今度の夫婦同氏違憲訴訟は違憲判決が出るか?

 平成27年12月16日に最高裁の大法廷判決は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定める民法750条の規定について、憲法14条1項に違反しないと判断しました。
 そして、ついこの間、夫婦同氏を定めた戸籍法の規定の憲法適合性を扱った最高裁の大法廷で審理・判決されることが決まりました。

  そこで、今回の戸籍法の方の裁判で違憲判決が出得るか、というのを検討したいと思います。


1) 6年前に合憲判決が出たばかりなのに、短期間で判例変更をして違憲判決を出せるのか。

 実は、この判例変更の期間という点は問題ないと思っております。というのも、過去にもっと短期間に、合憲判決の判例変更を行って違憲判決をした例があるからです。私が今頭に思い浮かべているのは、昭和35年の第三者所有物没収事件判決です。その2年後に判例変更がされて昭和37年に違憲判決がされました。
 この6年の間に最高裁の構成員も入れ替わってることも判例変更の可能性を伺わせます(もちろん、逆に保守層が増えた可能性もなくもありませんが)。また、社会の価値観は6年もあれば大きく変わりますから、国籍法違憲判決や、非嫡出子法定相続分差別違憲判決でもおなじみの「時の経過で社会の価値観が変わってるんだ」という理屈が登場することも考え得るでしょう。

2) 憲法違反であるとすれば、憲法のどの条項に違反するかについて。

 少なくとも憲法24条や憲法14条に違反すると言えるかというと、私は難しいと思います。法は、名前を同じにしなさいと言っているだけですから、婚姻の自由自体を直接的に制約しているわけではないです。また、男女のどちらかに氏の変更を強制しているわけではありませんから、平等条項に反するというのも難しいです。
 確かに、実際の世の中では女性が氏の変更をすることが通例になっていることから女性が「事実上」不平等を強いられており、三段階審査でいう正当化の段階で、比例原則ないし違憲審査基準を用いて違憲審査を行うという見方もあり得ます。しかし、仮に制約があるとしてもそれは事実上の制約であり制約の強度が弱いこと、不平等を強いられているのは女性であり、社会の少数派ではない(男性とほぼ半々存在しているはずですよね)ので、正当な民主的政治過程を経て、つまり立法を通してその差別を是正出来ますから(いわゆる二重の基準の考え方です)、審査密度、ないし審査の厳格度は高くなりません。

 なので、違憲判決を導く可能性があるとすれば13条構成でしょう。例えば、男女ともに氏を変えられない自由・権利というのがある。その自由・権利は重要な法的地位であり13条によって保障されているんだ。だから立法に合理性があるかどうかを厳しく審査しないといけないんだ、という具合にです。
 しかし、なぜ氏を変えられない権利が重要な法的地位なのか、という理屈づけをどうするかというのは結構難しいことだと思います。それでも14条、24条構成よりは13条構成の方が違憲判決の現実味がある構成だと言えるでしょう。

3) 憲法違反であるとすれば、同氏を定めている法律の効力はどうなるか。

法は、「どちらかの氏に定めなければならない」と定められています。この規定を憲法に反するとして最高裁がそのまま無効にしてしまえば、「どちらかの氏に定め」ることが出来なくなりますので、現在の強制的同姓から、強制的別姓制度に移行することになります。しかし、そんなことをしてしまうと、社会が大混乱しますし、民主的正当性の乏しい裁判所がそのような立法作用に近いことをしてしまったら国会単独立法の原則(憲法41条)に反するのではないかという疑問があります。なので最高裁はこういう判決を出さないと考えられます。

 では、意味上の一部違憲判決(国籍法違憲判決参照)を出して、「どちらかの氏に定めなければならない」という法文の「意味の一部」を無効にして、「どちらかの氏に定めることができる」という規定に替えてしまい、選択的夫婦別姓制度に移行することができるでしょうか。
 が、これも難しいと思います。やはり、上と同じように、社会が大混乱してしまいますし、裁判所による立法になってしまうおそれがあります。最高裁がこのような意味上の一部違憲判決を出すとも到底考えられません。

 では、最高裁が違憲判決を出すとすれば、どのように効力を設定するでしょうか。
 私の推測では、おそらく、「違憲状態」という判決を出すのではないかと思います。これは、投票価値の不平等を理由とする選挙無効訴訟においても最高裁がよく出す判決です。選挙区割が違憲だからと言って最高裁が選挙区割を作るわけにはいけませんから、最高裁としては国会で選挙区割を替えてもらうのを待つしかありません。この夫婦同氏違憲訴訟でも、いくら夫婦同氏強制が違憲だからと言って、最高裁が勝手に(選択的)夫婦別姓制度に変えてしまうことは出来ません。最高裁としては、違憲状態という判決を出して国会に警告を出して、法改正を促す、ということがこの場合の限界だと思います。そして、そういうことは十分あり得ることだと思います。

という予想を立ててみました。もし外れてても予想が外れたというだけのことですので、大目に見てください。

(R2.1.17 ver1.0)





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