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約束の記憶 6話

小説の6話目です。
今週から火曜と土曜に更新します。

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12月だというのに厚手のコートがいらないぐらい暖かい。
外の風景は何も変わらないのに、身の回りがこんなに変化したのは、なんだろう。
梶川は今朝からおかしなことばかり起きていて、最大の衝撃は、妻だという女性が家にいたことだった。

自分の頭がおかしいのか、周りが騙しているのか。
家の中にそれを知るキーがあるはずだから、とにかく調べてみよう。

頭の中はパニックになって、仕事ができそうにないので、早退してきた。

無言で家に入ると、あの女‥レナはソファに座ってコーヒーを飲んでいた。
急にドアが開いて驚いた様子だった。

「どうしたの?仕事行ってきたばかりなのに」
「ちょっと具合が悪くなって、早退してきた」
「えっ大丈夫?寝ていたほうがいいんじゃない?」
「うん、少し休むよ」

寝室で一人になって考えることにした。
仮病とはいえ、心配してくれる人がいるのって、いいなぁと、思わずにやっとした。

部屋着に着替えてから、寝室にある持ち物を調べてみた。
タンスの引き出しをみても、特に変わりはない。
結婚したと言っても、指輪がないのはおかしい。

スマホの中を見ても、二人で写っている写真がない。
やはり怪しい。

お金はどうなってるか。
口座を調べてみると‥

は?

はいぃ??

残高の桁が二桁違う‥。
どういうこと‥

確か50万ぐらいしかなかったはずが、8000万になっているのは、なんだ??

レナに聞いてみるか
いやもし知らなければ、余計なことを言わない方がいい。

家に帰って落ち着くはずが、余計にパニックになってきた。

お金が欲しい欲しいと言い続けてきたけど、いきなり大金を目にすると、恐ろしくなってきた。

コンコン
寝室のドアを叩く音がした。

「車のディーラーさんから電話だよ」

車?
車買おうとしていたのか

寝室は電波が悪くて見えづらいので、リビングに移動して話をした。

「お世話になっております、梶川様」

立体映像で映し出された電話の相手は、いかにもディーラーっぽい感じで、品のいいスーツを着ていた。

「大変お待たせして申し訳ありませんでした。来週の火曜日に納車になりますので、最終確認のご連絡です」

え?もう買ってるの!
変な顔をされるのはわかっていたけど、おそるおそる聞いてみた。

「あのー車種はなんですか?」
「え?マクラーレンの限定モデルの〇〇ですが‥」

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えーーー
一生乗れることがないマクラーレンが、来週くるって??
えーーーえーー

「梶川様、ご予定通りでよろしいですか?」

興奮しすぎて、怪しまれてしまった(~_~;)
あっ肝心なことを聞かないと!

「支払いはどうなってますか?」
「はい、すでにお支払い確認済みです」

中古でも2000〜3000万はする。
もはや値段は怖くて聞けないけど、もう買ってるなら、聞かなくてもいいや。

「じゃあ、来週よろしくお願いします」

もうニヤニヤが止まらない。
お金持ってて、高級車はくるし、奥さんもいるし。

普通の独身生活をしていたはずなのに、なんだかわからないけど、騙されていたとしてももういい。

過去の自分はどうでも良くなって、その夜は興奮したままいつのまにか寝ていた。

つづく


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