね」という声が聞こえた。ベテランカメラマンが仲間として、ようやく認めてくれた瞬間だった。この撮影の中で本当に嬉しかったのは、この瞬間だった。

*撮影エピソード「衣装」「前貼り」

「衣装」/日活本社作品では、基本、衣装さんがつく。撮影所内の衣装部から選ぶのだが、私に関しては事前に監督から「自分が思う物があったら持ってきて」と言われていた。私は何パターンかの私服を持って衣装合わせに行った。私の頭の中には一般常識はない。ただ等身大の私しかいなかった。衣装部から用意した衣装も合わせながら、結果、監督は「やっぱり自前の衣装で行こう」と登場シーンのほとんどが自前服であった。

「前貼り」/女優の前貼りは、スポーツ用のテーピングで、アンダーヘアから肛門までを貼って隠す(内側はガーゼを貼る)。なので通常はかなり大きな範囲になる。しかし私はエロ雑誌に出ていたため、アンダーヘアは剃っていた。メイクさんが作る通常の大きさの前貼りに「もっと小さくて大丈夫です(ハサミで切る)。あ、もっと(切る)。もっと、、」半分位になった前貼りに「え!こんなんでいいの?大丈夫なの?」と、メイクさんは本当にびっくりしていた。

撮影が終了すると、編集しアフレコとなる。

ロマンポルノ、ピンク映画共に古いフイルムカメラを使用しているため、同時録音は出来ない(フィルムの回る音が大きい)。効果音、セリフ共にアフレコである。自分で言ったセリフを後から映像に合わせて録音するのだが、これがなかなか難しい。自分の口から発したセリフだが、芝居ができていない映像だから、覚えていないし、間がおかしい。撮影当時の間を思い出し、口を合わせるのが精一杯。緊張して声だって上ずっている。「腹から声を出せ」なんて言われて、そのやり方は頭ではわかっているものの、出てくる声はなんとも自信ない声であった。今聞いても赤面の下手さだ。

「縄姉妹 奇妙な果実」

監督中原俊
キャスト美野真琴 北見敏之 萩尾なおみ 伊藤昌一 早乙女宏美(新人) 片岡五郎 玉井謙介 遠山牛 小金井宣夫 横田明宏 阿部勉 鷲津秀行
脚本石井隆
音楽 
その他スタッフ原作/石井隆 「作品集/夜に頬よせ」より(竹書房刊) 撮影/米田実 照明/矢部一男 録音/伊藤晴康 美術/中澤克巳 編集/井上治 助監督/堀内靖博 
【解説】(公開当時のプレス資料より)
 都会の中に、ぽっかりとあいた、誰も知らない猟奇の空間。公私共に、何をやってもうまくいかない生活に疲れたセールスマンが、クモの巣に捉えられた虫のように、猟奇の空間を支配する正体不明の若い二人の女に身も心もからめ取られていく。
 そのセールスマンと、若い女たちとの、肉体で語られる被虐的な愛と倒錯の試みを、現代的タッチで描いた官能のSMポルノ。
 主役は、にっかつ初主演。若いながらも艶技力抜群の美野真琴。ハードな役柄に体当たりでぶつかり、SM初挑戦とは思えない大胆さで、興奮を引き起こすことは必死である。
 共演は、妹役にピンク出身の早乙女宏美と疲れたセールスマンの妻役に萩尾なおみを配し、大胆なベッドシーンで、その肢体を余すところなく見せている。
 監督は、若手の中でも活躍が著しい中原俊。SMの演出は、松川ナミの「奴隷契約書・鞭とハイヒール」以来2作目である。
配給:にっかつ
製作年:1984公開年月日:1984/2/17
上映時間ほか:カラー/70分/ビスタ・サイズ


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私は日活本社作品に女優として、これ以降キャスティングされていない。しかし、制作部のごく一部の方たちと飲み友達になり、叱咤激励を受けながら、勉強をさせていただいた。この交流があったからこそ、ロマンポルノに思い入れができ、拙著「ロマンポルノ女優」(河出i文庫)を書いた次第だ。

また、2017年に出版された「日活1971ー1988 撮影所が育んだ才能たち」(ワイズ出版)に寄稿をさせていただいた。日活に直接的に関わっていないが、思い入れが強いのは、このような思い出深い事柄があるからだ。

そして私はピンク映画と向き合う時代がきた。ビンボーだったなぁ。

続く




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