ショート・ストーリー~心の星

「ポラリスって、心の星なんだ」

眩しい夏の光を背中に受けながら、彼は言った。

その光景を、私はまだ鮮烈に覚えている。


何の話からそういう会話になったんだろう。

夏休みの課題か何かの話だったような気がするが、よく覚えていない。

「心の星?」

いつもはバカな話ばかりしている彼が、めずらしく詩的なことを言ったので、

私は少し戸惑った。

「うん。北極星のこと。昔々、地図も時計もなかった頃の道しるべはこのポラリスだったんだ。」

彼は何故か、遠い記憶をたぐり寄せるように目を細めた。

「いろんな旅人が、この星を頼りにしてたんだろうね」

私は、何か気のきいたことを言いたかったけれど

「・・教えてくれて、ありがとう」

としか言えなかった。

そこで、「おーい、グラウンドいくぞ!」と彼を呼ぶ声がした。

「お前もなんか迷ったら、ポラリスを探せばいい」

彼はそう言って、友達のほうに駆けていった。


恋人でもない、ただの同じクラスだっただけの彼。

なぜか、心から離れない。

今、どこにいるのかもわからない人なのに。


あれから、SNSのアカウントを作るときは「ポラリス」と名乗る。

彼が見つけてくれるかは、あまり期待もしていないのだけど、

いつか出会えるような、そんな気もして。


今日も、私は書く。

あなたが教えてくれた心の星は、

まだここにいるよ。




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