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runch

屋上はない。N号館の4、5階踊り場にあるステンドグラス、彼女が唯一惹かれているもの。

私たちは昼食を摂らなかった。楽器の維持にはお金がかかった。
学食は高かった。貯めればそれなりの金額になった。さすが都内一等地に広大なグラウンドを備える進学校。
いつものように清掃に励んでいた。時間を持て余さないように、汚いものを見て空腹感を紛らわすように。

頑張ったら何にでもなれるって。空も飛べるんやろか。

飛べるんじゃない?

いつもより元気な彼女が幼く尋ねる意図が掴めなかった。私はいつも間違える。
誰を相手にしても、いずれ失ってしまう。
用具を片付けると、彼女が見当たらなかった。

地下で音楽の授業だった。好きに組んでセッションをする自由な、彼女の好きな授業だった。

そりゃ駆け上った。息が切れるのが気持ちよかった。ずっと誰かのために走りたかった。本当に。膝下まであるスカートをバサバサ蹴り上げる。汗でメガネが滑る。長い前髪から滴る。

嘘だった。自分のためだった。置いてかないで、は彼女を止めるためではなかった。一緒に行きたかった。ずっと一緒に居たかった。だから、止められなかったのは落ち度じゃない。私は悪くない。捻くれたカウンセラーに、そう言い聞かせてもらった。

修理に出す予定のマンドリンが残されていた。割れたガラスが散って、縁に残った色が陽を通して照らし、綺麗だった。彼女にとって最期まで一緒に居たかったのは私ではなかった。楽器だった。違う、残される私を考えて、どうせ高額請求されて諦めることになるのを処分しようとしたのだった。だってそれはただのスペアだったから。でも、最終的に破壊することは出来なかったらしい。

彼女が学校を休んだ時にだけ仲良くしてくれる子がいた。私にとっての最期のマンドリン。

昼食を食べる。もう、誰かのためには走れない。
美味しそうに食べるのを見ながら、可愛いな、と思って、彼女の食事を見なかったことを、それだけを後悔した。

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