さおりす先生

名古屋の国立大卒業後、大阪の片隅で根暗に働いている妙齢のメス。 https://www…

さおりす先生

名古屋の国立大卒業後、大阪の片隅で根暗に働いている妙齢のメス。 https://www.instagram.com/saoriss2/ 純文学、哲学、美学、映画、ロック、酒、クラシック、芸術

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記事一覧

告白する勿れは真か偽か

三島由紀夫の不道徳教育論を読む中で、一つ面白いコラムがあった。テーマは「告白するなかれ」。前の恋人が酷かっただの、家庭環境が不遇だのと、人は自分の境遇を告白しが…

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【メモ】三十歳 バッハマン作

久しぶりに新たなお気に入りの一冊に出会ったので、取り急ぎメモ。オーストリアの戦後女性詩人のインゲボルグ・バッハマンの三十歳から一部引用。若さの持つ情熱と傲慢さが…

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働く事と生きるという事

働く事を考える時、イトウは父の背中を思い出す。イトウの知る限りでは、父はほぼ毎日働いている。真面目という言葉を実写化したとしたらこうなるんだろうなぁ、と思うよう…

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新幹線で夕飯になってしまった時のイトウオススメのコスパ最強三点セット。ビール、ドトールのミラノサンドA、お気に入りの一冊。 というわけでこれより帰阪します。

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車輪の下〜大人と子供の狭間で〜

ドイツの片田舎で神童と言われ育った主人公ハンスは全国のエリートの集まる神学校への合格を二番という席次で掴み、周囲の期待を背負い進学する。その中で多くの挫折を味わ…

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太宰治というダメ男

「死ぬ気で恋愛してみないか」 これは、共に入水自殺を図ることとなる山崎富栄を落とした太宰治の口説き文句である。彼はカルモチンの服毒で3度、首吊りで1度の自殺未遂を…

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バビロニアのくじ〜全ギャンブラーに告ぐ〜

人生を語る上で、偶然というものは非常に大きな役割を担っている。私たちは生誕から死まで、確実性を持ち保障されることは何一つない。生まれた瞬間から、国籍、性別、容姿…

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イトウの上京未遂について

イトウの人生は有数の気の利かない街である名古屋に始まり、ボタンのかけ違いが重なり大阪で働く事になり現在に至っている。今は朝起きたら穴を掘り、午後になったら穴を埋…

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村上春樹とイトウ

#村上春樹 という作家はどうしても好きになれない。でもなぜか手に取ってしまう。 #風の歌を聴け にはじまり、 #騎士団長殺し が発売した日には本屋に走った。ふと本屋で手…

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はじめまして、イトウです

日曜日の夕方って嫌ですね。ふと早く目を覚まして、よし今日はこれもやろう、あれもやろうと全てがキラキラして希望に満ちているように感じれるのに少しずつ時間が経つにつ…

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金閣寺 〜狂気と死に至らしめられた美〜

1950年7月、ある一人の僧侶の放った炎によって金閣寺が全焼しその他文化財6点も失われるという衝撃的なニュースが日本全国を駆け巡った。 この金閣寺放火事件は多くの小…

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イワン・イリッチの死 〜芸術とかけ離れた死〜

自分自身の死を想像したことは誰しも一度はあるのではないだろうか。そしてその時人は往々にして突然で劇的なものを想像しがちである。 天文学者であるChris impey氏の著…

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脂肪の塊 〜概念が人を殺す日〜

私がこの小説に出会ったのは高校の世界史の授業であった。世界各地域の文学作品を時代ごとに作者名と共に頭に叩き込むことにうんざりしている最中、この本のタイトルは強烈…

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告白する勿れは真か偽か

三島由紀夫の不道徳教育論を読む中で、一つ面白いコラムがあった。テーマは「告白するなかれ」。前の恋人が酷かっただの、家庭環境が不遇だのと、人は自分の境遇を告白しがちだが、(三島はこれを告白病と呼ぶ) ありのままの自分を愛して欲しいだなんてことはただの傲慢に過ぎない、とのこと。

また、話された方としては自分の人を見る目が無かったと自尊心を傷付けられ、誰も幸せにならないというのだ。誰しも人生が小説では

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【メモ】三十歳 バッハマン作

久しぶりに新たなお気に入りの一冊に出会ったので、取り急ぎメモ。オーストリアの戦後女性詩人のインゲボルグ・バッハマンの三十歳から一部引用。若さの持つ情熱と傲慢さが歳を重ねる中で色褪せていき自省せざるを得ない主人公の心理描写とその比喩表現が的確過ぎて本当に読んでいて胸が痛くなるレベル…。以下引用



それまで彼は日々単純に生きていた。…自分にたくさんの可能性を見出し、例えば自分は何にでもなれると思

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働く事と生きるという事

働く事を考える時、イトウは父の背中を思い出す。イトウの知る限りでは、父はほぼ毎日働いている。真面目という言葉を実写化したとしたらこうなるんだろうなぁ、と思うような人だ。だからこそイトウは、父が饒舌に自分の好きなものを話す姿が本当に好きだ。幼い頃に親しんだ多くの虫達、夏に行った海と小さな魚達、胸を震わせた戦車と世界大戦、激動の時代を共に駆け抜けたロックンロール…。

父はイトウとイトウの弟に自分がな

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新幹線で夕飯になってしまった時のイトウオススメのコスパ最強三点セット。ビール、ドトールのミラノサンドA、お気に入りの一冊。 というわけでこれより帰阪します。

車輪の下〜大人と子供の狭間で〜

ドイツの片田舎で神童と言われ育った主人公ハンスは全国のエリートの集まる神学校への合格を二番という席次で掴み、周囲の期待を背負い進学する。その中で多くの挫折を味わい、神経症を患い退学し敗北感とともに帰郷する。しかし、故郷に彼を理解しようとする者はおらず、機械工として働き始めた矢先彼は酒のために誤って河に落ちてしまい、あっけなくこの世を去るーー

ヘッセをはじめとしてトマスマンらのドイツ文学の金字塔

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太宰治というダメ男

「死ぬ気で恋愛してみないか」
これは、共に入水自殺を図ることとなる山崎富栄を落とした太宰治の口説き文句である。彼はカルモチンの服毒で3度、首吊りで1度の自殺未遂をし、5度目の入水自殺で酒と芸術と女に溺れた39年の生涯を終えた。

彼は自殺をする時、何度も女性を道連れにしようとした。彼だけ生き残ることもあれば、共に生き残りそのまま別れることもあった。そして、最期は二人で晴れて死を成就した。しかしイト

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バビロニアのくじ〜全ギャンブラーに告ぐ〜

人生を語る上で、偶然というものは非常に大きな役割を担っている。私たちは生誕から死まで、確実性を持ち保障されることは何一つない。生まれた瞬間から、国籍、性別、容姿、貧富の差などをはじめとする努力や人智を超えた偶然の格差の元で生まれ、その後も終わりのない偶然の繰り返しの中で我々は一生を終える。この偶然という自然的な性質はカオス的な宇宙の性質の一つの表層であり、そこにひとつの我々と宇宙を繋ぐ物理学的な性

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イトウの上京未遂について

イトウの人生は有数の気の利かない街である名古屋に始まり、ボタンのかけ違いが重なり大阪で働く事になり現在に至っている。今は朝起きたら穴を掘り、午後になったら穴を埋める。掘って埋めて掘って埋めてたまに飲んで。そんなかんじの気の利かない人生を送っている。

そんなイトウは東京に行くとちょっとだけ意識が高くなる習性がある。少し街を歩けば朝起きてから寝るまでの生活一コマ一コマ全てに値の張った「テイネイなクラ

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村上春樹とイトウ

#村上春樹 という作家はどうしても好きになれない。でもなぜか手に取ってしまう。 #風の歌を聴け にはじまり、 #騎士団長殺し が発売した日には本屋に走った。ふと本屋で手に取った #本当の戦争の話をしよう の訳者に彼の名前があった時には、「あ。この本は間違いない」なんて感じた。こんなに相反する想いを抱いている作家は他にいない。

イトウが村上春樹を好きになれないのは、その掴めなさだ。どこまでいっても

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はじめまして、イトウです

日曜日の夕方って嫌ですね。ふと早く目を覚まして、よし今日はこれもやろう、あれもやろうと全てがキラキラして希望に満ちているように感じれるのに少しずつ時間が経つにつれて中途半端に物事が消化されるだけでどんどんと色を失くしてしまって行く感覚。 #村上春樹 さんが前に似たことを書いててすごくしっくりきた覚えがあります。

さて、色んなきっかけがあり気持ちも新たに2日前にnoteに登録して怪しげな鬱っぽい

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金閣寺 〜狂気と死に至らしめられた美〜

1950年7月、ある一人の僧侶の放った炎によって金閣寺が全焼しその他文化財6点も失われるという衝撃的なニュースが日本全国を駆け巡った。

この金閣寺放火事件は多くの小説家達に多大な影響を与え想像を駆り立てた。そしてその動機を探った。日本を代表する文豪三島由紀夫もその一人であった。今回はヘーゲル美学を交えながら本作「金閣寺」を考察していきたい 。

金閣寺放火事件について、水上勉が著書「金閣炎上」

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イワン・イリッチの死 〜芸術とかけ離れた死〜

自分自身の死を想像したことは誰しも一度はあるのではないだろうか。そしてその時人は往々にして突然で劇的なものを想像しがちである。

天文学者であるChris impey氏の著作“How It Ends“に次のような一節がある。
「人生がコンサートのようなものであったとしても、その結末はクレッシェンドで終わることはなく、大抵の場合は楽器の調子が外れ、演奏家達が列を乱し、音楽が次第に消えていくものだ。

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脂肪の塊 〜概念が人を殺す日〜

私がこの小説に出会ったのは高校の世界史の授業であった。世界各地域の文学作品を時代ごとに作者名と共に頭に叩き込むことにうんざりしている最中、この本のタイトルは強烈な印象を私の胸に残した。当時、一体どんな物語なのか想像を巡らしたものの実際に本を手に取るには至らなかった。

時は流れ、先日古本屋でこの「脂肪の塊」を見つけ内容に触れるに至った。

舞台は普仏戦争の最中のフランス。プロシャ軍の占領地から脱

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