【短文で重要判例解説】憲法百選I 26(国籍法違憲判決)

こんにちは。

重要判例を短文で分かりやすくポイントを絞って解説する記事を何件か書きたいと思います。また、試験的にどこを押さえればよいかと言う点にも気を配って解説します。

今日は憲法から国籍法違憲判決です。審査基準定立段階での考慮要素を多く示したという点で、平等原則の判例の中では試験的に最も重要な判例と言えます。


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■国籍法違憲判決 最大判H20.6.4

■事案

事案は簡単です。当時の国籍法3条1項は父母が婚姻して(父親が)子を認知した場合にはその子は日本国籍を取得できると規定しています。しかし、父母が婚姻せずに(父親が)子を認知した場合についての規定がなく日本国籍を取得できないことになってました。
そこで、このような婚姻していない日本人の父とフィリピン人の母の間の子で父から認知された原告が、父母が婚姻した子と婚姻していない子との間の区別は合理性がなく憲法14条の平等原則違反であり国籍法3条1項は違憲であるとして、訴訟を提起しました。
(ちなみに請求は、国を相手方とする日本国籍を有することの確認請求です)。

■判旨のポイント

この判例に関しては、当てはめは「時代が変わったから〜」ぐらいしか書いてなく中身があまりないので、審査密度(審査基準の厳格度)を左右した理由について押さえておくことが大事です。

本件では審査を厳格にするポイントが2つと、審査を緩やかにするポイントが1つあります。これらの3つのポイントを考慮して中間審査基準を採用したと理解しておけば試験的には足りると思います(厳格審査基準を採用したと理解することも可です)。以下、その3つのポイントについて簡単に説明します。

▷1 国籍取得の立法裁量

まず、本件で問題となっている日本国籍取得の要件は立法府に裁量が認められる事項です(憲法10条)。
なので、これは審査基準を緩やかにする事情であると言えます。

▷2 国籍の重要性

次に審査基準を厳格にする事情として、国籍は重要な法的地位であることが挙げられています。
これは、最高裁が明示的に言及しているわけではありませんが、マクリーン事件判決が念頭に置かれていると考えられます。つまり、マクリーン判決によれば外国人には在留制度の枠内でしか基本的人権が保障されませんし、外国人は入国の自由が保障されないので政府から出て行けと言われれば出て行かないといけません(詳しくはマクリーン判決の解説等に当たってください)。

なので、日本国籍を取得できるかどうかはとっても重要な法的地位であると言えます。

▷3 要件が自分で変えられないこと

もう一つ審査基準を厳格にする事情として、「父母が婚姻するかどうか」が、自己の意思や努力によって変えられない事情であることが重視されています。

なぜ、「自己の意思や努力によって変えられない事情である」ことを日本国籍取得の要件にすることが審査を厳格にする方向に働くかは、学説では色々議論があると思いますが、ここでは「それが疑わしい立法だから」と言う理由を挙げておきます。類型的に疑わしい立法だから、裁判所が審査を厳しく行うべきだ、というわけです。後段列挙事由は厳しく審査すると言う有力な考え方もそのような観点に基づいていると言えます。

以上の、3つの審査の厳格度を決定したポイントを押さえておけば、この判例に関してはひとまず足りると思います。

■意味上の一部違憲判決

もうちょっと学習したい人向けに説明すると、本判決が、意味上の一部違憲という違憲判断の手法を採用したことも押さえておけばいいと思います。

これは郵便法判決で初めて用いられた違憲判断の方法の一つです。

法令違憲には、当該条項を全部違憲にしたり、当該条項の文言の一部を違憲にするなどの方法がありますが、もし本件で国籍法3条1項全部を違憲にしてしまっても、日本国籍を取得できる人が減るだけで、原告が日本国籍を取得することができるようにはなりません。

そこで、最高裁は、国籍法3条1項が「父母の婚姻」という余計な要件を設けている条文の「意味」だけを違憲にしました。

このような一部違憲の手法も最高裁は今では普通に行なっていることですが、当時としては画期的な判決だったと思います。

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国籍法違憲判決については以上です。また追記するかもしれません。




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