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約束の記憶 18話

小説の18話です。

「おかあさーん、おかあさん!」

もう少し寝たいのに・・誰・・起こさないで・・。

小さな手で、身体が揺り動かされていた。

「なのは、そんなにお母さん揺らしたらだめだよ」

「だって、お母さんの手が動いていたんだよ・・(´;ω;`)ウゥゥ」

女の子と男の子の声がする。
とっても懐かしい気がするけど、誰だろう。

誰のことをお母さんって言ってるんだろう。

・・・

・・・ん

え・・

「たくや!なのは!」

思わず口から名前が飛び出して、がばっと起き上がった。
目の前には泣きじゃくっている、なのはと、顔を真っ赤にしているたくやがいた。

「お母さん!!!」

二人が抱きついてきた。

どうして忘れていたんだろう。
ずっと何か欠けている気がしていたのは、子どもたちのことだった。

泣くのを我慢していた、たくやが、大声で泣き始めた。

二人を抱きしめながら、一緒に泣いていた。

どっどっどっ。
階段を駆け上がる音が聞こえた。

「目を覚ましたの?」

エプロン姿の夫が、血相を変えてやってきた。

「おはよ」

「お・・は・・よ・・って、寝すぎだよ・・はぁもう」

腰が抜けたように、その場に座り込んだ。

寝すぎ?寝すぎって、朝の7時だし、休みの日だし。
あれ、身体がとてつもなく痛い・・。

「お母さんもう目を覚まさないかと思ってたんだよ・・」

泣きながら、なのはが言った。

「えっずっと寝てたの?」

「そうだよ、ずっと寝たままで、身体も動かないし。病院に連れていくこともできなかったんだよ」

泣き止んだたくやが言った。

「ずっと寝てたって・・いつから?え?今日何日?」

あれだけ探して見つからなかったスマホが枕元にあった。
それをみると・・・

2031年1月10日

どういうこと

「2週間寝たきりだったんだよ」

へたっと座り込んでいた夫が、立ち上がった。

「救急車を呼んでも身体を動かすことができなくて・・ここで診てもらったら、身体には異常がないから様子をみましょうって。ずっと寝たままだったんだよ」

「2週間??って・・2032年のお正月も迎えていたし・・。もしかして・・」

外を見ようと立ち上がろうとしたら、上手くたてない。

「たくや、カーテン開けてくれる?」

「うん」

たくやがカーテンを開けると、あの雪景色はなかった。
東京の我が家からの風景だった。

「ずっと寝ていたから、長い夢でもみていたんじゃない?身体心配だから今日は病院行こうね。よかった・・」

目を潤ませて夫がやさしく頭をなでてくれた。

そうか、あれは夢だったのか。
それにしても、リアルすぎるし、夢だったとは到底思えない。

確かに青森で1年過ごしたはずなのに、2週間しかたっていないなんて・・。

あの刺すような寒さも、津軽塗の香りも、肌で感じているのに。

スマホを見てみると、不在着信もメッセージも思ったほどなかった。
写真のフォルダを見ても、特に物珍しいものはなく、記憶があるものばかりだった。
長い夢を見ていただけなんだといいきかせよう。

ついでにごみ箱フォルダにある写真を消しておこうと、そのフォルダを開くと、目を疑うものが現れた・・。

つづく

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