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『ヘルプ!』中期前夜のナーヴァスな喧騒

ビートルズ中期の始まりは、当然『ラバーソウル』だと思っていたけれど、ライブツアーをやめてスタジオに籠もり『サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド』を出したところからが中期という見方もあるし、レコーディングエンジニアのジェフ・エメリック氏がポールの推薦でアルバムに参加するようになった『リボルバー』からとも言えるかもしれない。

どちらにしろ『ラバーソウル』のひとつ前のアルバム『ヘルプ!』は初期の集大成と位置づけても良いと思う。私はこのアルバムの居心地の悪さがずっと気になっていた。

映画『ヘルプ!』のバカバカしさと、アルバム『ヘルプ!』のアメリカちっくな明るさ軽快さ、シングル『ヘルプ!』で歌われるジョンを追い込まれたしんどさと、それぞれがアンバランスだ。

実際のところ若者としての賞味期限間近で、そのうち加齢とともに風俗嬢のように使い捨てられるまで時間の問題、カウントダウンなグループの状況は悲壮だったろう。自分たちの寿命について、向き合うべき問題に向き合えて無いまま、状況は稼げるうちに稼げの喧騒の中にいたのだ。

アルバム『ヘルプ!』は軽快なカントリー風ナンバーが多く、曲ひとつひとつは好きなのだけど、それを英国人が歌う意味がわからないし、憧れのアメリカに媚びも感じる。アメリカでの成功が世界の成功になるわけだから仕方ないのかもだけど。黒人音楽のR&Bはビートルズのものになって馴染んで彼ららしさが出てるのに、植民して開拓していく白人由来のカントリーは何か違和感がある。成長期に身体の大きさもテイストも見合わないブランドの洋服を着せられてる子どものような、ムズムズとした感じ

それはビートルズの、中期への準備期間なのかもしれない。破裂する寸前の風船のような、色んな危機を孕んでいる。

たぶん、ここでなにかあったら、もしくはなかったら、彼らは終わっていたろう。思春期の子どものような、サナギのような、危うさがヒリヒリとしている。そういうわけで『ヘルプ!』は私にとっては聴くのがなんとなくダルいアルバムだ。

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