見出し画像

【法律初学書講座①】民法のつまずきポイント

なぜ初学者は民法でつまずくのでしょうか。

民法でつまずく人はたくさんいます。

法学部1年の講義意思表示、詐欺、心裡留保、虚偽表示……
一体何が行われているのかわからない。私も同じような思いをしました。

◾️対抗関係

まず、民法で最初からつまずくの防ぐポイントが1つあります。対抗関係を正確に理解することです。

そして、対抗関係と混同しやすい虚偽表示即時取得の場合と比較することで、これを理解しましょう。

対抗関係とは、たとえば、家や土地などの不動産をAさんが持っているとします。

このとき、Aさんがその不動産を同時期にBさんとCさんに売ってしまったとします。

しかし、その当然のことながら、BさんとCさんのどっちかしかその不動産を取得することはできません。所有権は1人の人にしか存在し得ないからです(所有権を2人以上の人に分属されている形態を「共有」といいますが、これは意思表示や相続などの法律上の根拠が必要です。)

このように、1つしかない所有権を2人以上の人が相争う関係のことを対抗関係といいます。
(もっとも、所有権に限られません。所有権に限られず1つしかないものは二重に譲渡された場合は対抗関係になります。)


(公式LINEはこちらから)

◾️虚偽表示

これと混同しやすい場面として、虚偽表示の善意の第三者があります。

虚偽表示とは、財産隠しなどの理由から、AさんとBさんの間で、AさんからBさんに不動産譲渡したと見せかけるための契約書を結んでいたとします(この契約書に虚偽の意思表示があるため、虚偽表示といいます。)。

しかし、この不動産契約書は、虚偽表示である(真に所有権を移転する意思がなく仮装のために意思表示をしている(契約書の締結)にすぎない)ため、無効です(94条1項)。

94条
1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することが  できない。

民法94条

Bさんは、これを奇貨として、Cさんにその不動産を売ってしましました。

しかし、AとBの売買契約は無効(94条1項)であるため、不動産の所有権はAさんにあるのであり、Bさんにはありません。

したがって、94条1項の帰結として、Bさんには所有権がないため、CさんはBさんと不動産の売買契約を結んだとしても、所有権を取得することができないはずです。

しかし、Cさんは、AさんとBさんの不動産の売買契約書を信じて、Bさんから売買契約を結んでいます。普通、CさんはBさんと不動産を買った時点で、他の不動産を諦めてこの不動産を使うために、いろいろな準備(設備投資など)をしたり、取引先とやり取りをしたりしていることでしょう。

この時に、後で、Cさんが不動産を取得できなかったとすれば、非常に困りますし大きな損失を被ります。Cさんを救う必要があります。

このときの救済策を94条2項が規定しています。Cさんは、A B間の契約が虚偽表示であることに善意であれば、AさんはAB間の契約が無効であることに対抗できない=AB間の契約が有効であったと取り扱われることになります、

つまり、CさんがAさんに不動産を引き渡すように請求したとき、Aさんは「あの契約無効でした」と主張することができません。A⇨B⇨Cの売買契約があったことになるのです。

これは勘違いされがちですが、対抗関係ではありません。たしかに、Bさんを挟んで、AさんとCさんが所有権を相争うという形ではあります。

しかし、要するに、これはA⇨C、B⇨Cの所有権移転が有効かという問題なのです。物権というよりも債権的な問題といってもよいでしょう。

矛盾する2つの移転行為が存在しているわけではありません。あくまでA⇨B⇨Cという所有権が順次移転していく場面の問題なのです。

◾️即時取得

即時取得も対抗関係と混同しやすい問題です。

動産の場合は、他人から物を購入した場合は、善意無過失であれば、無権限者からの場合でも有効に所有権を取得できるというルールです(192条)。

192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

民法192条

例えば、XさんがYさんからパソコンを購入したとします。しかし、Yさんには所有権がなく、Zさんが公園に忘れて置いていったパソコンを拾っただけでした。
このとき、Xさんはパソコンの所有権を持っていないYさんから所有権を取得できないはずですが、Xさんは所有権を取得できるというのが即時取得のルールです。

これもXさんとZさんが所有権を相争う関係に見えますが、虚偽表示の問題と同じで、ZさんからXさんに所有権が順次移転するかという問題なので、対抗関係ではありません。

対抗関係とはやはり、物権的に矛盾する2つの行為があるからです。
(所有者から所有権を移転する2つの行為があるなど。)

◾️まとめ

対抗関係とはどのような場合かということを理解しておくことが重要です。ポイントをまとめると以下になります。

・虚偽表示や即時取得の問題は、無権限者との契約で所有権を取得できるかという問題であって、対抗関係ではない。

・対抗関係とは、物権的に矛盾する2つの行為があることをいう。
(代表的には物の二重譲渡。他には、1つの不動産を2人に賃借した場合も矛盾するので対抗関係となる。賃貸借契約を結んだけど、所有権を持っている賃借人が別の人にその不動産を売った場合も賃借権を譲受人に対抗できるかという問題があるので、対抗関係となる。)


公式LINEでも限定コンテンツ"司法試験学"の情報を提供していますので、ご登録お願いします!






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?