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ナメクジ

私が幼少期に育った環境は、四国の80年くらいの家屋だった。田舎過ぎて、虫もいるし、階段の隙間から蛇が出てくるような家。ただし蛇は縁起が良いとかで、逃しはするけど退治はされなかった

庭には、祖父自慢の盆栽が並び、バラや紫陽花、ソテツが植えられていた
それらに水をやるための水場があり、梅雨時になると、そこには大量にナメクジが発生した

古い家屋の窓には、網戸自体がないものもあった。祖母がたまに木製の縁取りで重厚なガラス窓を完全に締め切るのを怠り、時々自宅に小動物や虫が部屋に侵入した
ナメクジもその一つ
洗面台で金魚の水槽の水を入れ替えようとした時、タイルに奴らがびとーっと張り付いている

疎ましいし、気持ちが悪い
ヌメヌメして、存在感を出しているあたり、形状全てが嫌いだった
即座に塩を盛ったり、あるいは花火で焼いたりした

ただ、成長するとともに、自分の脳内にヌメヌメした気持ち悪いものが存在していることに気づく
光沢感がある、包まれた脚を見ると、あるいは自分がその状態になると、ヌメヌメ、ジトジト、それが好物の生き物に変容する

先ほどまでのリズムよく進む会話でさえも、間が生まれ、発言も少なくなる
光のある世界から逃げ出したくなる
暗くて静かなところへ
…誰にも見つからない密室へ

マスクを被る
ヌメヌメしたストッキングを履く
身体に張り付く水着を身につける
着た後というのは、自分の皮膚の如く
 
私の変身は、私も相手も雰囲気が一変する
先ほどまでのパーソナルスペースは限りなくなくなり、融合する準備が整う

ねっとりと、じっとりと視姦され…マスクを通しても、視野が遮断されても空気感で察する
指先でなぞるタッチはジトジト、ジリジリ、ナメクジが這い回るよう
触れられた先から、私がナメクジ化していくのだ
相手に身を任せて、刺激にのみ反応する
ナメクジが這った後のあの粘液は、私の性器からナイロン素材を通じてジンワリ、ジュワリと染み出してくる
染み出した粘液を、私は無我夢中で相手の身体という身体に擦り付け、自分のヌメヌメを広げていく

唾液交換、汗、性器から滲み出る体液、混ざり合う、ぐちゃぐちゃに、ぐちょぐちょに
滲み出る体液を私は顔面に擦り付けては、擦り付けた快楽に反応して、より粘液を相手に垂れ流す

出した瞬間は液状のものも、ストッキングや水着の抜け殻にはまるで射精の如く白い液がベッタリとこびりつく
そこからは強烈な、独特な匂いを放つ

(ああ、願わくばこの匂いが貴方にとってのフェロモンでありますように)

私は貴方を惑わす
ナメクジになって
あの忌まわしいナメクジになって
ナメクジの歯で貴方の理性を食い潰す
ジトジト、ヌメヌメ、ジリジリ、ショリショリ…

明る過ぎる空間へ行ってはダメ
私達は密室の、誰にも見つからない場所で

ジトジト、ヌメヌメ、ジリジリ、ショリショリ…互いに理性を食い潰す

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