【特集】 学研トイ・レコードメーカーはアートシーンを変えるか?


 6月も下旬になり、一時期熱狂の渦を巻き起こした「学研 大人の科学 トイ・レコードメーカー」に関しての話題も表向きは下火になってきました。

 昨年冬の予約段階、そして、初版が出た3月ごろ、それから重版の出た6月頭に「どっかーん!」とマニアには話題になり、そしていよいよニュースや記事などが減少してきた今日この頃です。

https://gakken-mall.jp/ec/plus/pro/disp/1/1575072200

 実は学研さんの公式ショップでは、本誌はすでに売り切れで、あとはamazonなどで増量版・通常版の在庫があり、各書店等での在庫かぎりでなくなることが予想されます。

 メルカリなどでは、一部中古品も出回っていて、「実際にレコードをカッティングして、まあこんなものかと満足した」人たちが、組み立て済みのものと残りの空メディアを販売しているもよう。

 このガジェットに気付かなかった人、乗り遅れた人たちにとっては、いよいよ入手の最終チャンスと言えるかもしれません。


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 さて、このガジェット、「レコードを彫ってみたい!」というコアなファンが飛びついたために、まさに「初期衝動」と呼べるような商品になりました。すでに壮年をはるかに通り越した「オーディオマニア」さんたちや、レコードにもともと親和性の高い「DJ・ミュージシャン」さんたちの間で話題になり、そもそも高度な技術と高いコストを要した「レコードカッティングができる!」という体験そのものが魅惑的だったというわけです。

 ところが一方で、ものすごい低評価や残念がっかり感も生み出しているようです。というのも、しょせんは「トイ」レベルで、CDやハイレゾ音源に慣れた現代人からすれば聴くに耐えない(まるで戦前のような)ローファイ(とすらも呼べない、という説も)音にしかならないものですから「なあんだ、こんなおもちゃか」という感想もおなじくらい増えているのですね。

「こいつは面白い!」 と 「なんだこれ、こんなのかよ!」

の格差がこれほどまでに大きい商品は、珍しいのではないでしょうか。


 レコードメーカーというのは、ホンモノであれば業務用の品です。もちろん、個人で録音を楽しむ製品も昔々にはありましたが、スマホに録音したり、ICレコーダーやカセットテープが(まだ)あるのですから、レコードを彫ることは個人の楽しみとしてはちょっと焦点がズレていることは否めません。

 イーディオファンが飛びついたのは「あの業務用で何百万もするマシンの体験ができる!」ということです。ミュージシャンが飛びついたのは「再評価されているレコードを自分で作れるって、面白いじゃん!」ということです。

 ですから、そもそもこのガジェットを触る人たちの、原点というか目的というか、目指しているところがいろいろ乱れているさまが面白いのかもしれません。

 そういう意味では、「高品質で自分の音源をレコード化してコレクションしたい」とか、「レコードを製品として販売したい」とかいった目的には、ぜんぜんちっとも当てはまらないことになります。そこがまた、評価を2つに分けている原因ではないでしょうか。


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ところで、海外では

https://ezrecordmaker.com/

 このガジェットは「大人の科学のふろく」ではなく、EZ Record Makerとして、現在予約受付中。

 どれくらい海外展開できるのか、需要があるのかを推定している真っ最中だと思います。

 日本においては、この製品は「大人の科学」のラインアップで販売されましたが、実はアーチストのSUZUKI YURI さんの個人的なアート作品を学研がコラボして商品化したもののようです。

http://www.yurisuzuki.com/design-studio/easyrecordmaker


 スズキユウリさんは、明和電機さんの弟子というか、アシスタントからどんどんアーチストとして一人立ちしていった人で、「地下鉄の路線図を回路にしたラジオ」とか、アート(音楽)とテクノを融合した作品をいろいろ発表しておられます。

 トイ・レコード・メーカーの本誌では「低温で溶けるプラステックを流して、自分だけのレコードをプレスするワークショップ」とか「指でなぞるレコードプレーヤー」とか、かなり面白い作品もいろいろ取り上げられていました。


 トイ・レコード・プレーヤーをそうした「アート作品」として見ると、また違ったものが見えてきます。そこには元々「高音質のメディアがどれくらい自分で彫れるのか」とか、「販売できるような業務クオリティのレコードが作れるか」といった観点とは異なるものがあるのだ、ということです。

 逆に、「あんなものやこんなものに彫ったらどんな音になるのか」とか、「まちかどのライブでそのまま彫ってみる」とか、違う切り口が浮かんできます。

 どちらかというと、ここ数年来ずっと続いている「メイカー・ムーブメント」の延長線上にあると考えたほうがよいかもしれません。

(その意味では、この商品をはじめた知ったときに、私がZineを思い出したのは、そちらに近いからだと思います)

 もし、EZ Record Makerが海外でもヒットすると、今度は国内とはちょっとちがうシーンが見られるような気がします。

 おそらく公式のブランクメディアがなくなっても、「ありとあらゆるものに彫られたレコード」が登場するでしょうし、自作のレコードがくっつけられた手作りのアート作品がいろいろと登場するでしょう。

 あるいは自作のプレーヤーに乗っけられた作品や、へんてこな機構で鳴らされるような作品も出てくるかもしれません。

 はてさてどんなアートが飛び出すのか、楽しみでもあります。

 

 


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