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20時、東京タワー

今日から東京タワーのライトアップが変わるらしいよ

今さら、まともに返事が来るとも思えないけど……友だちに連絡しろとしつこく言われないと送ることすら気後れする、とくに目的のないメール。

人数合わせで足を運んだわりと“ハズレ”だった合コンで、社交辞令として連絡先を交換したった1度のデートを盛大に失敗した相手。

iPhone 3GSが発売される直前で、私はまだ2年も使っていないガラケーを持っていた。キャリアメールに写メでコミユニケーションをとるそういう時代。

―――

「返事きた??」
サービス残業を切り上げ、帰る間際に好奇心たっぷりに同僚かつ最近よく夜遊びでつるんでる彼女に聞かれる。
「まぁ……来ないよね……あはは」
メールを送って2時間、おどけてみせても内心はちょっとむなしい。
だって、あんな大失態だ。むしろ、この期に及んで未練がましくメールなんてしなきゃよかった。
「大丈夫、大丈夫。絶対、返事くるよ」
どうしてそんなに楽観的なのか、恋愛偏差値が高いとそうなのか、なんなのか……とりとめのないことを考えてると、携帯の着信音がなった。

そうなんだ

そのそっけなさにすぐに、連絡を取ったことを後悔した。アレから、1週間も連絡なかったから分かってたことなのに、めちゃくちゃダサい。死にたい。
全然、脈がなかったことを結果待ちの同僚に伝えると彼女は首をかしげて、
そんなことないよ、仕事中じゃない?となぐさめてくれた。
それすらもなんだか、ダサい気がした。

「そうだね、ありがとう。もう遅いから進展あったらまた報告するよ」さも気にしてないふうを装って切りあげようとすると、もう一通メールが届く

ホントに変わってる

そっけない1文とともに、今からは考えられないような遅いスピードで画素数の荒いJPEGが1枚表示された。

ヤラれた……!

ライトアップされた東京タワーをぼう然と見つめて、はげしく動揺する私を不審に思った同僚が携帯をのぞいた。
その後、彼女がふざけて吹いた口笛はどこか関係のない場所から聞こえた。

恋に落ちるというのを体感したのは、後にも先にもこの瞬間しか私は知らない。

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