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さんぽ絵日記 材木座文庫

昔から本が好きというよりは、本やさんや図書館が好きだ。本がたくさん並んだ場所で背表紙を見て、自分が好きそうな本を探したり、中をぱらぱらめくって解説や帯を見て、中身を想像してわくわくする瞬間の方が、実際に本を読んでいる時よりも楽しい、ということも多い。そんなわたしにぴったりなのでは、という場所を見つけてしまった。

「材木座文庫」という私設の小さな図書室。ロケーションもいい。材木座の裏路地を入った、歩いてしかたどり着けない細い道の分かれ道の奥の、懐かしい雰囲気満載の一軒家が文庫になっている。

もともと空き家だったところに、小さな子から大人まで、いろんな人が気軽に立ち寄れる場として地域の人の手でリノベーションして作られたらしい。初めて訪れた時に私は普通に引き戸の玄関をがらがらと開けてしまったのだけれど、改装後の入り口はその脇を奥へ入ったところにあって、青緑色の素敵なドアが目印。

スタッフの方の、あまり一から説明するふうでもなく、さりげなく迎え入れてくれる感じがとてもよかった。一階には文庫や鎌倉に関する本があって、ダイニングテーブルのような本を読むコーナーと、こたつもある。二階には漫画もありますよ、と言われて階段を上ると、明るい窓辺にはたくさんの絵本。原書コーナーもあって、奥の和室には私の大好きな手塚治虫氏の「火の鳥」全巻が揃っていた。これは子どもたちに読んでもらいたい。

ほとんどの本は活動に賛同した方の寄付で購入したものや、寄せられたリサイクル本だそう。地元鎌倉に関する本もたくさんあって、ちょっと忙しくて本をじっくり読めそうになかった私も、せっかくだから何か借りようと、東京堂出版「鎌倉辞典 白井永二編」見つけて借りる。鎌倉の地名の由来などが書かれていて興味深い。

そろそろ帰ろうかなと思っていると、先ほどのスタッフの方がコーヒーを入れてくれた。実にさりげなく、「一緒にどうですか」という感じで。オーナーさんとは別に活動に賛同した方がボランティアスタッフとしてここに当番で来ていて、運営は全て寄付でまかなわれているとのこと。絵を描く方がいらしたり、きっと面白い人たちが集まっているんだろうな。帰り際にビンの中にわずかばかりだけれど、寄付を入れて帰る。

帰り道はスタッフの方に尋ねて知った、私も初めて通る道へ行ってみる。津波の避難路という位置付けで地元の人が整備している道だそうで、ありがたく通らせていただく。こんな近くに今まで通ったことがなかった道があるなんて驚いた。藪椿の赤い花がぽたぽた落ちた道を行く。鎌倉は奥が深い。

後日、私が借りた本を返しに行った時には、「みんなの居場所ZAIMOKUZA」という看板も出ていて、二階では数組の親子が語らっていた。ここではときどきワークショップも行われていたりして、子どもも大人も楽しめそうな雰囲気がある。

場の中には入れず、なんとなく様子を伺いながら本棚を眺めていた私のところへ、女の子がひらりとやってきて、肩をとんとんしてくれた。思いがけず優しくあったかい気持ちになったのに、ひとことふたことお話しただけで帰って来てしまったのが心残り。私なんかよりよっぽどあの子のほうが大人だったな。

材木座文庫


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