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散文詩集

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#居場所

見えない標

何をしても満たされることはなく この体にあいた穴は穴のまま 耳を掠め 飛んでゆく風の後に 残るのは何 沈む地平線 名を明かさなくていい 君が君であることを 僕は探し出すから 声を上げなくたっていい 君の居場所を僕は 必ず見つけ出す どんなことをしてでも 抱え込んだ鉛は重くどこまでも 腹の中沈んで溜まってゆくばかり 杭を越えて 溢れ出した流れは誰も 止められない 放たれる声 名を明かさなくていい そんなものあろうとなかろうと 僕は君を探し出すから 声を上げなくたってい

未知図

何処へゆけばいいのか分からなくて 何処へいきたいのかも分からなくて 膝を抱えてたよ 顔をうずめて 何も見たくなかった これ以上何も なのに知りたいと願った この胸の中で荒れ狂う すべてを 壊れかけた椅子は私を乗せて 軋んだ音を立てる 私が立つのが先? 椅子が壊れるのが先? どっち? 四方を囲む 朽ちた壁板の隙間から僅かに 漏れてくる光は 闇を照らすため? それとも 闇を教えるため? 答えは何処にもなくて やっぱり 何処へゆくのかも 何処へいきたいかも 何も分

「ただの一日」

手首を切ろうとしたら もうそんな場所どこにもなかった 昨晩切った数箇所で もう左腕は 埋まってしまった 幾筋幾筋走る線は もう腕を埋め尽くしていた どうしよう どうしよう 心臓がどくどく鳴って どうしよう どうしよう 私を追い詰める 押し潰そうと襲いかかる どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう 心臓がどくどく鳴って どんどん苦しくなってゆく その傍で 猫が泣く 開けっ放しの窓から吹き込んだ風に 乗って 飛んでゆく にゃあー んにゃあー 場所がない 場所がない どこに

「食卓」

家族の食卓は ちゃんと椅子があって 座る場所もきちんと決まっていて 今日の料理にはこのお皿 出す順番もすべて狂い無く さぁ食べましょう 食卓は すっかり華やいで 新しくおろしたテーブルクロスを汚さないようにね スープも温かいうちにどうぞ サラダをかみ砕く音 スープをすする音 時折コップに手を伸ばし 冷たい水が喉を落ちる音   それだけ? 静かに 静かに 静かぁに 食卓はただ食べるという行為のため 家族が集まって食べる行為をするために在るの そこで他の何を 交わす必要も

「 居場所」

自分の居場所を確保するために 押し退けて押し退けて 怒らした肩でもって 撥ね付けては撥ね返され 撥ね返されてはまたさらに 撥ね返す 繰り返しの音色は この二本脚が立つ場所さえも示さず 流れてゆく 奏でられてゆく ひしめき合うならいい 寄り添い合うならいい それも出来ないくらいに もう 場所が残ってはいない 他人の庭に入り込み どうにか 一夜をやり過ごすことで 生き延びる