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約束の記憶 10話

小説の10話です。


登場人物
森田かずは 都内の大手風俗店のスタッフ
ララ    かずはが働いている店のキャスト

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ララちゃんは高身長でスタイルが良く、モデルさんかなーと二度見してしまう華やかさと愛嬌があり、とてもこの仕事をしているようには見えない。
そこが人気のひとつでもあり、連絡が途絶えた時には、店長が頭をかかえていたほど大切なキャストの一人だ。

他のスタッフもいる事務所ではなく、待機室に呼び出すということは、他の人には聞かれたくない話があるのか。

かずはは、足速に待機室へ向かった。

施錠されたドアを開けると、個室のドアからララちゃんが手招きした。

「かずはさーん!こっちの部屋で」

ネットカフェのようにフリードリンクで、パーテーションで区切られた個室になっている。
かずはは二人分のコーヒーを入れて、ララちゃんの元へ行った。

「どうしたの?さっきの話のつづきかな?」

「そうなの。かずはさんは不思議な話も否定せずに聞いてくれそうだけど、後の人たちは信じてくれなさそうだし。だから、ここでの話は他のスタッフには内緒にしてくれる?」

「もちろん」

どんな話が飛び出すのか、どきどきしながら、コーヒーを一口飲んだ。

「実はさぁ、記憶が曖昧で自分でもよくわからないんだけど‥。寝ていた時の事、なんとなく覚えているの。それは夢なんだと思っていたけど、夢じゃなかったのかもしれない」

記憶を辿るように、天井を見上げて、カールした髪を指でくるくるしている。

「どういうこと?」

「夢の中ではね、自分自身は同じなんだけど、社会と生活が違うの。だから夢だと思ってた」

「社会がどう違うの?」

「不思議な世界だった。だってね、犯罪がないの。警察も裁判所もない。人の考え方そのものが違って。100年後の未来はこうなのかなあと思ってた」

「争いがないってこと?」

「そう、争いがないの。お互いが必要とされて、大切にされているから、感謝しかない世界といえばいいかな」

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夢の中の話として聞けば、別に不思議なことはなにもないけど、それを夢じゃないかもしれないって、どういうことだろう。

そこから延々1時間、彼女の話を聞いた。

つづく

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