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『枯れ葉』を観て。

去年の12月、『枯れ葉』をユーロスペースで観た。カウリスマキの久しぶりの新作とあって、動員はほぼ満員。
過去の名作達は観ても、まさか新作を観ることが出来るとは思ってなかった。
(とりわけ去年はそういう監督達の新作を観れて幸せだ)

いつものように登場人物は無表情で、無愛想。でも感情はしっかり伝わってくる。あ、今笑ってる。あ、今悲しいのかな。とか、彼らに寄り添いながら観ていた。
カラオケを熱唱する人を無表情でずっと見る客たち。笑ってしまった。まあ、笑っていたのは僕と斜め前のおっちゃんだけだったけど。

この映画は2024年の話らしい。撮影当時からは少し未来の話。でも、未だにラジオからはロシアのウクライナ侵攻のニュースばかりで、今と状況は何も変わっていない。ように見える。

主人公のアンサはそのニュースに憂鬱として、仕事先もクビになり、電気代を気にしてラジオの電源を切ってしまう。
ホラッパはアル中で、どうしようもない。
酒を飲み過ぎて落ち込む理由が、酒を飲みすぎる。というのには笑った。ダメなやつだなあ。

世界と彼らを繋ぐのはこのラジオしかない。
でもこのラジオがあるからこそ『枯れ葉』の世界は広がっている。僕らと世界は無関係じゃなく、同じなんだと気付けた。
何よりラジオというのが良い!主張しすぎず、でも確実に繋げている。カウリスマキすごいなあ。

カウリスマキ曰く、この映画は愛が勝つ映画なのだという。確かに今までの彼の映画は、ラストは悲壮感漂うものが多かったように思う。
ウクライナ侵攻が起きて、カウリスマキに何か気持ちの変化があったのだろうか。
こんな時代だからこそ、愛は勝つのだと言いたかったのかもしれない。
おそらく映画の歴史の中でもトップクラスにささやかなハッピーエンド。
ラスト、アンサの下手くそなウインクが素晴らしい!あのウインクこそ、カウリスマキ流の不器用で優しい愛の証明なのだと思う。
ほんと、二人共幸せになって!ホラッパもう酒飲むなよ!

カウリスマキの『枯れ葉』のコメントが大好き。
世界の映画作家に対しての敬意を示したけど、無惨にも失敗しました。って言ってしまうあたり、お茶目な人だなあというか。
ジャームッシュの『デッドドントダイ』、映画館に貼られているポスター(ゴダールの気狂いピエロ、ブレッソンのラルジャン、、、全部は分からなかったのが悔しい)、小津の赤色、チャップリンの名前とか。確かに、失敗といえば失敗なのかな?
でも、カウリスマキの映画に対する、または映画作家達に対する限りなく深い愛情は伝わって、それだけで好きになる。

フィンランドに彼が作った映画館にもいつか行ってみたい。そんで、あわよくばそこにカウリスマキがいて、酒でも飲んでいたら一緒に飲んでみたい。
『枯れ葉』、超良かったです!とか言ってみたい。映画の話で盛り上がれたら、もう最高ですよね。

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