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シラウオとシロウオ、そしてシラス

通年見かけている食材と違い、年に数えるほどしか出会えないものがたくさんあります。今回は、その中で見た目も名前も非常に似通っている食材についてお話しましょう。思えば、日本ってのは魚の細かい名所が沢山あって、まさに魚食民族ですな。海外だと、レストランメニューの魚のところに、本当に「サカナ」としか表記されていないこともあるのですから。

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先日、ある鮨屋さんでシラウオが出てきました。桜の葉の上で蒸し上げたもので、ほんのりと桜餅のような香りのシラウオでした。「シラウオですね」と訊きましたが、イマイチ自信がありませんでした。シラウオとシロウオは名前も姿も似通っているので、混乱をしてしまうのです。さらに、ここにシラスを入れると、混乱はピークに達します。この3つの違いを的確に言えるでしょうか。

まず、シラスですが、これは魚の稚魚の総称なのです。一番多いのがイワシ(主にカタクチイワシ)です。春になると、海端では生シラス丼が出回りますが、釜揚げにしたり、天日干しにして乾燥させた関西のちりめんじゃこ(白子干し)も美味しい。生きたままシラスを酢醤油などにくぐらせて、そのまま食べる「踊り食い」をする地域もあるのだとか。踊り食いと言えば、シロウオのそれが有名ですが、シロウオをシラスと呼んでいる地域もあって面倒なのです。シラスと名のつくものに、シラスウナギというウナギの稚魚もあります。このウナギの稚魚と間違いやすいものに「ノレソレ」がありますが、こちらはウナギではなく、アナゴの稚魚なのです。ノレソレという呼称は一般化しましたが、これは高知地方での言い方で、知られる前はタチウオやギンポなどの幼魚とも混同されていました。

そして、シラウオとシロウオ。まず、漢字での区別ですが、シラウオもシロウオも字としては「白魚」と書きますが、シラウオは「白魚」、シロウオは「素魚」と書き分けていることが多いようです。魚としての区別は、シラウオはシラウオ科、シロウオはハゼ科と、全然違うのです。吉野曻雄著『酢・鮨・すし(すしの事典)』(旭屋出版)の中に「シロウオとシラウオ」の項がありますが、やはりシラウオとシロウオは食通でも間違えると書かれているのです。歴史的には、徳川家康の江戸入国の際に尾張からシラウオを運んで浅草川(隅田川)に放しましたが、これは家康だけの献上品になり、一般には「御止魚(おとめうお)」として禁止されていたと云う話があります。歌舞伎の有名な芝居『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』に、大川端(隅田川)で女装の盗っ人お嬢吉三の名科白で「月も朧に白魚(しらうお)の篝火にかすむ春の空…」というのがありますが、これは白魚漁を描写しています。前述の本に「第一にシロウオの方はすし屋には用のない魚というのも、上がったものは極端に味が落ちるからである」とあるように、シロウオは死んでしまうと苦味が出てくるので、江戸前のすし屋では敬遠しているのです。以前、とあるすし屋で生シロウオの軍艦巻を食べたのですが、どうもシロウオは海苔との相性もよくないようでした。シラウオは死ぬと白色不透明になり、シロウオよりも味は落ちません。

生で食べるなら「シロウオ」、加熱して食べるなら「シラウオ」と覚えておけば大丈夫だと思いますが、責任は「シラス」(笑)!

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(2017.4.28公開)

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