雨の日スケッチ 3/5

駅から家までの帰路を歩く。
午後から降り出した雨が3月の寒さに輪をかける。
ヘッドフォンからの緩やかなメロディに促され、気づけば私は湿っぽい、この薄暗い夕方に溶け込もうとしていた。
排気口からの幸せな匂いに、寒さでこわばった体がするするとゆるまっていく。
肉じゃがのお宅が一軒。もう少し先に、ピーマンの肉詰めのお宅が一軒。
家々の窓から漏れる光がなぜこうも暖かく、私を惹きつけるのだろう?
特に、こんな雨の寒い日には。


5時間目。空が急に暗くなり、校庭に大粒の雨が降り出す。私はその様を教室で見ていた。まぶしいほどの蛍光灯の光で満たされた教室で。
私の周りにはみんながいて、先生もいた。
外が夜みたいにあんまり暗いから、部屋はいつもより親密さを帯びていた。
雷が落ちても、嵐が来ても、その分だけ教室の明るさは増すような気がしていた。そして私だけでなく、みんなも同じように思っていると確信していた。
外の暗さは決して私のものでも、みんなのものでもなかった。
私たちの、曖昧な連帯を可視化する以外の何ものでもなかった。


今日の天気はあの日とどこか似ている。


これから帰る、私の小さな家には誰もいない。明かりもついていない。
ただあけすけに、外の薄暗さが入り込んでいるのだろう。

帰ったら、電気はつけないままにして、自分の部屋で縮こまろうか。
外とおんなじ、薄暗い部屋。
その静けさがじきに私を覆ってしまっても、今の私には、それが心地良く感じられることは何よりも明らかだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?