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モデル

「随分とやり取りはしていましたけどね、実際に作業場に行けるだなんて」

「いつでもどうぞって言ったじゃないですか。僕は個人事業主だから融通が効くんですよ」

「ありがとうございます。というか、こんな夕方に押しかけてしまってごめんなさい。ようやく仕事の調整がついたもので」

「気にしなくていいですよ。暑い中大変ですね」

「zen先生は屋外へ出られるんですか?買い出し以外とかで」

「ほぼ出ないね。人とあまり話していないから声が出なくなってきている笑」

「え、レベチだ。私とは住んでいる世界が違いすぎます」

都内の私鉄駅から郊外に向けて歩く。
夕陽は沈みかけているけれど、アスファルトの熱は籠ったままだし、空気も熱い。
少し歩くだけで汗が噴き出す。

「汗臭いままきてしまいました。遅れてしまうといけないと思って」

「汗は好物だから…それも経験だね」

アトリエに着く。
アパートの一室、最低限のもの。

私はなぜここにいるのだろう?
自分でこの衝動性を理解しないままに、コンタクトを取ってしまった。私は馬鹿な子なのかもしれない、コンタクトを取った後、急いで恥ずかしさを打ち消すことと、前提にいきなり過ぎて相手に無礼な事をしてしまったと思い、お詫びのテキストを打つ。

彼は問題ない、自分も馬鹿な子だからと返ってきた。それで安心はしたものの、まだ自分が整理できている訳ではない。

ずっと惹かれていた作品。美しくもあるけれど、肉欲さがキャンバスに広がり、圧倒される。彼の作品の欲動の一部になりたい、或いはそのような人間の欲を手にとるように描ける人間に、自分を見てもらいたいと思ったのであった。

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