サンスクリット原典で、読んで、学んで、深めるヨーガ!第1012号『ゲーランダ2:38

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  サンスクリット原典で、読んで、学んで、深めるヨーガ!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 2022.03.20.◆第1012号◇

  目次 

     ◎ ゲーランダ・サンヒター 2:38
◆ 本文 
◆ 単語の切れ目・意味
◆ 原文の語順訳
◆ 日本語訳
◆ ポイント解説
◆ 編集後記


=◎ ゲーランダ・サンヒター 3:38================

◆ 本文(原文)

画像1

atha vṛṣāsanam
yāmyagulphe pāyumūlaṃ vāmabhāge padetaram
viparītaṃ spṛśedbhūmiṃ vṛṣāsanamidaṃ bhavet (38)

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◆ 単語の意味(連声を切った後の、各単語の意味)

atha さて、それでは
vṛṣāsanam ヴリシャ・アーサナ、ヴリシャーサナ
yāmya 右の
gulphe 踵
pāyu 肛門
mūlam 根、付け根
vāma 左、左手にある、曲がった
bhāge 部分、割り当て、一部
pada 足
itaram 反対の、他の

viparītam 反対にされた、反する、反対の、逆の
spṛśet 触れる、接触する、達する
bhūmim 大地、土地、国土
vṛṣāsanam ヴリシャ・アーサナ、ヴリシャーサナ
idam これ
bhavet ~である

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 ◆ 原文の語順訳(原文を原文の語順と発想のままで読むための訳)
  
  さて、ヴリシャ・アーサナである。
  右・踵に、肛門の付け根を、左・部分に、足・他方を、
  反対に、触れるべきである、大地に、ヴリシャ・アーサナ、これが、であろう。
  
 ◆ 便宜的な意味(上の訳を自然な日本語の語順、流れになおした訳)

  以下が、ヴリシャ・アーサナである。
  右の踵に肛門の付け根を、左には他方の足を、
  逆にして地面に触れさせるべきである、
  これがヴリシャ・アーサナである。

 ◆ ポイント解説

ガルダの次、ヴリシャ・アーサナです。ヴリシャとは牡牛のことで前に出てきたヴリクシャとは一字の違いで意味が全く異なります。ちなみにヴリクシャは木、樹木でしたね。

この節も既出の単語や表現がいくつもありますが、「pāyumūla」もそのひとつで、2:11のムクタ・アーサナ解説で登場しています。その解説では触れなかったのですが、訳では「肛門の付け根」としたこれがどの部分なのかも読解のテーマのひとつとなりそうで、ここでそれを考察する2枚目のカードが配られたことになります。

ちなみに、佐保田さんはこれを「会陰」と訳されています。これもひとつの解釈ですね。この訳からは、原文を確認しないと原文が「pāyumūla」であることを類推することは難しいと思います。

Chandra VasuさんとJames Mallisonさんはどちらも「anus」としており、こちらは「mūla」を含めて肛門と解釈しているわけで、単語ひとつでも解釈がわかれる例がここにもありますね。

さらに余談ですが、佐保田さんは2:11のpāyumūlaを「肛門(又は性器)」と訳されています。つまり同じ単語で訳が違うのです。

これは吟味を経たうえで訳し分けられたのか、それとも両者を訳すときに単語が同じであることに気づかず、訳語が不統一になってしまったのかはわかりませんが、不統一であることには違いありません。

これも訳語が違えば、両者の元が同じpāyumūlaであることを類推することはまず不可能ですよね。

読者さまにおかれては、ムクタとヴリシャのpāyumūlaが違うのか、同じなのか、違うとすればなぜ違うのか、同じだとすればどの部分を指すのか、どう訳せばよいのか、などご考察くださればと思います。

そして、これ以降は私の考えですが、部位が会陰か肛門かどうか、また他の部位はひとまずおくとして、ムクタとヴリシャの両者は同じ部位を指していると考えます。そうすると、ムクタとヴリシャとは、片足の操作は同じで、もう一方の足の操作が異なる、ヴァリエーションのひとつと見立てることができますね。改めて両者の原文と訳を並べてみます。

 atha muktāsanam
 pāyumūle vāmagulphaṃ dakṣagulphaṃ tathopari
 samakāyaśirogrīvaṃ muktāsanantu siddhidam (11)

 以下が、ムクタ・アーサナである。
 肛門の付け根に左の踵を、その上に右の踵を据え、
 胴体と、頭、項を真直にする、これがまさに
 シッディをもたらすムクタ・アーサナである。

 atha vṛṣāsanam
 yāmyagulphe pāyumūlaṃ vāmabhāge padetaram
 viparītaṃ spṛśedbhūmiṃ vṛṣāsanamidaṃ bhavet (38)

 以下が、ヴリシャ・アーサナである。
 右の踵に肛門の付け根を、左には他方の足を、
 逆さにして地面に触れさせるべきである、
 これがヴリシャ・アーサナである。

pāyumūlaにつける足の左右に違いはありますが、ムクタでは反対の足を乗せるのに対して、ヴリシャでは反対の足を逆にして地面につける、という対照がなされていることがわかります。

とすると、ヴリシャにもムクタで説かれた「胴体と、頭、項を真直にする」などが当てはまるのでは?とも読めますよね。もっともこれは対照からの類推にすぎず、作者さんがそこまで意識したかどうかはわかりませんが、そのような読みも可能になるということです。なにより、同じと読んだ方がこのようにすっきりと解釈ができますよね。

このように、ある単語が登場したら、訳語の選択には注意が必要で、同じ単語はよっぽどでない限り共通にしたほうが、良い解釈、良い訳になるのではと考えます。

ただ、文脈を吟味したうえで違えて訳しているのでしたらそれはそれで一定見ですが、読者にはそのことがわかりませんよね。その点で原文の掲載も必須ではと、これは私の考えで、私の著作は全てこの考えのもとに原文を掲載しているというわけです。

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  詳細解説はブログで

  https://note.com/sanskrit/n/n4ede84f58576

                       (第1012号 完)
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         発行者  誠  samskritamakoto@gmail.com

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