サンスクリット原典で、読んで、学んで、深めるヨーガ!第968号『ゲーランダ・サンヒター』1:57

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  サンスクリット原典で、読んで、学んで、深めるヨーガ!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 2022.01.24.◆第968号◇

  目次 

     ◎ ゲーランダ・サンヒター 1:57

◆ 本文 
◆ 単語の切れ目・意味
◆ 原文の語順訳
◆ 日本語訳
◆ ポイント解説
◆ 編集後記


=◎ ゲーランダ・サンヒター 1:57 ================

◆ 本文(原文)

पूरकं रेचकं कृत्वा वेगेन न तु चालयेत्।
एवमभ्यासयोगेन कफदोषं निवारयेत्॥५७॥
pūrakaṃ recakaṃ kṛtvā vegena na tu cālayet
evamabhyāsayogena kaphadoṣaṃ nivārayet (57)
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◆ 単語の意味(連声を切った後の、各単語の意味)

pūrakam 満たす、充満する、吸息、吸気
recakam 解放する、吐き出す、呼気
kṛtvā する、為す
vegena 衝動、力、速力、速度
na ない
tu しかし、また
cālayet 動揺させる、震わせる

evam このような
abhyāsa 付加、反復、実行、応用、常習、習慣、アビャーサ
yogena 実施、使用、手段、ヨーガ
kapha 粘液、痰、カパ
doṣam 欠点、欠陥、短所、過失、汚点、ドーシャ
nivārayet 防止する、阻止する、防ぐ、避ける、止める、除外する、追放する

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 ◆ 原文の語順訳(原文を原文の語順と発想のままで読むための訳)

 ピンガラーによって、満たして、再び、月によって、解放するべきである。
吸気を、呼気を、為して、力によって、ならない、しかし、動かすべきである。
このような、実践・実施によって、カパ・ドーシャを、除かれるであろう。

 ◆ 便宜的な意味(上の訳を自然な日本語の語順、流れになおした訳)

 吸気と呼気とを為して、性急に行ってはならない。
このような反復実践により、カパドーシャが除かれるであろう。


 ◆ ポイント解説

前節に続くヴァーマ法のカパーラバーティ解説です。改めて前節と訳のみを並べてみます。

以下が、ヴァーマ法のカパーラバーティである。
 イダーによって空気を満たし、またピンガラーより解放するべきである。
再び、ピンガラーによって満たし、月によって解放するべきである。(56)

吸気と呼気とを為して、性急に行ってはならない。
このような反復実践により、カパドーシャが除かれるであろう。(57)

前節では唐突にイダーとピンガラーとが登場し、またさらに月という謎めいた言葉まであったのですが、今号の節と比較することによりわかる部分が出てきますね。

今号の節では「pūraka」と「recaka」、つまり息を吸うことと吐くこととより具体的に表現されていて、これが前節の「満たす」「解放する」に当たる単語であろうことが読み取れます。

そして前節ではイダーとピンガラーとが前半に登場していますが、後半ではピンガラーと月とが対比させられていましたので、前半と比較すると、イダーが月に当たるのではと推測することができます。

こちらゲーランダでは少しわかりにくい記述となっていますが、プラディーピカーでは2:7からのプラーナーヤーマ解説で、このイダーとピンガラー、また月、さらにゲーランダのこの部分では登場しない「太陽」があり、さらに右と左という記述まであって、何がイダーとピンガラー、また月と太陽なのか、さらにどちらが右でどちらが左なのかが文脈でわかるように説かれていたのですね。そのあたり解説に詳しく書いてありますので、私のプラディーピカー解説をお持ちの方はそちらをご参照くださればと思います。

またプラディーピカーではこのカパーラバーティは2:35から3節にわたって解説され、プラーナーヤーマとの関連なども含めてより詳細に説かれていたのでした。そちらも併せてお読みくださればと思います。

後半の「evamabhyāsayogena kaphadoṣaṃ nivārayet」は、このまままるまる既出です。どこで登場した表現でしょうか?

最後の「kaphadoṣaṃ nivārayet」は間近の1:55、このカパーラバーティ解説に登場した表現であり、その時に触れたのですが、1:34の頭蓋孔のダウティに登場したのでしたね。それが今度は後半がまるまる同じに用いられているわけです。

1:55の解説で、同じカパーラという単語が登場する行法で同じ効用が説かれていることに何らかの共通点を見出せると書いたのですが、さらに共通部分を多くすることで、それが強められた形で説かれていることになります。

ちなみに、佐保田さんの訳では、イダーとピンガラーとのくだりをあらかじめ「左の鼻」「右の鼻」と訳されています。佐保田さんの訳では原文の提示が無いため底本で原文がどうなっているのかわかりませんが、おそらく同様にイダーとピンガラーとなっているのではと思い、それをわかりやすいようにこう訳されているわけですね。

原文の提示があるChandra Vasuさんの訳でも同様で、「left nostril」「right」としています。こちらは原文があるので、イダーとピンガラーとをこう置き換えたことがわかるわけですね。

結果的にはそう解釈できるかもしれませんが、原文の提示が無い場合、原文に「左の鼻」「右の鼻」となっていると読めてしまい、原文がイダーとピンガラーとであることを類推することはまず困難ですよね。そうするとそこからイダーとピンガラーとについて深く考察することができなくなってしまいます。

もし他の部分で登場したら、そちらと関連があると考えられますよね。さらに上にプラディーピカーでの登場例を書きましたが、そちらのイダーとピンガラーとの部分と比較参照することができなくなるわけです。

さらに言えば、ナウリ解説でラトナーヴァリーでは内のナウリとしてイダーとピンガラーとを動かすというくだりがあったことをご紹介しましたね。そちらはあきらかに「左の鼻」「右の鼻」ではありませんよね。

プラディーピカーでもイダーとピンガラーとは呼吸に関する記述だけで登場するわけではなく、さらに重要と思われる部分でも登場していますので、やはりここはたとえ「左の鼻」「右の鼻」とするとしても、原文の提示がないのであれば、解説で補足するなどの配慮があったほうが、より深い読みができる、というより原文の意図に沿った読みができる訳になるのではと感じます。

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  詳細解説はブログで

  https://note.com/sanskrit/n/n4ede84f58576

                       (第968号 完)
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         発行者  誠  samskritamakoto@gmail.com

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