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散文詩集

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#名前

見えない標

何をしても満たされることはなく この体にあいた穴は穴のまま 耳を掠め 飛んでゆく風の後に 残るのは何 沈む地平線 名を明かさなくていい 君が君であることを 僕は探し出すから 声を上げなくたっていい 君の居場所を僕は 必ず見つけ出す どんなことをしてでも 抱え込んだ鉛は重くどこまでも 腹の中沈んで溜まってゆくばかり 杭を越えて 溢れ出した流れは誰も 止められない 放たれる声 名を明かさなくていい そんなものあろうとなかろうと 僕は君を探し出すから 声を上げなくたってい

「ここに在るよ」

誰もが荷物 幾つも抱え込み 背負って 歩いてる 誰か一人だけ 重いわけじゃなく 誰か一人だけ 軽いわけじゃなく その人が抱えられる分と ちょうどつりあいがとれますように とれていますように 公園のシーソーは必ず どちらかに揺れて だから 片側だけが重たくて シーソーがしなうようなら シーソーから降りよう 一度 荷物は置きっぱなしでいい しばらくの間だもの そして 誰かを呼んで 名前を呼んで 二人分 三人分の体重でなら 軽々と 上がるかもしれない シーソーの向こう側 そ

「迷子」

昔のことです 遠い遠い 昔のことです 誰かが呼んだ 名前を呼んだ 私に向かって 誰かの名前を 人違いかと首をかしげ そのまま歩いてゆこうとするのを 追いかけてきて 呼びかける 私ではない 誰かの名前を あなたはだあれ? 私はあなたの誰かじゃないわ あなたはだあれ? 私の名前は 私の名前は 云おうとして 声が詰まった 私の名前は 何処へいった? 私の名前が 見当たらない 誰かの名前で呼びかける 誰かが私を呼び止めて 追いかけてまで 引き止めて それでも私の名前じゃない

「名前の無い」

名前の無い 顔がいくつも 拡がってゆく 街を埋めてゆく 呼び合おうにも 呼びかける名前がそこにはなく 躊躇って でも 振り返って 呼び止めようと思ったのに 呼びかける 呼び止める その術がない 幾つもの顔が 私の傍らを行き過ぎてゆく 時に肩にぶつかり 時に足に躓く けれど 名前を持たない顔と顔が 向き合う その場所がない 身体の何処が触れ合おうと 視線の何処が交差しようと もはや 取り返しようのない 欠落が 見上げる空に立ち込めた雨雲のように この街を 呑み込もうとしている

「 迷子 」

昔のことです 遠い遠い 昔のことです 誰かが呼んだ 名前を呼んだ 私に向かって 誰かの名前を 人違いかと首をかしげ そのまま歩いてゆこうとするのを 追いかけてきて 呼びかける 私ではない 誰かの名前を あなたはだあれ? 私はあなたの誰かじゃないわ あなたはだあれ? 私の名前は 私の名前は 云おうとして 声が詰まった 私の名前は 何処へいった? 私の名前が 見当たらない 誰かの名前で呼びかける 誰かが私を呼び止めて 追いかけてまで 引き止めて それでも私の名前じゃない