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💭どこかの街の、架空の思い出たち💭

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短編小説や詩などを載せています。
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#短編小説

短編小説『お昼休みの非常階段』

そんなそれぞれの思いとは裏腹に、今日もまた、新たな一日がスタートする。 ♦♢♦ 「ちょっと、橘さん。2年2組の春見くん、また今日も英語の授業欠席したでしょう?」 4限目の授業を終え職員室に戻ると、後ろからキンキンとした声がきこえてきた。振り返ると、わたしとおなじ英語科の坂井先生が腕組みをしながら険しい顔つきで立っていた。瞬間、ファンデーションのきつい匂いがマスク越しにでも鼻をついた。わたしは眉をしかめないようにと眉間に意識を集中させる。 「あっ、そうなんです・・・・・

『乾杯のレモン水』

 わたしの母はレモン水が好きなひとだった。キッチンで丁寧にレモンを切り、透き通った水のなかにそっとレモンを添える母の白い指を、いまでもときどき思い出す。レモン水を優雅に飲む母の姿はとても美しくみえて、わたしの憧れだった。  そんな母をみているうちに、わたしも飲んでみたいと、必然のようにそう思うようになった。でも、まだわたしには似合わないと冷静に考えている自分もいた。もっときちんと年を重ねて、きちんと大人になったら飲んでみよう。幼心にそう決めていた。  だから、そのときがく