サスペンダーの話

故あって数年前からベルトをやめてサスペンダーを使用している。

まず故あってというのは嘘で、純然たる趣味で使っているんだけど、あとズボンをトラウザーズと呼ぶような感じでサスペンダーをブレイシーズと呼ぶそうなんだけど、何度か試してみたもののいよいよ通じないのでサスペンダーと呼ぶようにしている。

それでそのトラウザーズっていうかズボンを一本おろす度にブレイシーズっていうかサスペンダーを一本買うというような調子でやってきていて、その中でもアルバートサーストン社のものが有名なのでそれを買うことに決めているんだけど全然売ってなくてこの間まで伊勢丹にあったが今はなく、いつもアマゾンで買ってたりするのには単にほかのブランドを知らないだけというのがありタケオキクチなんかはそこらへんで手に入るがタケオキクチってタケオキクチでしょ、いうたら菊池さんとこのタケ坊でしょと思って敬遠している。たぶんイギリスで生まれ育ったら逆になってたと思う。サーストンさんとこのアルちゃんでしょってな具合。

そいでサスペンダー(ブレイシ)というのはズボン(トラウザ)にクリップで噛ませるタイプとボタンで留めるタイプがあるんだけど普通に買うと先端を交換して両方に対応できるやつが手に入り、最初とか確かにクリップでよかったんだけどズボン(トラ)後ろ側の真ん中にベルトループあるとそこに噛ませらんないから左右にズレるしズボン(ト)の生地は跡ついて破けるしでいいことないのですぐボタン留めに乗り換え、それからは既製品買ってもオーダーしてもボタンつけてくれたまえよキミィをやることになり店によっては「やるけどボタン持ち込みな」と言われてユザワヤに走るなどした。

最近サスペンダー(ブレ)のなかでもとくにブレードエンドと呼称するらしいサスペンダー(ブレブレ)の、要するに先端が交換不能でボタン留めにしか対応していないやつを買ったらこれがとてつも具合がよく、なんとなれば交換可能タイプのサス(非ブレのブレ)はボタンから外すの大変なんですよ。素材がレザーなんで硬いんですよ。それがブレブレにはなくというか先端の素材がリネンなんでするりと外れて付け替えも簡単にでき、これならト一本につきブ一本なんて不経済なこともせずに済むかなあと思ったりしたんだけどもうブレブレ自体が絶滅危惧種なのであった。哀しや。

非ブレのブレでもう一つ困るのは長さがクリップ準拠なのでボタン留め用のパーツをつけると長さが延びること、最短にしても背中の合わせ部分がだいぶ上に来て少しく不恰好でありそういった意味でもブレブレ増えてくんねえかなあと思うんだがもとより流行らないから減っていってるのであって流行られても嫌だなあとも思うことである。

この間ニュー・シネマ・パラダイスを観ていたら登場人物の多くがベルトでなくサスペンダーで、中には非常に貧乏なので麻の紐をボタンに結んで正しく"ズボン吊り"と呼称すべき状態にしているようなのもいて「へうげもの」北野大茶湯決勝戦の古織だなと思って利休の顔真似をした。

もう一つ映画の話で、スティングという古い映画(73年)観たら戦前のシカゴが舞台で全員サスペンダーだし衣装はほぼすべていわゆる紳士服なのにデザインひとつでそれぞれのキャラクターを雄弁に表現していて圧巻なので観たほうがいいと思いました。特に悪役の、ギャングの大物のダブルスーツの冗談みたいに太いラペルは最高でNTT出版のFF5の攻略本にあったイラストの、アホみたいに幅広のブロードソードを思い起こさせた。


おれはもうベルトしないからっつってベルトループ取っちゃってズボンの外側にボタンつけてるんだけどこれは別に内側でも全然いいので次に一本買うなり仕立てるときはボタンも一緒につけたらどうですかというようなことを言って終わりにします。クリップは駄目です。


※そういえばスティングって1936年が舞台だそうなんだけどさすがにスコットジョプリンじゃあねえだろうとは思うんだよな、だって「シカゴ」より未来の話ですよ?

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