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モノローグ『透明人間
第3稿
最初は、それは、びっくりしましたよ。
だって、みんな、人型の水のかたまりみたいな感じで、まるで透明人間なんですよ。
まあ、服着てるし、実際に透明に見えるのは顔と手だけなんですけどね。
ええ、服はもちろん透明には見えません。お化粧や、染めた髪も色付きで見えるんです。透明な肌に無表情なお化粧だけが浮かぶのは、かなり気味が悪いんですよね。それから、目。瞳だけが色付きなんです。まん丸の、まるで魚の目。これが一番気味悪いんです。
えっ、私の体はもちろん色付きです。
あの、私、色付きですよね?
そうですね。テレビの映像でも、鏡の中でも、おんなじです。
やっぱり透明人間ですね。
だから、外じゃ、顔だけだと、誰だかわからないんですよね。
学校なんて、みんな同じ制服だったし。
えっ、それは誰も信じてくれませんよ。
だって・・・、透明人間ですよ。
最初は、誰も。
親友も両親も。
自分でも信じられなかったくらいですからね。
でも、あまりに私が真剣に話すものだから。
冗談で言ってるわけではないことはなんとか理解してもらえたみたい。
両親には。
・・・一応ね。
親友とは、だんだん話もしないようになりましたね。
だって、透明人間ですもんね。
それからは必死だったですね。特に母が。
有名な眼科はもちろん、脳神経内科や、心療内科でも診てもらったし。
そして、病院や薬ではどうにもならないことがわかると、こんどは神や仏の出番でした。
ご利益があると聞けば、お祓いでも、ご祈祷でも、片っ端から何度も受けに行ったわ。
大祓詞(おおはらえことば)なんて、もうすっかり暗唱できるほどよ。
でも、やっぱりだめ。
何度も、気のせいだ、錯覚だと思おうとしたけど、どうしてもだめ。
本当にみんな、透明人間にしか見えないの。
ほんとに、どこで間違っちゃったんだろうね。
私の、なにが悪かったんだろうね。
あんなに明るかった母が、すっかり口数が少なくなったのも、
こんなにやつれてしまったのも、全部私のせいなのよね。
今はもう、そのことは、あまり言わないようにしています。
(ため息をついて)
私だけなんですかね。こんな風に見えてるのって。
今の仕事ですか。
コールセンターでオペレータをしています。
そうそう。電話をうけて、電化製品の操作方法なんかを説明するあれですね。
人相手の仕事はムリだと思っていたんですけど、電話だと問題ないですから。
まあ、たいていはクレームの電話なんですけど、そうやって人と話していると、その間は透明人間のこと、忘れていられるんですよね。普通の人間でいられる。
それに、こういう仕事だと、あまり、人付き合いしなくても済むんです。
それこそ、上司の顔色を伺う必要もないですから。
やっぱり、寂しいですけどね。友達もできないし。
彼氏なんて、もうとっくに、あきらめてしまいました。
そもそも、出会いがないですからね。
だって、周りはみんな透明人間なんですから。
あなた方だって、私の話を面白がっているだけで、ほんとうに信じてるって訳じゃないんでしょ。私の話を聞きたいってモノ好きは、おおかれ少なかれみんなそうだもの。ふぅ。
そういえば、こんな話、どうしてわざわざ聞きに来られたんですか?
え、それって本当ですか?
私だけじゃない?
みんなで共同生活をして?
宗教みたいな?
研究?
本当ですか?
私も、そこで?
あの、私が行ってもいいんですか?
ええ、もちろんです。ぜひ参加させてください。
あれ、お母さん。どうして泣いてるの?
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