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夫への出さないラブレター

※これは、ピリカ文庫「ラブレター」のときにとき子さんと誓い合った(?)いちばん近くにいる人へラブレターを書いてみよう、という趣旨の文章です。

初めて会ったのは、あなたが26歳、私が20歳の頃でしたね。
共通の友人と3人、場末のボーリング場で待ち合わせした私たち。

さびれてたし、なんでここで待ち合わせかよ、センスないな。
とキラキラデートに憧れる20歳のうすーい私は、あまりあなたにいい印象がありませんでした。

ただ、「はじめまして」とほぼ90度に頭をさげるあなたを、「私みたいな若造に頭をさげてくれるなんて」と感激したのを覚えています。

何度か遊びにいき、付き合うことになりました。私は父の病気もあり、花嫁衣裳を見せたいということもあり、早く結婚を、と思ってました。

いや、ちがうな。
美化するのはやめます。


父のため、と言いながらどちらかというと私は、しめつけの強い実家からはやく出たかったのです。

癌で痩せ細っていく父の関心は私に集中し、一挙一動にうるさく言及されました。帰りの時間、趣味、人間関係。
若い私は、病気や薬の影響で日に日に気難しくなっていく父を受け止めきれなかった。

そのためにあなたを利用したのかもしれません。

ごめんなさい。
家を出る口実の、結婚でした。

いろんなことがありました。

子育ても楽ではありませんでしたね。
いろいろと親として充足感が得られないこともありました。

そして、今はお母さんの介護。
うちはふたりとも介護が必要で、「それぞれの親はそれぞれ見る」スタンスでやっていますね。

どちらかというと淡白で、強い愛情というよりは「家族だから」と割りきっている姿勢が、却ってブレずに介護をできているのではないかと思います。

私は情が濃いぶん、イライラして嫌になってしまうことも多いのですが、それがあなたにはないのがすごいと、日々感じています。


 昔から、私はあなたにマメに情報共有をしませんね。
決めてから事後報告。
仕事柄一歩外に出たらどこに行くかわからない嫁。

あなたは不安な時期もあったと思います。
いえ、今も心穏やかではないかもしれませんね。

でも、仕事に対しては口を挟まないでいてくれています。これは、なかなかできることではありません。

感謝しています。

疲れて家に帰って、食卓にあたたかな灯りがなくてしんどい、というのは、男性だろうが女性だろうが一緒だと思います。

でもそこは、社会人としての私を尊重してくれていますね。
「夕方には帰ってきて食事を作れ」とは一度も言われたことはありません。

できるだけ一度昼に帰ってきて、食事を作ってまた夜の仕事にいくようにしているけれど、それがなかなかままならないこともあります。

あなたがそれを責めないのはすごくありがたいのですよ。

責められたら、もともと他方向に責任感の強すぎる私は、
きっと義務感でつぶれてしまうでしょう。

適応障害で仕事を休む、といったときも
「あ、そうなんだ」であなたは深く追及しませんでした。

復帰するときも、また同じ。

だから、今もやれています。
私はいろいろと干渉されると、ダメなんです。

「ありのまま、そのまま」受け入れること、実は難しいんですよね。

ありがとうございます。

あまり密な関わりがない夫婦ですが、それもそれで、私たちらしく生きましょう。

リタイアしたら、好きな趣味をたくさんしたらいいよ。

私も何も言わないから。


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