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約束の記憶 17話
小説の17話です。
★登場人物
浅倉もみじ 保育士
森田かずは もみじの保育園に息子が通っていた
★
かずはがもみじの顔をじーと見つめていた。
いつもにこにこしていて、温和なかずはの目が、全てを見透かしているようで、怖かった。
「もみじさん、これから話すことが事実かどうかは、確かめようがないけど・・。そうなんだ~と思えるところだけ信じてくれたらいいから」
おかわりしたコーヒーを一口飲んで、語り始めた。
「答えから言うと、もみじさんはその器を作った人だったのよ」
「・・・え?どういうこと?」
「過去世がその人で、作った本人だから今回も作れたの。偶然にできたようで、偶然じゃないのよ」
どきどき
急に心臓がバクバクしてきた。
「だって・・私・・適当に調合して・・たまたま・・偶然だよ・・はぁはぁ」
息苦しくなってきた。
「もみじさん、大丈夫?顔色が悪いよ」
かずはが心配して、水を持ってきて、背中をさすってくれた。
「驚かせてしまってごめんなさい。私は過去世を見ることができるの。遺伝子に書かれている記憶に触れると、身体が反応して、鳥肌が立ったりするんだけど、衝撃が強いと、めまいがしたり、熱がでたり、息が荒くなったりすることもあるの」
そうなんだ・・。
ということは、この話は本当なのか、信じられないけど・・。
水を飲んで、深呼吸をしていたら、少し落ち着いてきた。
「もみじさんにとっては、適当にやったことでも、実は適当じゃないんだと思う。これとこれを足したらどうなるとかがなんとなくわかるんじゃない?調味料も作っていたでしょ?あれも実験しながら作ってるって言ってたけど、もともと知っている記憶から作られたものかもしれないし・・。あとはね・・声が聞こえるんじゃない?」
「声?」
「これとこれを組み合わせたらできるよーみたいな。なんとなく感じるものがあるんじゃない?」
「あーそれなら、あるけど。みんなそうなんじゃないの?」
一瞬止まって、もみじの顔をじーとみたかずはが吹き出した。
「きゃははは。さすがもみじさん。能力者だねぇ」
「能力者なの?みんなそうなんだと思ってた」
「そうじゃないんだよね。自分ができることってみんなもできるように思えるけど。もみじさんは研究者と職人気質があるから、のめり込んで探求して、その分野で昇り詰めることができるし、器用にこなす技量も持ち合わせてる。だけど、それで過去に命を狙われたり、家族を危険にさらしてしまうこともあったの。過去っていうのは過去世ね」
ぞくっと身震いがした。
だから、何かに打ち込むことが、悪いことのように感じていたんだ。
「だから今回のことも、どうして自分が成し遂げてしまったんだろうって。すごいことで喜ばしいことなのに、自分を責めてしまうよね」
「ん・・どうして私がやってしまったんだろう・・って思う」
「でもいいんだよ。ていうか、あなただからできたことだし、今回生まれてきた理由の一つだから、いいんだよ」
「これが生まれてきた理由なの?」
「これだけではないけどね。もみじさんが自分で書いたシナリオの一つ。継承できなかったことを残しておくこと。今なら工房戻ってもみんなの顔が違ってみえるよ」
いつものにこにこ笑顔のかずはに戻っていた。
♪電話の着信音♪(明子からの電話)
「もみじちゃーん、まだ?」
「明子さんごめんなさい。これから戻ります」
工房に戻ると、あの張り詰めた空気はなかった。
そして、その夜は身体がふわふわしていて、久しぶりに熟睡できた。
翌朝、遠くから聞こえてくる声で起こされた。
つづく
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