見出し画像

三線・三味線のソフトケースの弱点を発見したお話


 さてみなさんこんにちは

 私は普段、三線のケースはハードケースを愛用しているのですが、先日はじめてソフトケースを入手する機会があり、そのレビューというか評価をすることができたので、今回はそんなお話です。


 三味線もそうですが、三線ケースといえば「ハードケース」という時代が長く続き、三線業界では「守礼印」のケースが定番として人気でした。

 ところが、コストダウンや、もう少し気楽に持ち運びたいという需要にこたえるために「ソフトケース」が登場してきた経緯があります。

 本来、三味線の世界では、芸者さんなどが「三味線袋」に入れて持ち歩くなんて文化もありましたが、それは江戸時代のお話。現代では通常の奏者であれば

「三味線ケース」

を使います。三つ折収納できるものもありますが、演奏者であればあるほど、弦を外してチューニングが狂うことを嫌いますから、長棹のまま収納できるケースが望ましいということになります。

 三味線の世界も、ギターのようなソフトケースが登場するようになりましたが、やはり皮が張ってある楽器なので、圧力がかからず「空中で保持されるハードケース」が望ましいのではないかな、と感じます。


 さて、三線の場合のソフトケースですが、本皮ならともかく、人工皮だとまず触れても破れないので、ハードケースでなくても持ちこたえる、という側面はあるかもしれません。

 そして、ソフトケースはリュックのように背負えるようになっているので、自転車やバイクなどで持ち運ぶ際の需要にも応えてくれる、ということになります。


==========

 しかし、左大文字の個人の感想ですが、ソフトケースにはやはり危険なポイントがあると判明しました。

画像1

 これがオーソドックスな三線用ソフトケースです。裏面にリュックのような背負える肩バンドがついています。

 今はソフトケースも新型になっていて、ポケットがより大きくなり、A4サイズの楽譜なども入れられるようになっているものが登場しています。

 しかし、そのことよりも、問題は構造ですね。

画像2

 三線ソフトケースは、外側にやわらかいクッション部分があり、それでくるむことになっています。

 なるほど、これで衝撃は分散できそうです。

 そして、棹の部分に2箇所、枕のように載せて保持する部材(これも柔らかい)がついていて、マジックテープで動かないようにできるようになっていることがわかります。

 新型ソフトケースも、基本はおなじ構造です。

 設計上はこれで、

◆ 棹はぐらぐらしない。一定の位置で保持される

◆ 皮面は両側とも、クッションであるケース布面で保護される

ということが確保できているのですが、一点だけ確実に守ることができていない部分があるのです。

それは

「長手方向に対する、曲がり圧力に耐える力が全くない」

ということです。


 どういうことかというと、キットカットを思い出してください。キットカットは長方形ですが、まず縦に2つにパキンと割りますね。あの方向が、横手にかかる力です。

 キットカットは、横手にかかる力が(わざと)弱いので、すぐ割れるわけです。

 長手方向の曲がり圧力とは、半分になったキットカットを今度は、長い部分を半分に折るような力のことを言います。

 両手でキットカットを持って、細くなったものを「ポキン」と折ろうとしても、けっこう持ちこたえることはわかると思います。

 それはキットカットが箱型構造をしていて、この方向の折れ破戒強度が強いからなのですね。


 さて、三線ソフトケースに入っている状態で、ヘッド・天が入っているあたりを搬送中にぶつけたとしましょう。そうすると、長い棹の一番端に力がかかり、長手方向に曲げ破壊しようとする力がかかることがわかると思います。

 ハードケースなら箱型ですから、曲がる力には外箱が耐えてくれますが、ソフトケースはふにゃふにゃなので、曲がる力に耐えるのは「棹自身」ということになります。


 空手家がバットを折るときには、バットの上と下を固定して、真ん中の細くなっている部分に蹴りを入れますが、あれで折ることができるのは、バットも長手方向に対しての、細い部分の曲げ破壊強度が弱いからということになります。特に、上下を固定されて、真ん中に打撃が加わると厳しいわけです。


 天が当たっても、あるいは棹の真ん中の部分が何かに当たっても、基本的には

「長手方向に破壊される曲げ力」

がかかります。特に細い棹の部分に衝撃が加わると厳しいのはバットに似ています。むしろ太鼓の部分、胴の部分への衝撃は、人工皮でかつ鋭利なものに当たらない限りは怖くありません。


 そこで、実例を見てみましょう。

画像3

 これは、あるところでみかけた中古の三線ですが、余計な箇所の画像は加工してあります。

 ちょうど棹の真ん中より胴よりの部分、つまり、棹全長でいえば、ど真ん中のあたりに塗りの割れが見られます。

 これは実は衝撃が加わった跡で、この部分をぶつけたのではなく、両端に対して曲げ破壊圧力が加わったので、反対面の漆塗装が、棹といっしょに曲がり切れずに亀裂が入ったものということになります。

 漆の塗膜は非常に硬く、棹が曲がるといっしょについてゆけません。なので、その部分で剥離してしまうので、この棹には長手に曲がる力が加わったことが判明するのですね。

 通常の使用で、机に平たく置こうとしてゴン!と三線を落とせば、こうなりますが、その時は天神の裏も欠けますから、そうなっていないのにここにヒビが入っているということは、移動中に「天などの端部をケースごとぶつけた」以外にないと思います。

 コナンくんもビックリの名推理ですね。


 さて、この棹、内部が折れているか?と言われれば微妙です。瞬間的な曲げ力であれば、木材は十分に柔軟性があるので、塗膜のみがやられている可能性もあります。

 しかし、愛する三線がこうなってしまってはかなり凹みますし、棹は手をすべらせる部分なので、ひっかかりが生じ、演奏に支障をきたします。


 もちろん、棹にダメージが加わっていることもあり、その場合は音がダメになるでしょう。内部繊維のささくれがビビリを生じさせます。


 こうした事例から、左大文字的には

 三線や三味線のソフトケースは、必要最小限の場面での使用にしましょう

ということをオススメしたいと感じています。

 いや、俺にとっては楽器はダメージがあるほうがビンテージなんだ!という人は、この限りではありませんが・・・。

 個人の感想ですね。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?