見出し画像

もう20年、ハガキのやり取りをしている人がいる。
24歳、新卒で入った会社の先輩と初めてのフランスへツアー旅行で行った。そのツアーでご一緒したマダムとハガキのやり取りを続けている。

マダムは絵を描く人だ。個展を開いたり、美術館に絵を飾ってイベントをしたりしている。以前、マダムが九州国立博物館へやってきて、みんなで再会することができた。

マダムのことをよく知らない。
住所と名前、絵を描く人であることしか知らない。
メールアドレスも電話番号も知らない。だから博物館での待ち合わせは、ずいぶん前から手紙のやり取りをして、日時と場所を約束した。
SNSとは違った世界もいいもんだ。
文字で表せる相手の情報は知らないけれど、私はマダムが好きだ。
なぜだろう。パリで出会い、一緒にご飯を食べて街を歩いた。
太宰府で再会し、一緒にご飯を食べて参道を歩いた。

春、夏、秋、冬の年2回くらい、マダムが描いた絵がプリントされた絵ハガキが届く。ハガキに書かれているマダムの言葉は短い。
「元気に過ごしていますか?」
達筆での一言がいつも嬉しい。

私はハガキいっぱいに文章を書いて送る。
永遠の片思いだ。
一方的に近況を伝えまくる。会社を辞めた、旅に出た、結婚した、子供ができた、また引っ越した…。
5大陸の旅に出た時も、いろんな現地のハガキを買って便りを書いた。
マダムも、旅先から現地の絵ハガキを送ってくれる。
マダムはカナダに行って、オーロラを見ていた。
こちらまで旅気分を味わえるのが嬉しい。
手に取り、絵や写真、文字を見て、匂いを嗅ぐ。
紙の匂いもインクの匂いもなんかいい。
絵ハガキは現地の、その人の空気感を運んでくれる。

朝起きて、遠くの雲を見ていたら、マダムのことを思い出した。
そろそろ残暑見舞いを書く時期だ。

マダムを思うと、一緒にフランスへ行った先輩のことも思い出す。
先輩は10年前に天国へ行った。今はゆっくりしているだろうか。
お局様の鏡のような人で、みんなから慕われお母さんでもあり、お姉さんでもあり、友達でもあった。年が20くらい離れていても恋愛話で盛り上がる、憧れの存在だった。
二人のかけ合いがすごく大人に見えて、羨ましかった。
わたしも当時のマダムや先輩と同じくらいの歳になっただろうか。

マダムに便りを書こう。
どうかいつまでも元気でいてください。




読んでいただきありがとうございます。 noteで出会えた奇跡に感謝します✨ サポートいただけましたら楽しい寄り道に使います。