サンスクリット原典で、読んで、学んで、深めるヨーガ!第925号『ゲーランダ・サンヒター』1:16

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  サンスクリット原典で、読んで、学んで、深めるヨーガ!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 2021.12.08.◆第925号◇

  目次 

     ◎ ゲーランダ・サンヒター 1:16

◆ 本文 
◆ 単語の切れ目・意味
◆ 原文の語順訳
◆ 日本語訳
◆ ポイント解説


=◎ ゲーランダ・サンヒター 1:16 =================

◆ 本文(原文)

वातसारं परं गोप्यं देहनिर्म्मलकारणम्।
सर्वरोगक्षयकरं देहानलविवर्द्धकं॥१६॥
vātasāraṃ paraṃ gopyaṃ dehanirmmalakāraṇam
sarvarogakṣayakaraṃ dehānalavivarddhakam (16)

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◆ 単語の意味(連声を切った後の、各単語の意味)

vāta 風、風神、ヴァータ
sāram 追い払う、破壊する
param より優れた、最上の、最善の、最大の
gopyam 隠されるべき、保護されるべき
deha 身体
nirmmala 汚点の無い、無垢の、潔白な、純潔な
kāraṇam 生じる、なす、原因、動機

sarva 全ての、一切の
roga 病気、疾病、患部
kṣaya 減少、衰微、喪失、破壊
karam なす、行う、生じる
deha 身体
anala 火、アグニ
vivarddhakam 増長、増益

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 ◆ 原文の語順訳(原文を原文の語順と発想ままで読むための訳)

  ヴァータ・払うことは、最上の、秘匿すべき、身体・清浄・為す、
 全て・病気・消滅・為す、身体・火・増長する。

 ◆ 便宜的な意味(上の訳を自然な日本語の語順、流れになおした訳)

 ヴァータサーラは、最も秘匿すべき法であり、身体を清浄にし、
 一切の病気を破壊し、身体のアグニを増大させる。

    
 ◆ ポイント解説

アンタルダウティの筆頭に挙げられた、ヴァータサーラ解説の続きです。前節では具体的な方法が説かれていましたが、こちらではその効用が説かれています。内容がわかりやすいように、前節と改めて、訳だけ並べてみましょう。

 以下が、ヴァータサーラである。
 口を烏の嘴のようにして、空気をゆっくりゆっくりと飲むべきである、
 腹部を震わせてから、ゆっくりと下方より解放すべきである。(15)

 ヴァータサーラは、最も秘匿すべき法であり、身体を清浄にし、
 一切の病気を破壊し、身体のアグニを増大させる。(16)

この節ではまず初めに「paraṃ gopyam」と言っています。これを「最も秘匿すべき」としましたが、原文で読むと、どこかで見覚えがありませんか?私のプラディーピカー解説をお読みの方でしたら、どこかでこの点について詳説したので記憶に残っていらっしゃる方がいらっしゃるでしょうか。

これは1:11で登場した表現で、プラディーピカーではそもそもハタヨーガそのものをこのように秘密にすべきと言っていたのでした。こちらゲーランダではハタヨーガという表現を用いていず、このように個々の行法にこの表現を用いていることになります。

「身体を清浄にし」の「清浄」は既に触れた「nirmmala(nirmala)」ですね。これは綺麗にするとも読めますし、アーユルヴェーダ的な観点から「マラを除去する」などにも読めると書いたのでした。

ここで後半の「病気をなくす」「アグニを増大させる」という表現がより身体の医学的観点からの表現であることに鑑みれば、「nirmala」もより医学的な観点で説かれていると読むことが可能ですよね。これもさらに読み進んで検討しても良い点でしょう。

「全ての病気を破壊する」という表現もお馴染みではと思います。これを単に表現の綾と読むか、実際にその効用を読むかでかなり読み方が違ってきますね。

そして最後に「dehānalavivarddhakam」と結んでいます。訳では「身体のアグニを増大させる」としたのですが、「アグニ」とした元は「anala」で直訳すれば語順訳にあるように「火」です。翻訳はこれをアーユルヴェーダ的な表現と読んであえて「アグニ」とした、ということですね。

これも私のプラディーピカー解説をお読みの方でしたらお馴染みの表現と思い、例えば、1:29のパシュチマターナ・アーサナ解説には「jaṭharānalavivardhana 胃の火の増大」と、こちらゲーランダのこの部分と「deha」が「jaṭhara」に置き換わった表現をしており、より「胃」に特化したわかりやすい表現となっています。

また似たような表現は2:65のバストリカーでも登場しています。また表現は違いますが、「アグニ」という観点からは2:34のナウリ解説でも登場しており、そうなると、お腹を動かすナウリでアグニを活性化させることと、こちらヴァータサーラでも、空気を飲み込みつつ腹部を動かすと言われていたのがアグニを増大させると言っているのとの共通点から、なぜこのヴァータサーラがアグニを増大させるのかの意味の一端も読み取れそうですよね。

他にもこのアグニという観点でプラディーピカーを読み返しつつこのゲーランダと照らし合わせるとなかなか面白いことがわかりますので、改めてアグニを軸にプラディーピカーを読み直してみるのも面白い読み方かもしれません。

例えば、1:29のパシュチマターナにも、やはり同様の「胃の火を生じさせる」という表現があります。逆に考えたら、なぜパシュチマターナにこの胃の火を生じさせる効用があるのでしょうか?胃の火を生じさせるという要素から逆算して考えると、パシュチマターナを行う際に必要な操作が逆に読み取れるわけで、実は動作解説にはその動作が説かれていないのですね。

プラディーピカーの作者さんは、パシュチマターナを行じる時にはその点の意識があり、意識しながら、その点に関しての実際の身体操作があってのこの表現、と言えるのではと思い、もしかしたら表立っては説かず、「胃の火を生じさせる」という表現によって、秘伝的に、「この表現でわかる者はわかるであろう」という読みとれる者だけに伝えるという方法を取ったのかもしれません。

このように、ある教典では表現が簡潔ゆえに、その部分だけを読んだだけでは読みにくい点が多々あり、それを同じ教典内の離れた部分で補足して読んだり、またこのように異なる教典間で補足して読むことが、深く、立体的に読むには重要な読み方となってくると思います。

そして、さらっと読み流してしまったような部分にも、よく読めば、上でパシュチマターナについて深読みしてみたように、深い意味が隠されている場合もあるかもしれないのですね。一度読んだだけで読み終わったと思い込む危険性もこれでよくわかるように思います。

その点で既にプラディーピカーやヨーガスートラなどを読み終わっているので、比較検討の手持ちのカードが多少はあると言え、この教典だけを読むよりは深く読めると思い、今後もこのような読みをご紹介してみたいと思います。

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  詳細解説はブログで

  https://note.com/sanskrit/n/n4ede84f58576

                       (第925号 完)
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         発行者  誠  samskritamakoto@gmail.com

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