【憲法】違憲審査基準の立て方

閲覧ありがとうございます。今日は違憲審査基準の立て方について説明したいと思います。
(2021年9月27日最終更新
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本記事の目標として、上記『憲法論点教室』の説明よりも司法試験の答案作成に使いやすい説明を目指しています。憲法適合性の判断枠組み決定においてどのような要素を考慮して厳格度を考慮すればいいかという所に特化して説明します。


■違憲審査基準論とは

違憲審査基準論とは、問題となっている事案ごとに、合憲性を判断するための3つの基準を使い分けよう、という試みのことを言います。

最も厳しいものを厳格審査基準、次に厳しいものを中間審査基準、一番緩やかなものを緩やかな審査基準(合理性の基準ともいう)、と言います。

1 厳格審査基準とは①目的がやむにやまれぬもので、②手段が厳密に設定された必要最小限度のものである場合のみ合憲とする基準です。

2 中間審査基準は、①目的が重要で、②手段が目的と(立法事実に基づいた)実質的な関連性を有する場合のみ合憲とする基準です。

3 緩やかな審査基準は、①目的が正当で、②手段が目的達成のために合理性を有している場合に合憲とする基準です。

■審査基準の選択

ではこの3つの審査基準をどう使い分ければよいでしょうか。

まず、一番大切なことを最初に言っておくと、違憲審査基準の立て方に厳密な決まりはないです。

この厳密な決まりがないというのは、違憲審査基準論の弱いところでもあります。しかし、憲法の規定は、例えば「表現の自由は、これを保障する」など、とても一般的・抽象的な原理しか書いてなく、どういう場合に合憲/違憲となるかの基準が書いてありません。そういう抽象的な憲法という法の中である程度の方向性を指し示す点に違憲審査基準のメリットがあります。

なので、厳密な決まりはないというデメリットよりも一定の方向性が示せるというメリットの方が大きいという点で、読んだだけでは方向性がはっきりしない憲法学において違憲審査基準論はとっても重要視されているのです。


厳密な決まりはない、と言えば、「じゃあどうやったらいいんだ」と言われそうですが、審査基準を決める際に考慮すべき要素には大体これ!というものがあります。

1 権利の重要性

まずは、権利の重要性が挙げられます。

例えば、判例に即していうと在外日本人の選挙権を制限する立法を違憲と判断した最高裁判決(最大判H17.9.14)は、選挙権が重要な権利であることを確認して、その制約は「やむを得ないと認められる事由」でなければいけない、という厳格な基準を示しました。

ここで「重要な権利とは何か」という疑問があると思います。
まず1つには、その権利を制約すると、議論を通じて国会議員を選び国会での議論を通じて中長期的な政策を決めていく、という民主主義の政治過程を害したり歪めたりする、という権利は基本的に重要とされます(これは二重の基準論の考え方です)。

代表的なのは表現の自由です。あとは信教の自由や思想・良心の自由などの精神的自由に関するものが挙げられます。

また、人格的価値に不可欠なものも重要とされる傾向にあります。
(人格的価値に不可欠なものとは?という疑問もあると思いますが、実はそれも決まっていません。憲法には偉い先生にも分かっていないことが沢山あります。)

経済的自由に属する職業選択の自由もこの人格的価値と不可分なものと考えられています(薬事法違憲判決)。

以上には属しませんが、国籍法違憲判決は「国籍」重要な法的地位であることを重視して審査基準を厳格にしました(「法的地位」と「権利」は違うかもしれませんが)。国籍法違憲判決については以下参照。


2 その権利の本質的部分か

次に、その権利の本質的部分か、周縁部分かも大事な考慮要素です。

例えば、取材の自由は、表現の自由の精神に照らして、十分尊重に値する、とされます(博多駅事件最高裁判決)。

ある権利について「保障される」とは言わずに、「尊重に値する」と言うときは、権利の本体の部分ではなく、周縁部分として憲法上保障されるという意味です

この周縁部分については、審査基準が1つ緩やかになると考えてもいいでしょう(2つ緩やかになる場合もあるかもしれません)。

3 権利の制約態様

権利の制約態様については、直接的な制約間接的・付随的な制約かを考えて、間接的・付随的な制約なら審査基準を1つ緩やかにする、というのが基本的な考え方です。

間接的・付随的な制約とは、いろんな定義がありますが、「その権利を狙い撃ちにしたのではなく、偶然的に制約が及んだ」ぐらいの意味です。(例えば、君が代起立斉唱事件は思想良心の自由を制約するために「起立斉唱しろ」と言っているのではなく、ただ儀式の円滑な進行のためにやりなさいと言っているから、狙い撃ち=直接的な制約ではない、とされました。


審査基準を緩めた例として、例えば、猿払事件や君が代起立斉唱事件なんかは、表現の自由や思想・良心の自由に対する制約の事案で本来なら「厳格審査基準」が妥当する事案であったにもかかわらず、間接的な制約であるとして「中間審査基準」を適用して合憲にした判決と言えます。

4 立法裁量の広狭

立法裁量が広い分野かどうかは審査基準を緩やかにするかどうかという点で考慮されます。

例えば、経済的自由の積極目的規制は、国会が決めることで裁判所の審査に馴染まないから非常に広い立法裁量があるとされます(小売市場判決)。

他にも、婚外子法定相続分差別判決も、相続制度自体が国会に立法裁量が認められることを審査基準を緩やかにする事情として挙げていると考えられます。

5 その他

以上のような観点を総合的に考慮して、違憲審査基準を決めていただければ大丈夫ですが、あと少しだけ考慮要素になりうるものを挙げておきます。


それは、疑わしい類型の立法かどうかということです。

疑わしい類型の立法とは、例えば国籍法違憲判決の例を挙げることができます。

国籍法違憲判決は、「父母の婚姻」という本人の意思や努力や変えられないこと国籍という重要な法的地位を取得する要件としていることを、審査の厳格度を上げる理由にしています。これは、「疑わしい類型の立法」だからと理解することが可能です。

他の例としては、経済的自由を規制する立法の目的が消極目的規制(害悪発生防止目的)か積極目的規制(経済政策目的)かに着目して前者は厳格に(中間審査基準)、後者は緩やかに(緩やかな審査基準)で判断するという規制目的二分論の考え方があります。

これは、立法の背後に他の動機があるのに、それを隠すために表向きは消極目的を掲げることが経験上多いことを理由に、消極目的規制を厳格に審査するという考え方です。

これも疑わしい立法は厳格に審査する、ことの例だと言えます。

ちなみにこの規制目的目的二分論は、今ではこのような考え方は取られていない、と言われることがありますが、今でも有効だと言っている偉い先生(長谷部恭男先生など)もいますのできちんと勉強しておくといいと思います。


6 まとめ

以上のような考慮要素をそれなりにまとまった日本語で書いて、審査基準の厳格度を決めれば、試験上は問題ないと思います。

また追記すべきことを思いついたらこの記事を更新したいと思います。

閲覧ありがとうございました。


(以下、憲法の定番書籍)



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