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思い出ノートは面白い|ノンフィクションのすすめ

ノンフィクション本が好きでしょっちゅう読んでいます。小説も面白いのですが、作家が紡ぎだした物語以上にグッとくる一般人の物語が存在することを知っているからです。

僕ががんの治療で入院していた時のことです。病院内にタリーズコーヒーがあり、その周辺からはコーヒーの良い香りが漂ってきていました。

病気で不安を抱えながら治療のことばかり考えていると、そういった香りは戻りたい日常生活を想起させるので、思わず足を運ぶようになっていたのです。

そこには、その病院のタリーズコーヒーでしか取り組んでいないであろう「タリーズノート」なるものがありました。店先に「ご自由にお書きください」と書かれたノートが一冊置かれており、そこに利用者が自由に記載をしていくノートです。

よく旅先のゲストハウスなどで「思い出ノート」や「旅人ノート」の様なものがあり、宿泊先の思い出や感謝などを利用者が書き綴っているものがありますが、あれと同じようなものです。

その「タリーズノート」について、僕が通院していた病院はがんを専門に扱っている病院だったため、利用者も自ずとがん患者またはその家族に限定されます。

それをパラパラとめくって何気なく利用者の言葉を読んでいたところ、そのなかに忘れることのできない一言が書かれていました。下記のような一文です。

今日は抗がん剤の副作用で味覚がなくなってしまったのですが、店員さんがシロップを多めに入れてくれたので美味しく頂くことができました^^

(記憶に頼った引用)

手書きで書かれたこの一言に治療中の僕は心を打たれてしまい、ドラマや小説よりもグッとくる言葉は存在するものなんだと感動したのを強く覚えています。

僕もその後、抗がん剤治療を行うことになったので、味覚障害の辛さは痛いほど実感することになります。きっと少しでも味を感じることができたのが物凄く嬉しかったのでしょう。

患者を治療するのは医療従事者ではありますが、それを支える役割は何も医療者だけではなく、カフェの店員のちょっとした気遣いであったり、意外にももっと幅広いものだったようです。

このタリーズノートを読んだことで、どんな仕事でも社会に価値を提供できるものだと実感することができました。

タリーズノートにこの一言を書いた患者さんが、今は元気に甘いものを美味しく食べていることを願います。

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